テラーノベル
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カランカラン。
小気味のいい鈴の音とともに、俺は喫茶店のドアを開けた。
そこは、いわゆる穴場というやつで、平日休日関わらず、人はあまり入っていない。
…それが、この店の日常だった。だが、今日は例外だった。
いつも同じ席に座って、コーヒーを嗜んでいる紳士。稀に来ている、オレンジのパーカーを着た軽薄そうな男。そして、マスター。
ここまではいい。
だが、今日は見慣れない客が一人いた。カウンター席に座る、長髪の女性だ。
この店に足繁く通っている俺でも、彼女の顔には見覚えがなかった。
紳士も、今日はどこか落ち着かない様子だった。見慣れない客がいるのだから、無理もない。
女性の白い髪は、サンカヨウの花びらのようにどこか現実離れしている。
俺は、なぜだかその髪から目を離せなかった。
…この後ろ姿。どこかで見た気が…。
いや、恐らく気のせいだ。
昔、似たような背格好のターゲットがいただけだろう。
そう勝手に納得し、白髪の女性から2席ほど離してカウンター席に座った。
「マスター。いつもので」
「ああ、橘さん。コーヒーだね? もちろんだよ」
マスターは、まるで物語の中の存在をそのまま現実に持ってきたような人だ。
いつも笑顔を絶やさない優しい彼は、俺の荒んだ心を少しだけ癒してくれる。
顎に蓄えた真っ白な髭を撫でながら、マスターは手慣れた様子でコーヒーを淹れている。俺はその様子を眺めながら、隣に座る女性をちらと盗み見た。
俺が視線を戻そうとした、その時だった。
「そこの人」
女性が、そう口を開いた。
…俺の視線に気づいたのか?
自慢ではないが、俺は子供の頃から殺しの技術を学ばされている。
そのため、気づかれずに相手の様子を伺うのは得意だと自負していたのだが…。
気づかれた?
もしそうなのであれば、同業者の可能性もある。
…そうだな。ここは一旦、ただのサラリーマンという体で揺さぶってみるか…。
「な、なんですか…?」
「先ほど、私の事を見ていたのは分かっています。…なぜ私を見ていたのです?」
「綺麗な髪だと…思って……」
俺の中で、最善とも言うべき自然な返し方、言い方をしたはずだ。
だというのに、女性は俺の顔を更に鋭く見ている。
「そこではありません。あなたが私を見る目つきに、違和感があったのです」
女性は、そこで一呼吸置いた。
俺の顔を真正面から見ながら、言葉を続ける。
「それに、なんですか。その不自然な態度は。少々演技臭いのではなくて?」
そんな細かいところまで見抜くか…。
やはり同業だな。
この場で事を荒げることはしたくない。相手を刺激しないよう心がけよう。
だが、なんだこの気分は。
まるで、ライオンの檻に放り込まれたようだ。…妙な緊張感がある。
「そこまで分かるのか。…ということは、同業だと判断してもいいってことか?」
「あら。あっさり認めるんですね」
「…これ以上演技を続けたところで、そちらの気分を害するだけだと判断した」
「…随分賢明な殺し屋さんですこと」
…違和感。
話し方の端々に、どこか覚えがある。
物腰柔らかな話し方に、透き通るような白髪…。
…まさか。
「お前、氷――」
「お嬢ちゃん。お待たせして悪かったね。デラックスジャンボパフェができたよ」
俺の声に、マスターの声が重なる。
…いや、そうじゃない。そうじゃないんだ。
「パ、パフェ…?」
「………」
度肝を抜かれた。
なぜなら目の前にいるのは、氷姫…。もとい、俺の宿敵とも言うべき殺し屋だからだ。
まずそこにも驚いたが…パフェ…? なぜだ…?
そうこう思案していると、彼女の方から口を開いた。
「…あ、甘いものが好きで何が悪いんですか…?!」
「す、すまん…」
…妙に気まずい雰囲気が流れる。
何かないかと俺が店内を見回していると、彼女がパフェを口に運び始めた。
半球型のアイスクリームに始まり、半分に切られたイチゴ。突き刺さっていた棒状のクッキーと続く。
「…この店にはいつから?」
「……初めて来たのは、大体一ヶ月ほど前です。…その時に食べたパフェが忘れられなくて…時々…」
「こうして来ていると…」
「そう言うあなたはどうなんです? 繚乱?」
「…その名で呼ぶな。今は仕事中じゃない」
「それは失礼しました」
そのタイミングで、俺のコーヒーが運ばれてきた。
香りを楽しんでから一口飲み、カップをソーサーに置く。
「…あなたの目的は、私と真反対みたいね」
「そうだな。甘味はあまり欲しがらないたちなんでね」
「へえ…」
横から、さくさくという音が聞こえてくる。
俺も、再びカップに口を付ける。
「最近は会っていませんでしたけど、どうです?」
「…仕事の話はなしって言っただろ。…まあ、それなりにって感じだ。逆に聞くが、そっちはどうだ」
「同じですよ。大きな任務もなく、ここ数ヶ月は穏やかです」
「そうか。そりゃ、”よかった”な」
「ええ。”よかった”です」
氷姫は、くすりと笑った。釣られるようにして、俺も少し頬を緩ませる。
俺と氷姫は、どちらかと言われるとあまり殺しを望まない人間だ。
任務だから殺す。それだけ。
だから、大きな任務がないということは、それだけ人を手にかけずに済んだということでもある。
「…だが、そろそろ気を引き締め直した方がいいかもな」
「ええ。嵐の前の静けさ…なんて言葉もありますから」
コツ、という音がして、ふと横を見ると、パフェの中身がなくなっていた。
器には、長い柄のスプーンが刺さっている。
…少々早すぎる気もするが、それだけ甘味が好きなんだろう。
「…では、私はそろそろ行きます」
「ああ。じゃあまた、戦場で会おう。氷姫」
「ええ。次に会うときは殺し合いですね。繚乱」
氷姫は、マスターに料金を支払いながらそう言うと、横に長いアタッシュケースを持って喫茶店を出て行った。
カランカランという鈴の音が、喫茶店内に響く。
…まさか、あいつがこの喫茶店に来ていたとは思わなかった。
仕事中に出会うあいつは、通称の通り氷のような人物だ。それが、あんな巨大なパフェを貪り食っているとは…。
そんな事を考えながら、コーヒーを口に含む。
「…おっと。もうこんな時間か…」
店内にある古時計が鳴ったことで、俺の意識は現実に引き戻された。
現在時刻は、午後5時。そろそろ本部に戻らなくてはならない。
「マスター。会計を頼む」
俺は、暗く汚い世界へのドアノブを捻った。
コメント
1件
第1話めっちゃ良かった…!♡♡♡屋同士のまさかの喫茶店バッティング、しかも宿敵の氷姫がパフェ食べてるギャップがエモすぎる😭💕 「次に会うときは♡♡♡合いですね」って涼しげに言いながらデラックスジャンボパフェの後片付けしてるの、もう最高すぎて震えた。こんな日常と非日常の狭間の空気感、続き早く読みたいよ…!
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꒰ঌSPARE❤︎⛓໒꒱
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#しょしんしゃ
洋食派‼︎
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