宝物をなくした日

阿部ちゃんの屋外撮影に乱入者があったという報せを聞いたのは、俺が仕事を終えた後だった。

そいつは隙をついて駆け込んでくると、スタッフさんに追われて阿部ちゃんと接触した。

その後なぜか阿部ちゃんは執拗にその乱入者を追いかけた挙句、もみ合いになって突き飛ばされ、軽い怪我をしたらしい。

周りの人もみんな驚いて、尻もちをついた阿部ちゃんに何で無理やり追いかけたんだと注意したそうだが、阿部ちゃんは茫然自失しており、話は全く入っていなかったと。

ここまでが受けた連絡だ。

事務所でマネージャーさんに付き添われているという阿部ちゃんを迎えに行った。

🖤「阿部ちゃん」

声を掛けると阿部ちゃんが顔をあげる。

俺を見るなり、疲れ切って光のない瞳から大粒の涙がぼろぼろこぼれ始めた。

落ち着いて思い返したら怖かったんだろうと胸に抱いて宥めていると

💚「めめ、ごめん…なさい」

涙で顔をぐちゃぐちゃに濡らしながら阿部ちゃんはそう言った。

🖤「なに？どうした？」

予想外の謝罪に驚いたけど努めて優しく話しかける。

そんな俺の声を聞いて、阿部ちゃんはいよいよ声をあげて泣き始めた。

こんなに泣く所を見たことがない。

マネージャーさんも困惑気味だし、俺もどうしたものかと思いながらソファに座らせて引き続き抱きしめながら背中を擦った。

合間に何か言っているが、泣きすぎていて聞き取れない。

💚「め…めにもらっ、…ひっ、わっ…えっ、うぐっ……」

🖤「大丈夫、落ち着いてからでいいからゆっくり教えて」