全て妄想です。
地雷さんはご注意ください。
「ぁ、あべっ…」
「んー?なぁに?だて様」
「こ、これっ、、よかったら食べて。阿部の好みに合うかわからないけど、作ってみた…から」
昼下がり、次の収録までの時間をメンバーと楽屋で過ごす。
しどろもどろになりながらも意中の人を振り向かせるため、今日も俺はアピールに余念がない。ところが、俺の好きな人は……
「えー!?!?ほんとに!?いいの!?ありがとう!!!嬉しい!だて様の手作り!?やばっ!!どうしよう!!!!食べたいけど大事すぎて食べられない!!!!!保存したい!!!!じっぷろっく!!!!」
…この通り、全く俺の気持ちに気付かない。気付くどころか別の世界に行ってしまっている。
この男、阿部亮平は平たく言えば俺のファン。いや、超が付くほどのファンで、世間様の言葉をお借りするなら、「強火宮舘担」だ。阿部はあくまでも、俺が阿部にファンサをしていると思っている。普通しないだろ、メンバー相手に。
ここまで気付かれないと、流石に俺も心が折れそう。気は長い方だけどそろそろ諦めた方がいいのかな、なんて思い始めている今日この頃だが、この恋心はなかなか消えてくれない。
「あ〜ぁ、、まぁたやってるよ、流石にかわいそうよ?あれ」
「ふっかさん、そんな言うたらあかん。俺もそう思うてたとこやけどな」
「こりゃまだまだ時間かかりそうだねん、見てるこっちがもどかしいよね〜」
聞こえてるぞ深澤、向井、佐久間。スマホを眺めながらぼやくんじゃない。ぼやきたいのはこっちだ。
初めの頃はメンバーにも気付かれないようにこっそりとアプローチをしていたが、あまりにも阿部が鈍感過ぎるので、なりふり構っていられなくなった。阿部が少しでも俺に興味を持ってくれたら、、ちょっとでも意識してくれたら、、と思っての行動はなんの効果も無く、得たものは阿部以外のメンバー全員に俺の恋心がバレるという副作用だけだった。毎月メンバー1人1人から食事に誘われては「だてさん(様)って阿部(ちゃん)のこと好きだよね?」と確認されたことも今となっては懐かしい思い出だ。一番最初に気づいて声を掛けてきた翔太に関しては俺に何も聞かず、「応援してる」とだけ言った。
「だて様ありがとう!!たくさん写真撮って、部屋に飾って、眺めてからいただくね!」
俺が作ったカップケーキを無邪気に頭の上に掲げながら喜ぶ君に、
「…そこまで日持ちしないから、早めに食べてね、、」
としか言えなかった。
今日も失敗。
まぁ、嬉しそうなのはなによりだ。でも、お菓子って飾るものなの?
帰宅して、今日だて様からもらったお菓子を眺める。嬉しい、推しからのプレゼントなんて…。同じグループってだけでこんなに優遇していただいていいのかなぁ、ああ、幸せ……。お金払わせて欲しい。大切すぎてずっと飾っておきたいけど、早めに食べるよう言われたし、名残惜しいけどいただこう。あ、そうだ、この間共演した方から紅茶もらったから淹れようかな。
フローリングの上をスキップしながら移動する。余韻に浸った状態で寝たいので、お風呂も済ませてしまおうと脱衣所へ向かった。
「あ、いい香り。どこの紅茶だろう」
風呂から上がり、明日の準備も整えたところで、紅茶のパッケージに書いてある原産国を見たり説明書を読んだりしながら紅茶が蒸れるのを待つ。
最近開設したSNSに紅茶とケーキの写真を投稿して、だて様との軌跡をしっかりと記録に残す。
手を合わせて「いただきます」。丁寧に包み紙を剥がし、フォークを刺して一口ずつ味わう。「ん、ぉいし…。」
チョコレートの甘さが口の中に広がる。カカオが効いているのか、どこかほろ苦くて大人な味のケーキになんだか心が切なくなる。体中に甘さと苦みが染み渡る感覚を楽しんでいたら、あっという間にケーキは無くなってしまった。物足りなくて、もっと食べていたかったなとティーカップに手を伸ばすと、せっかく淹れた紅茶は冷め切っていた。それほど夢中で食べていたのかと思うと、少し気恥ずかしい。心酔し切っている。同じ空間にいるのに、同じ空間にいるからこそなのか、これほどまでに魅せられて、惹かれている。宮舘涼太という存在は俺に色んな影響をくれる。仕事への向き合い方、スキルの磨き方、彼に追いつきたくて、ずっと近くで見ていたくて、眩しい。彼を見ていると俺も頑張ろうと思える。大切な存在だと思う。ケーキを食べていただけでこんなにも作った人の事を考えられるのかと、改めて彼の存在の大きさに感服した。
今日の出来事、だて様と出会えた事、その全てに感謝と尊さを抱き眠りについた。
「え」
今日のアプローチも失敗に終わった。もう夜も更けているというのに目が冴えてしまったのでSNSを眺めて眠気を誘おうとしていると阿部の投稿が目に入る。
そこには今日渡したカップケーキと紅茶の写真が載っていた。「いただきものです」と書かれた阿部の言葉にコメント欄は騒然としていた。
「彼女の手作り!?」
「彼女との匂わせ載せなくない!?」
「美味しそう〜!」
「紅茶のパッケージおしゃれ!どこの商品だろう?」
など様々である。
紅茶に見劣りしない出来になってよかったとか、写真映えしてるといいんだけどとか、思うことは沢山あったが、
「彼女になれたらどんなによかったか…」
こびりついて離れない。
明らかにお店では売っていないような包みで渡しているから、誰かの手作りかと思うのも当然だ。ただ、阿部からしたらこれは匂わせでもなく、営利目的でも無い。
「俺の推しが作ってくれた」という意味合いしか持ち合わせていないという事実にどうしようもなく苦しくなる。どうして阿部の好きと俺の好きはこんなに違うのだろうか。
気付いて欲しい。大きくなりすぎて抱えきれなくなっている。一切隠してはいないので言えずに苦しい、なんてことはないが、伝わらなさすぎて困ってしまう。
諦めるのも、何もしないのも、俺の性には合わない。いちいちめげていたって仕方がないと気を持ち直して、目を閉じた。
さて、明日はどんなアプローチをしようか。
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