両親が病室に入ってきてからはもう大騒ぎ。犬の飼い主が私の病室に来て感謝の果物を大量に届けてくるし、騒ぎを聞きつけたマスコミやら記者やらはことの事情を詳しく聞こうと私の両親を質問攻めにしたり。ネットには私のことが一瞬で出回った。
もちろん名前は伏せていたのだろうけど、その場で動画を撮っていた人には奏茉や空茉の声がしっかり入っていて、私の名前が一気に広まった。
一言言って、最悪だ。1番起きてほしくないことが起きてしまった。
私は平穏に静かに暮らしたいと言うのに。アイラという独特の名前がネットで拡散された。犬を助けるために川へ飛び込んだ5歳児の女の子、という肩書きをつけて。
「相羅、もう本当に大丈夫なの?」
あの事件から三週間。私はやっと退院した。
でも両親はまだ怪我を気にしている様子だった。
「大丈夫。傷跡は残ったけど、別に髪の毛で隠れるし」
左側のこめかみの少し上、額らへんに切り傷の跡が残ったのだ。だいぶ深かったらしいし当たり前と言えば当たり前なんだけど。
でも気を失ってから1日以上経って目を覚ましたわけでもないし、脳に支障がなかったということになるだろう。
「それよりも、早く海斗に会いたい」
「相羅は本当に海斗が好きだよね…」
母親に少し引かれながら言われる。
当たり前だ。海斗は私の宝物である。大切な弟なのだ。
「はぁぁ…海斗を食べてしまいたい」
「あぁ、あれか。相羅はブラコンってやつだな」
「は?違うし」
バカけたことを言う父親を睨む。すると父親は少し悲しそうな顔をさせた。
自分だって親バカなくせに、と思いながらもいうのはやめた。昔それを言って長々と私たちの魅力を本人の目の前で語り出したからだ。今思い出すだけでも鳥肌が立つ。
そんなハプニングだらけの保育園生活も最年長まで続き、ついに私たちは…
「相羅〜こっち向いて!ほらもっと笑顔で!」
「小学校入学おめでとう、相羅」
「…どーも」
小学生だ。
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