テラーノベル
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「ほんとだ、偶然だね」
そう言った瞬間、類の顔が強張った
目を見開き、眉間に皺を寄せ、不自然に片方だけ口角が上がっている
あー、ミスった
多分、このオーナメントはお揃いで一緒に買ったものなんだろう
破裂しそうなほど、心臓が暴れる
この音が、辺り一体に響いているんじゃないかと錯覚するほど
「寧々」
喉からやっと絞り出したような声で、わたしの名前を呼ぶ
彼は今、草薙寧々を失った
彼と過ごしたわたしは、どこにもいない
「…どうして、言ってくれなかったんだ」
喉が熱い
視界が歪む
手が微かに震える
「…ごめ、」
「どうして!」
類はわたしの肩を掴んだ
少し爪が立っていて、痛い
でも、そんなことよりずっと、類の方が痛そうだった
感情が3つも4つもぶつかり合って、ぐちゃぐちゃになったような顔
「言って欲しかった、ちゃんと」
類のことを全く知らないわたしでもわかる
きっと彼は、こんなに細くて、頼りない声なんて出さない人だっただろうと
そんな彼をここまで追い詰めてしまうわたしは、彼にとって大きな存在だったと言えるだろう
どうしても、耐えられなかった
好きな人が、こんなに苦しんでいる姿が
好きな人を、こんなにしてしまった自分が
「…ごめん」
わたしは類の手を振り払って、1人で家に帰った
目が開き、天井を見つめる
疲れてそのまま寝てしまったみたいだ
時計は朝8時を指している
バレた、わたしの病気が
「……………だれ、に?」
ノートを手に取る、ページを捲る
神代類 鳳えむ 天馬司 東雲彰人 白石杏…
たくさんの名前が並んでいる
わたしの病気のことを知っていると書かれた人物は、両親以外どこにもいなかった
昨日、書くのを忘れてしまっていたんだ
♪〜〜
スマホから着信音が鳴った
名前のところには、「類」と表示されていた
急いで「類」を探す
「…あった」
神代類
幼馴染でお隣さん。 同じショーユニットのメンバー、演出家
野菜が嫌いでラムネが好き
好きな人
「好きな、人」
電話のコールがもう7回目に入る頃、やっと応答を押した
電話越しに、やわらかくてやさしい声が聞こえた
「寧々、突然すまないね」
「うん、別にいいよ、どうしたの」
「昨日のこと、謝りたいんだ」
その言葉で察してしまった
わたしはよりにもよって好きな人にバレたんだ
「今から、うちに来てもらってもいいかい?…ちゃんと、君と話がしたい」
彼の顔を見た時、胸が大きく高鳴った
一目惚れというんだろうか
わたしは何回も何回も、彼を好きになってしまっている
少し女性的な綺麗な顔立ち
さらっと細いけど、身長は180センチほどありそうに見える
見上げないと、彼の顔が見えないほど
「…寧々、僕がわかるかい」
「……ごめん」
顔を歪めて、残念だ、と言った
「入って」
悲しさを纏った微笑みを浮かべ、彼はわたしを招き入れた
「適当に座ってていいよ。親はいないから、気にしないでくれ」
見慣れた家に、見慣れない人
いや、わたしの中で見慣れた人などいないのだけど
類の家なんて何回も来ているから、よく知っている
類のことは、にも知らないのに
「おまたせ」
類は隣に腰掛けて、ココアをテーブルに置いた
「寧々、まずは謝りたい
寧々も辛かったはずなのに、無神経に言いすぎてしまった
…肩も、痛かっただろう」
無意識に肩を撫でた
それだけじゃ、全くわからないけど
昨日誰かに肩を強く抑えられた記憶があったから、それについて謝っていることはわかった
「悲しかったんだ
ずっと信頼していた君が、そんな大切なことを僕に言ってくれなかったことが
僕は、君に信頼されていなかったのかもしれないと思ってしまって」
そんなことない、なんて言えなかった
だってわたしは、彼を何も知らないから
わたしの中の思い出の、どれが彼との思い出がわからないから
幼少期、一緒にショーをしたのは?
王子と姫として、共に役を演じたのは?
大切な友達だと、言ってくれたのは?
どれが類で、どれがそれ以外の人なのか、 わからなかった
なにも知らなかった
この思い出が誰とのものなのか、全部教えてくれないとわからない
わたしが彼を信頼していたのかも、
「そんなことない」
出てきた言葉は、自分でも予想外のものだった
どうして言い切れるのか、と問われたら
わからないとしか言えないけれど
わたしの仲間が、友人が、好きな人が
信頼できない人なわけがない
「嫌だったの、大切な人たちに嫌われるのが…!わたしがみんなを忘れるせいで、みんなが傷つくのが、嫌なの…っ」
目からは涙がこぼれ、視界が歪んだ
背中に手を当てられ、類の胸元に引き寄せられる
そのまま力強く抱きしめられた
「え、る、類?」
心臓が跳ねた
鏡なんかなくても、わたしの顔が赤く染まっていることが容易に想像できた
「 僕はどんなことがあっても味方だ
嫌いになんてならないよ。絶対に
だから、僕にちゃんと頼って欲しい」
その言葉に、すごく安心した
あぁ、いいんだ
もう抱え込まなくても
1人で背負わなくても
「…好きだよ、」
不意に彼から発せられた言葉に、思わず目を見開いた
抱き合っているせいで、顔が見えない
「すまない、臆病で。どうせ忘れてしまうなら、今言ってしまおうと思ってね」
類の服を、ぎゅっと握った
「………ヘタレ」
言うなら、ちゃんと言ってよ
「ごめん」
類は少し強く、わたしを抱きしめた
謝るくらいなら、言わないでよ
類の肩をぐっと押して、体を引き剥がした
類は困り眉で、寂しそうに笑っていた
「類の馬鹿、アホ、ヘタレ、ビビり」
「おや、ひどい言われようだ、ねッ!?」
わたしは類の服を掴んで、自分の方に寄せた
口元が触れる
冬だからか、類の唇は少しカサっとしていた
目を見開いて、何が起こったのか理解ができていないようだった
「無かったことになんて、させないから」
「わたしも大好きだよ、類」
コメント
1件
幼少期、一緒にショーをしたのは類 姫と王子として役を演じたのは司 大切な友達と言ったのはえむ ですね