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砂漠に、一瞬の静寂が訪れる。
それは偶然ではない。
まるで大気そのものが、次に起こる破壊を予感して息を止めたかのような、不自然な沈黙だった。
砂嵐すら鳴りを潜め、張り詰めた空気が二人の間に満ちる。
イオは炎の剣を天へと突き上げる。刀身は灼熱に燃え上がり、まるで太陽を地上へ引きずり下ろしたかのような輝きを放つ。噴き上がる熱量は周囲の空間を歪ませ、地表の砂は瞬時に溶解し、赤熱したガラスへと変質していった。
そして――振り下ろす。
轟音が砂漠を震わせる。
炎の柱は大地を裂きながら一直線に伸び、逃げ場を許さぬ破壊の奔流となってエウロパを呑み込まんと迫った。
だがその瞬間、エウロパの瞳が鋭く細まる。
(…………炎……高温、酸化、構造崩壊……)
彼女は瞬時に演算する。
炭素は万能ではない。だが使い方次第で、いかなる形にもなり得る。
足元の炭素を鎖へと再構成。地中から射出し、遠方の岩場へ突き刺す。次の瞬間、身体が強く引き寄せられ、弾丸のように移動した。
炎は彼女の残像を焼き払い、元いた場所を完全に焦土へ変える。
焦げた匂いが漂う。
輻射熱が遅れて押し寄せ、肌をジリジリと焼いた。
『出ましたァァァ!! 砂漠の砂嵐をも圧倒する炎の柱!! イオ選手、物凄い超高出力です! しかしエウロパ選手、驚異の回避です! 炭素鎖による射出移動! あの判断速度、並ではありません!』
炎越しに、イオの姿が陽炎の中で揺れる。
彼女は歩いていた。
走らない。慌てない。
勝利を疑っていない者の足取りだった。
やがて剣を構え、一気に加速する。
踏み込みの瞬間、足元のガラス化した砂が砕け散った。
エウロパは即座に炭素の槍を形成し、連射。
だが数本は炎の剣で弾かれ、残りは熱による空気屈折で軌道を逸らされる。
「エウロパ、狙いが甘いぞ!」
イオは弾きながら距離を詰める。
攻防が一体化した、美しい連続動作だった。
「…………くっ……」
(でも……少し……たのしい)
胸の奥が熱くなる。
敗北の予感と、興奮が同時に存在する。
模擬戦では常に圧倒してきた。
だが今、明確な“壁”が目の前にある。
それが、楽しい。
迫るイオに対し、エウロパは地表の炭素を一斉制御。
砂中から黒い棘を無数に生成し、槍衾のように突き上げる。
突き刺すためではない。
動きを制限し、包囲し、捕縛するための檻だ。
だがイオは炎を纏った踏み込みで棘の隙間を縫う。
熱で棘の根元を脆くし、破壊しながら突破していく。
「ふふ、おもしろい」
それは挑発ではない。
純粋な感嘆だった。
『地面制圧型カウンター! ですがイオ選手、熱膨張で足場そのものを破壊しながら突破! 力押しでありながら理にかなっているゥ!』
「何もお前だけが飛び道具を使えるわけじゃない」
イオは跳躍。
空中で腰を捻り、炎の剣を横薙ぎに振り抜く。
一線。
それは単なる炎ではない。
圧縮された熱エネルギーが刃の形を取り、空間を焼き裂く斬撃となった。
エウロパは一瞬、その完成度に見惚れる。
だが即座に炭素を超高密度化。
層構造の巨大壁を構築する。
衝突し爆ぜる炎。
炭素壁は表層から液化し、内側へと溶解が進む。
(…………む……想定以上……)
半分が消失し、彼女の半身が露出する。
着地したイオが呟く。
「ほう。丸焦げの予定だったのだがな。存外やるな」
エウロパは即座に多重炭素鎖を展開。
それぞれに簡易演算を組み込み、自律追尾させる。
蛇の群れのように襲いかかる。
「拘束するつもりか!」
弾いても、また迫る。
背後から、側面から、死角から。
「ストーカーかよ」
『これは厄介! 疑似自律制御型の炭素鎖! 一度絡め取られれば熱も遮断される可能性がある! イオ選手、危険です!』
鎖が腕を掠める。火花。
脚を狙う一本。
イオは一瞬、足を止めた。
エウロパの瞳が光る。
(捉えた――拘束完了まで0.3秒)
全鎖が収束。
だがその刹那。
イオの剣が、内側から爆ぜた。
炎は一点集中から一転、球状へ拡散。
超高温の熱衝撃波が全方位へ放たれる。
鎖が赤熱。
分子結合が崩壊。
連鎖的に崩れ落ちる。
『出たァァァ! 広域熱衝撃解放! 炭素構造、耐えきれないィ!』
「……っ!」
後退するエウロパ。
だがイオは、もう目の前。
至近距離による炎を纏った踏み込み。
「楽しかったぞ」
縦一閃。
今度は拡散しない。
極限まで圧縮された一点突破。
エウロパは最後の炭素盾を形成するが――
貫通と衝撃波が同時に押し寄せる。そして、爆炎。
砂煙が天へ舞い上がり静寂が訪れた。
砂煙が晴れる、アバターから本来の姿へと戻る二人。
膝をつくエウロパ。
立つイオ。
「……負け、か」
その声に悔恨はない。
ただ、次への思考がある。
「次は……もっと燃えない方法を考える」
イオは笑う。
「期待している」
二人は、何故か笑っていた。