「なんだ」
運ばれてきたコーヒーを飲んでいた彼が、ふっと顔を上げる。
その端正な顔へ訝しげに寄せられた眉根に、心が折れてしまいそうになりながらも、
「あの……、私のことは、どう思われているんですか?」
こちらには興味もないのなら、それでもうおしまいにしてもらっていいからと、渇いた口に唾をごくっと呑み込んで尋ねた。
「どう……って、」
今までの感じからしても、即答で「なんとも思っていない」と切り捨てられるだろうと思っていたのに、意に反して彼は持っていたカップをコトッとソーサーへ置くと、考え込むかのように口を閉ざした。
もしも言い方を迷ってるなら、そんな気づかいもいらないんで、どうせなら、こっぴどく振ってもらった方が……。
そんな風にも感じていたところへ、
「……いいと思っている」
思いも寄らなかった一言がぼそりと吐かれて、「……えっ?」と思わず訊き返した。
ところが、聞こえのいい返答に耳を疑った私に、彼はこう言い直した。
「……どちらかと言えば、悪くはない方だと」
一瞬上がりかけた気持ちが、急転直下で落とされた思いがする。
「……なっ!」
わざわざ『悪くはない』と念押ししたかのような言い回しに、さすがにいい気はしなかった。
「その言い方はないと思うんですが。どういうつもりで、そんなことを言われたんですか!?」
つい声を荒げた私に、カフェの他のお客さんらの目が集まる。
「……すいません」
感情的になったことを謝りはしたけれど、彼の今までの言動は大概許せそうにもなかった。
「褒めたつもりだったんだが」
フォローするつもりもないような口ぶりが、カチンときた気持ちにより拍車をかける。
「……わかりました、もう結構ですから。今日は会っていただいて、ありがとうございました。それでは、これで失礼します」
バッグから財布を出して、カフェの代金をテーブルに置く。
「……帰るならば、送っていく」
少しは気にしているのか、やや戸惑うようにも口に出された声に、
「それも結構です。近くなので歩いて帰れますから」
なるべく感情を表には出さないようにして淡々と告げると、背中を向けた。
その背後から、
「……わる……った、な……」
低く呟く声が聴こえた気がしたけれど、もはやヒートアップしていた私には、はっきりとは聞き取れなかった。
そうして、彼──久我 貴仁さんとの初めての顔合わせは、最悪な形で幕を閉じたのだった……。
コメント
1件
口下手なのかもしれないけど、言い方よね😔