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第1話「となりのセキセイ男子」
春の午後。風間琴葉の部屋には、窓越しに明るいさえずりが届く。
「ピヨ、今日も元気ね」
ベランダで籠ごと日向ぼっこしているのは、隣の家で飼われているセキセイインコ。
体は水色とレモン色のグラデーション、ほっぺには小さな黒い斑点がある。琴葉が鼻歌を歌いながら水やりをしていると、彼はたまに現れる。
そんなある日。
「…ねぇ、もっと歌って?」
後ろから声がして振り返ると、そこには見知らぬ少年が立っていた。
水色のシャツに、羽のような柄のある薄手のブルゾン。髪は淡い水色、目はインコそっくりのくるんとした丸い瞳。腕には黄色い羽根がちらちらと混ざっている。
「ぼく、ピヨ。となりの鳥」
琴葉の口から思わず息が漏れる。
「うそ……鳥が、しゃべってる?」
「前からしゃべってたけど。ことばの意味、今日になってわかるようになっただけ」
少年——いや、擬人化したセキセイインコのピヨは笑った。とても無邪気に、まるで小型の太陽のように。
「君の声が好きだった。ことばがわかるようになったら、もっと好きになった」
その真っ直ぐな言葉に、琴葉はドキリとする。
鳥のくせに、いや、鳥だからこそ、こんなにも真っ直ぐ。
「わたしの歌……また聞きたい?」
「うん。となりの窓からじゃなくて、となりの席で聞きたいな」
ピヨは翼の代わりに手を差し出した。そこには、羽の形をしたヘアゴムが結ばれていた。きっと、どこかで拾ってきたものだろう。
琴葉は、それを受け取りながら思った。
——これは始まり。となりのベランダから、となりの心へと飛び込んでくる恋の物語。