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Side 蒼
「はぁ…。今日もキレ―だよなぁ」
切なく、
悩ましげに、
溜息まじりにつぶやかれる独り言。
「おい岳緒、パス!」
「……。…はぁ」
「パスっ! 鈴木にパス回せよ、岳緒っ!」
「……はぁ」
「おい聞こえてんのか!?なによそ見してんだよ!…って、今日も来てんのか?あの美少女二人組?」
と、夢見る岳緒の視線を追って、チームメイトたちはニヤついた。
「お、来てるじゃーん。まぁたしかに見惚れるよなぁ。あの二人ほんとレベル高ぇもんな」
「だよな、だよな。しかも系統が対称なのがよけーに楽しいっていうか?可愛い系と美人系。岳緒、おまえどっちに見惚れてんだよ?」
「…美人系。はぁ、ほんと憧れる…蓮さん…」
部活の開始直前。
ウォーミングアップをしている最中から、いつものように見学者たちが観客席に集まってきた。
バスケ部はなんでも『イケメン宝庫の花形部』として有名らしく、女子からの注目がとにかく熱い。
この見学者たちもほぼ女子で構成されていて、こうして集まってはキャーキャー騒ぐのが習性となっている。
うるさくて練習の邪魔だが、口で迷惑がっても誰も追い払おうとはしないのは、この見学者たちの中からあわよくば彼女を作っちゃえないか、という下心があるからだ。
だから部員たちも密かに見学者たちをよくチェックしている。
そんなチェック候補の中に、ひときわ高評価の美少女二人組がいる。
明姫奈とかいうコと、その友達の、蓮だ。
「ぎゃははは!『蓮さん』だって!『さん』づけだよ、どんだけだよ!」
「てか岳緒、おまえ彼女いるだろ!『まじかわいーちょーかわいー』って自慢しまくってウザかったくせに!」
「いるけどさぁ、それとこれとは別なんだよ。俺の蓮さんへの想いは…なんちゅーか、芸能人に憧れる、みたいなもん。はー蓮さん。キレ―な顔も髪も長い手足も…なんであんな素敵づくしなんだ。蓮さん…まいびゅーてぃほー…」
いっぺん死んでこい。
と、喉元まで出かかるのをこらえて苛立ち任せにはなった俺のシュートは、見事に外れて弾き返ってくる。
バカ岳緒。
こいつのチャラ男っぷりは、時々俺を本気でイラつかせる。
なにが『俺の蓮さんへの想い』だ?ぬけぬけと。
岳緒は蓮に夢中だ。
と言っても、『蓮さん』ってまるで姉御を慕う舎弟みたいに呼ぶところは、たしかに芸能人に対する憧れのような感情の方が強いのかもしれねぇ。
が、
友達としてならいい奴だが、岳緒はとにかく女好きでチャラいのが欠点だ。
なにがどこまで本気なのか、さっぱり解かんねぇ。
しかも。
それだけでなく、さらにムカつくのは、岳緒のそんな反応を面白がって、他の奴がどんどん蓮に興味を持ち始めることだ。
「まぁ岳緒が骨抜きになるのもわかるよなー。三組の芦名蓮(あしなれん)。ただの美人じゃないっちゅーか、大人っぽいっちゅーか色っぽいっちゅーか?近づき難いっちゅーかぁ?」
「一年の時から評判よかったけど、最近さらに色気出てきたって評判だよなー。ツンとしてるけど、それがまたイイって。てか、たしかおまえの幼なじみだったよな、蒼!?」
「……」
ついに、気づきやがったか…。
ここはシカトをきめ…
「そだよ。『蓮』、『蒼』って呼び合ってる仲」
岳緒てめ…っ!
マジで絞め殺してやろうか…!!
「マジで!?」
「ほんとに!?」
ご丁寧に代返してくれた岳緒の言葉に、軽いチームメイトたちがますます乗ってきた。
「なんだよ、なんで黙ってたんだよォ」
「そうだよ、なんで紹介してくれねぇんだよっ!」
…って言われんのが目に見えてたからだよ。
「え、まさか…おまえたち付き合ってるとかじゃねぇよな?」
「…っ、ちげぇよ!付き合ってなんかねぇよ!!」
「そうだ!蒼と蓮さんは、ただの幼なじみだ!」
…ああ、これ以上こいつらといたら、
いろんな意味で身がもたねぇ…。
俺は岳緒たちから離れると、ひとりでシュート練に入った。
そうだ。
岳緒の言う通り、俺と蓮はただの幼なじみだ。
付き合ってなんかいない。
…だったら、どんなにいいか、って思うだけだ。
ち、なにしに来たんだよ、バカ蓮。
気づかれないように、俺は見学者集団の中でひときわ浮いて見える綺麗な女を見つめる。
ツンとした顔立ち。
長くて艶のある黒髪。
すらりとした手足。
大人びて、どこか色気ある雰囲気…。
けど、実は元気一杯で明るくて。
満面の笑顔が一番可愛くて…。
蓮。
ずっと好きで好きでしょうがない、
俺の片想いの女。