テラーノベル
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最初は見た目も派手で、カッコよくて、ママのお知り合いで、凄く羽振りのいい人達だと思っていたのに。夜の店で働くことに抵抗があるって言った途端に、みんなが豹変した。今日は体験入店だけで五万円って言われたから来たのに話が違う。閉店直前に連れ出されて…しかもラブホなんて。
「い…いい加減に…してくれませんか?…タツミさん。…わたし…お店に戻りたいんです。…バックも…スマホも…置いてきちゃったんです。…だから」
「あれぇ?ママから聞いたでしょ?オレに付き合って来いって。…それともソコの路地で終わらせちゃう?。可愛い顔してエロいんだねぇ?野外プレイで立ちバックとかしたいんだ。…ソレも悪くないんだけどさぁ、俺はやっぱり柔らかいベッドの上の方がいいなぁ。…おら入るぞ!来いっ!」
繁華街の裏通りに面したラブホテルの正面玄関。わたしは両足を全力で突っ張って抵抗している。しかしこのままでは、力尽くで引きずり込まれるのも時間の問題だ!。女性を護れる弁護士になりたくて、田んぼばかりの田舎から出てきて女子大生になったばかりなのに!。なんでこんなヤツに犯されなきゃならないのよっ!?。そんなの絶対に!死んでも嫌だから!
「はっ!?離してくださいっ!?。…誰かっ!?助けてっ!?誰か!?」
「う。………(ごめんな?お嬢ちゃん。相手が悪いんだよ…半グレだし…)」
「…………。(…あいつ…龍虎会のタツミだよな?。…またキャバ嬢を!?)」
あの男達って客引きよね?なんで助けてくれないの?スマホくらい持ってるはずなのに、警察を呼ぶ様な素振りも見せないし。…なに?このタツミって男…そんなに恐ろしい奴なの?。あの男達、ちらちら見てただけで何にもしてくれない。止めるどころかジリジリ離れて行ってるし!馬鹿っ!
「…あ?なに見てんの?アンタら。コレは痴話喧嘩だからね?くだらない事すっと…この街に居られなくなっちゃうよぉ?。…見てんじゃねえよ!」
「ひっ!?。(…警察を呼んだほうがいいよな?。でも…もしバレたら…)」
「うっ!?。(くそっ!。龍虎会だからって無茶苦茶しやがってぇ!)」
どころか逃げてった!?。本気!?。すぐ目の前で!か弱い女の子が!無理矢理ラブホテルに連れ込まれようとしているのに!?。この街の治安ってどうなっているのよ!?。真夜中でもこんなに明るいのに!なんで?。ああダメだわ。両足がシビレてきて力が抜けていく。こんなの嫌だよぉ!
「そうそう。そうだよルミちゃん。そうやって最初から素直に着いてくればさぁ〜俺も大声を出さなかったんだよ?。俺ってよく『優しい』って言われるんだよねぇ。それと1回ヤッたら忘れられなくなるって。くふ…」
「…そう…ですか。(…こんなにガッチリ腕を掴まれたら、どうやったって振りほどけない。…抵抗して怪我させられるのも馬鹿らしいし…素直にヤラせたら…たぶん帰れるはず。でもヤダなぁ。平気で中出しとかしそうな男だし。初めては好きな人とシたかったなぁ。…助けて…お姉ちゃん!)」
猛烈な力で握られているせいで左手の感覚まで無くなってきた。店が貸してくれた、男を喜ばせる為のロングドレスが恨めしい。最初は『綺麗♪』とか思ったのだけれど…ママやスタッフに『すごく似合ってる』ともおだてられて良い気分になっていたのだけれど…こんな服じゃ走れもしない。
こんな事なら断るんだった。大学で初めて話しかけられたから、あの娘の話しを素直に聞いてしまった。務めているお店に友人を紹介すれば、お礼としてお金が貰えるらしい。『友達を助けると思って。お願い!』そう懇願されて拝まれて、体験だけならと乗ってしまった。…わたしは…馬鹿だ…
「………あらら。…………え〜と?」
「ん?。なんだよお前。ああ、イイコトしてきたんだな?。俺もこれからなんだよ。…ってぇ、どけよコラ!なに立ち塞がってんだよ?ああ!?」
「やっぱりそうだ。…ココでその娘の弱みを握る気なんですよね?レイプしたり…スマホ動画とか撮って。…佐藤や徳元の知り合いって…みんな鬼畜ばかりですねぇ。その手を離さないと…きっと後悔しますよ?辰巳サン。」
わたしが抵抗するのを諦めていたところで、大男が足を止めた。手首を握っている手が更に力を増す。誰かと話しているようだけど、もうどうでもいい。ヤりたいだけヤラせて、サッサと帰宅したいの。明日の朝イチにある講義に出ないと法律の基礎知識から躓くかも知れない。早く帰りたい。
「!?。お前…佐藤さんを知ってんのか?。あの人は今、どこにいるんだよ?。…ママから探すように言われてんだよ。…おいお前…教えろよぉ!」
「……先ずはその娘から手を離しましょう。…そうしたら教えなくもないですよ?クソ虫さん。…アンタも金の為に何でもやる害虫ですよねぇ?。覚醒剤やら大麻やらを〜佐藤から回して貰ってたから焦りますよねぇ♪」
「…この蝙蝠ヤロウ。お前…ナニモンだよ?。いいや…どう見てもガキだな。それに…大人にむかっての口のきき方がなってねぇ。…殺されねぇうちに教えろよ。…知ってるだろう?龍虎会。…俺はそこの幹部なんだぜ?」
「りゅうこかい?。ぷぷぷ。ネーミング・センスが酷いなぁ。…ほら、早く離してください?。彼女、すごく嫌がってますよ?。…おら…離せよ…」
「うっ?。え?あ!?。なんで…手が勝手に。…いっ!?痛たたたっ!?」
頭の中がグルグルしてて気持ち悪かった。無抵抗なままで投げやりになっているわたしの手首から、タツミの手の平が不意に離れる。そうなってわたしは顔を上げたのだが…その先には真っ黒な人影が立っていた。背の高い男の人なのは判るのだけれど…顔が分からない。少し霞がかっている?
「…サクラちゃん。そのお嬢さんを家まで送ってやってくれ。…えーっとルミさんだっけ?。彼女が車で送るから。それと、もう店には戻れないんだ。ほら?聞こえてきただろう?消防車だ。そうゆうことだから。ね?」
「は、はい。……あの…貴方は?。(なに?この正体不明な救世主は!?)」
「残念ながら知らない方がイイっすよ?。…それじゃ送ってきますね♪」
突然に背後から、若い女性の声が聴こえた。ドレスのせいで晒されているわたしの両肩に柔らかい掌がふうわりと触れると、クルリと回れ右をされてしまった。窮地から救ってくれた男性の染み入るような低い声が耳に残ってて、どうしても振り向いてしまう。やや細身で姿勢が良い。そして肩幅が広い長身な男性。もしも彼が素敵な王子様だったなら……知りたい。
「ああ、頼んだ。…さて…辰巳さん。…佐藤がいる所を教えてあげますよ。ああ、実際に行ったほうがわかり易いですね。…それじゃ…行きますか…」
「えっ!?ひっ!?ひぃいいいい!?。なっ!?なんれ!?なんれきゃららが!?膨らんじぇる!?。うぶぶぶぶ!?ぐっ!?ぐるじぃいいい!」
「…半グレ集団、龍虎会。アンタそこのNo.4の一人だったっけ?。クスリを売ろうが恐喝しようが強盗やろうが構わないけど、女の子を傷つける奴が俺はどうしても我慢ならなくてねぇ?。…無理矢理ぶち込まれた女の子の痛みって酷いらしいよ?。木の棒で…腹の中を裂かれる感覚らしい…」
「うぐぶわああ!?ひっ!?ひぎゅううっ!?。やっ!?やめで!やべでぐべぇっ!?。ばっ!ばらがしゃぜぶぅううっ!?。いっぎゃああい!」
「あんた…女の子がヤメてって叫んで…やめたことあんのかよ?。レイプされている女の子が濡れるから…悦んでるとか思ってんだろうけど…あれは肉体的な防衛本能だからな?。分泌物を増産することで…大切な生殖器を護ってるんだよ。…ホント、人間の男って…知性の無い単細胞な魔物にも劣るよなぁ。…身勝手な解釈と性欲で…無垢な女の子たちを傷つける…」
「うぐぶぁあああ!?しゃけるっ!?ばらがしゃけるぅううっ!!。ばっばるがっだ!!オデがばるかったぁああ!ゆっ!?ゆずでばっ!!!?」
「た〜まや〜♪。地獄でアイツラに宜しく言っといてくれ。もっとも…地獄なんて界があったらだけどな?。…お?サクラちゃん。早かったね?」
「もう終わったんすね?。車の中で眠ってもらって送りましたっす。ついでにビルの方も見てきたっすけど、とにかく野次馬が凄かったッス。あれこそ『対岸の火事』っすねぇ。…わが身に降りかかれば泣き喚くくせに笑ってるんっすよぉ?。はぁ…人間の感覚って…ほんとに分かんないっす。」
「…そうか。ご苦労さま。…ところで…誰か救助されてたか?」
「無傷で保護されてたのは若い女の子が三人だけっす。あとは丸焼けなんじゃないですかねぇ♪。経営者の女と悪そうな男を二人。しっかり眠らせてから火を着けましたから♪。あ…楽な死に方をさせて申し訳ないっす…」
「いや。確実に抹殺してくれたのならソレでいいよ。店も無くなったし完璧だね。それと…認識阻害の魔法をありがとう。頭にきてて忘れてたよ。」
「うふふふぅ。どおいたしまして♪。久し振りにレオ兄さんのお手伝いができて嬉しかったっす。…あーしで良ければコキ使ってやってください♡」
「ああ、前みたいに頼りにさせてもらうよ。カスミさんも凄く協力してくれるけど、夜の巡回には向かないんだよなぁ。彼女を見た男達の脳に『セックス・シンボル』として刻みつけられちゃうし。…無理も無いけどさ…」
「淫魔の女神っすからねぇ?七月せんせいは。…あーしもあんな『ゴージャスで美麗でパーフェクトな淫魔♡』になりたいッス♪。憧れっす♪」
「サクラちゃんも、いつかなれるさ。それよりも『す』が多いよ?。俺と話すのに敬語的な言葉使いは必要ないからね?。…お?…また悲鳴だ…」
「え?あ。…川沿いのほうっす……方みたい。河川敷のあたりかなぁ?」
「よし急いで行こう。…ほらサクラちゃん?車で追いかけて来てくれ。」
「は!?はいっす!。…あ。」
「ははは、少しずつでいいよ。…それじゃあ俺は先に行くからね?」
「は、はいっ!。(う〜ん。緊張するからなかなか直せそうもないなぁ)」
ふわりと少しだけ宙に浮いたレオ兄さんの姿が、パッと一瞬で消える。その気配を追って見上げれば…もう点になってるし。レオ兄さんが魔人なのは、初対面の時に七月せんせいから聞いている。なぜ人界にいるのかも。
そして週末の深夜は必ず巡回することも。なんで下等生物である人族の、しかも若いメスばかりを助けたりするのかは未だに理解できないが、一目惚れしたのでお手伝いしている。惹かれてしまったからには尽くすのだ♡
この胸を踊らせてくれるような感情を、想いを、あーしは大切にしたい。人界に来たばかりの頃は人間のオスなんて、ちょちょっと精を抜いて、あーしの魔力を高めるだけの餌にすぎなかった。当然として惚れるなんて有り得ないし。そんなあーしが惹かれたレオ兄さん。半分人間でも…好き♡
顔をあわせるたびに『あわよくば抱かれたい♡』とか思ってしまうのは、あーしが混血の淫魔だからなのかも?。でも七月せんせいも、あーしと似たようなことをため息混じりに漏らしているし、悪いことではないのだ。隙を見て押し倒すのも有りかなぁ?。兄さん、強引なのに弱そうだし♡
「こら琉妃乃《るみの》!。なんでダイニングで寝てんのよ?。しかも何よその格好〜お友達に借りたのぉ?。前にも言ったけど、姉ちゃん…キャバとかで働くの絶対に反対だからねっ?。(…まさかとは思ってるけど…)」
「んわ?。……んー!。お姉ちゃん…おはよお。…って!?なにコレ!?。あたしなんでドレスな…ん…か。…あ、あれ?なんでだっけ?。…んん?」
尊敬する姉の声でわたしは目を覚ました。少し気怠いけど、そこは確かに姉のマンションだった。大学への進学を期に居候させてもらっている。間取りは2LDK。国家権力である警察って、もっと高所得なのかと思っていたのだけど、とっても古い部屋に住んでいたのは酷くショックだった。
「ほら。テーブルの上!サッサと片付ける!。朝ご飯、食べるでしょ?」
「ん?うん。(学生証に財布に…手帳に…スマホもあるわね。………ん?)」
「はい。それを持って部屋に戻って!着替えたら顔を洗ってくる!。あんた今日は外せない講義があるんじゃなかったのぉ?。少し急ぎなさい?」
「う、うん。すぐに支度してくる。(…この紙袋ってなに?。…うえっ?)」
わたしは姉に従うように、急いで自室に駆け戻った。さっきから動悸が激しい。バッグの底に押し込められていた、見た事もない茶色い紙袋には、確かに何かが詰め込まれている。その形状から察するに…札束なのはほぼ間違いないだろう。しかし問題なのはその前だ。なぜわたしのバッグに?
昨夜の記憶が曖昧すぎて思い出せもしない。思い出そうとするとフラッシュバックする断片的な風景も不確かすぎて分からない。昨夜のわたしの、紫琉妃乃《ムラサキ・ルミノ》の身の上に一体なにがあったの?それに…
「………一万円の札束が……7つも。……あたし…何しちゃったんだろう?。こんなお金に覚えなんて無いし…いったい誰が?……ん?これって……え?」
『大変な想いをされた貴女に、せめてもの祝福を。ナルスムーンより♡』
「……ナルスムーンって…誰?。…でもこのお金…わたしに宛ててるのは間違いないみたい。…ん〜。お姉ちゃんに言ったら大惨事になるだろうし。でも隠し事は絶対に良くないんだし。んーーーーっ。………どうしよう。」
19年間生きてきて、今、この時ほど苦悩したことがあっただろうか?。紙袋の中から出てきた青いカード。そこには手書きでそう綴られていた。鵜呑みにして良いとは思えないけれど、わたしには人生が変わる奇跡だ。
七百万もあれば月の学費だって楽に支払えるし、欲しかった参考書や法律に関わる書籍だって思いっきり買えてしまう。しかも『貴女に祝福を』とまで書いてあるんだし…使っちゃっても良いお金だ。うん。そうだよね♪
どこの誰だか分からないけれど『ナルスムーンさん』に思いっ切り感謝したい。お姉ちゃんが言うように昼間のバイトでも探して、少しは社会勉強もしないといけないのだけれど、今は日本の法律を納得できるまで調べ尽くしたい。わたしが弁護士になればきっと警察のお手伝いもできるから。
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