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あいたぴ♡苺もち
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第284話 双方向帰還
【異世界・王国警備局/臨時分析室・翌朝】
水晶板には、二つの図が重ねて表示されていた。
一つは高瀬直人。
《異世界→現実世界》
もう一つはリーネ・アスト。
《現実世界→異世界》
矢印の向きは正反対だが、その周囲に並んでいる条件には、驚くほど共通点が多い。
ノノは朝から何度も二つの記録を比較していた。
「もう一回、最初から整理するね」
ハレル、サキ、リオ、アデル、ダミエ、セラが水晶板の前へ集まる。
最初に表示されたのは。
《本人の特定》
「名前だけじゃないよ」
ノノが説明する。
「本人の記憶、身体、反応、過去の記録。全部を合わせて、“この人が誰なのか”をできるだけ固定する」
次。
《現在位置》
《現在の身体状態》
「高瀬さんとリーネさんは、どっちも身体ごと移動した。だから比較的分かりやすかった」
ハレルが聞く。
「候補Dは違う?」
「うん。あの人は意識だけがこっちにあって、身体候補は現実側だから、同じやり方はできない」
候補D。
長谷川修一との一致可能性が高い意識反応。
十一年前から現実側の身体は眠り続けている。
「候補Dを帰す時は、移動じゃなくて“再接続”になると思う」
アデルが腕を組む。
「身体と意識を再び合わせるのか」
「そう。だからあれは別に検証する」
ノノは次の項目を開いた。
《帰還先座標》
「これも必要」
高瀬の場合。
現実側のオルタリンクタワー。
リーネの場合。
王都医療棟。
「“日本へ帰りたい”とか“王都へ帰りたい”だけじゃ座標としては広すぎる。最初に安全な受入地点を決めて、そこを固定する」
ダミエが頷く。
「出口が揺れたら、途中も揺れる」
「うん」
さらに。
《主鍵》
《副鍵》
《結界固定》
《案内層》
ノノが表示をまとめる。
「ここまでは、どっちの帰還でも必要だった」
リオが右手首を見る。
「俺の副鍵もか」
「今のところはね。ただし中心じゃない。匠さんが言った通り、残ってる経路で補正だけ」
亀裂は増えていない。
それでも直ったわけではない。
高瀬とリーネ。
二人を通したことで、残存経路には確実に負担がかかっている。
だから一人ずつ。
毎回閉じて。
毎回確認する。
その条件は変わらなかった。
◆ ◆ ◆
最後にノノが一つだけ別枠で表示した。
《本人の現在意思》
ハレルがそれを見る。
「これが一番大事?」
ノノは少し考えた。
「技術的に一番大事かって聞かれたら、違うかもしれない」
「でも?」
「これがないなら、私たちがやってることはカシウスたちとあんまり変わらなくなる」
部屋が静かになった。
セラが白い案内層へ目を向ける。
「エリウスの方法も同じです」
ハレルが見る。
「案内はする。でも決めない?」
「はい」
セラは頷いた。
「安全な場所と危険な場所は示せる。でも、最後にどちらを選ぶかまで案内する側が決めてはいけない」
サキのスマートフォンでは、reが静かに光っていた。
まるでその言葉を聞いているように。
アデルが言う。
「なら、今後の帰還も同じだ。出身世界だけを見て勝手に送り返すことはしない」
「うん」
ハレルも頷く。
「レグナさんみたいな人もいるから」
七年間。
現実世界で山岡隆司として生活してきたレグナ・フォルス。
彼はまだ王都へ帰るとは決めていない。
だから帰さない。
どちらが正しいかを他人が決める必要もない。
ノノが一覧の一番下へ新しい名前を付けた。
《双方向帰還・暫定条件》
その下に六つの項目が並ぶ。
《本人特定》
《現在状態確認》
《帰還先固定》
《本人意思》
《鍵・結界による座標固定》
《案内層による安全確認》
「これで完成?」
サキが聞く。
ノノは首を振る。
「まだ“暫定”」
アデルも言う。
「二人成功しただけだからな」
「でも」
ハレルは二つの帰還記録を見た。
「次へ進める」
◆ ◆ ◆
【異世界・王国警備局/帰還保護区画】
佐野悠真は窓際で外を見ていた。
王都の街。
石造りの建物。
遠くに見える塔。
ここで過ごした時間は短くはない。
だが帰ると決めている。
扉が開き、ハレルが入ってきた。
「体調どう?」
「大丈夫です」
「昨日の襲撃のあと、眠れた?」
悠真が苦笑する。
「少しだけ」
ハレルも椅子へ座る。
「帰還の方法が一応まとまった」
悠真の表情が変わった。
「高瀬さん、本当に帰れたんですよね」
「うん」
「日本に?」
「帰った」
悠真は。
しばらく何も言わなかった。
それから。
「家族には?」
「まだ直接会ってない。でも現実側で連絡する準備は進めてる」
悠真が膝の上で手を握る。
「俺も……帰れますか」
「帰れる可能性は高い」
ハレルは、あえて言い切らなかった。
「でも、一人ずつやる。毎回、鍵と結界を全部確認してから」
「順番は?」
ハレルが少し笑う。
「悠真が次」
目が見開かれる。
「俺?」
「帰りたいって答えた人の中で、身体も本人確認も揃ってるから」
悠真は緊張したように息を吐いた。
「……怖いです」
「うん」
「でも、帰りたい」
「それでいい」
ハレルは立ち上がった。
「明日じゃない。準備ができたら今日中にやる」
悠真が顔を上げる。
「今日?」
「嫌なら待てる」
少しの沈黙。
悠真は首を振った。
「やります」
◆ ◆ ◆
隣の部屋では三浦啓介が、古い紙を眺めていた。
六。
十七。
二十三。
九。
四十二。
以前は忘れないために何度も書き続けていた数字。
今は一つずつ意味が戻っている。
ハレルが入ると、三浦は紙を畳んだ。
「佐野君が先ですか」
「うん。その予定」
「その次は?」
「状態が変わらなければ、三浦さん」
三浦は静かに頷いた。
「分かりました」
「怖くないですか」
「怖いですよ」
即答だった。
「帰ったところで、昔の生活がそのまま残っている保証はないですから」
母親。
病院。
住所。
駅。
覚えているものは過去の記憶だ。
「それでも」
三浦は紙を握る。
「この数字が何だったのか、自分の目で最後まで確かめたい」
ハレルは頷いた。
「じゃあ、そのために帰りましょう」
◆ ◆ ◆
【現実世界・医療施設/一ノ瀬ユナ病室】
ユナは古い社員一覧を見ていた。
日下部が持ち込んだ、クロスゲート・テクノロジーズ初期開発部門の記録。
画面には
名前。
所属。
担当。
退職日。
いくつもの項目が並んでいる。
だが一部は欠けていた。
意図的に削除されたような空白。
ユナは、その空白を長く見つめていた。
「……いた」
日下部が顔を上げる。
「何がですか?」
「先輩」
「以前話していた?」
「はい」
ユナは目を閉じた。
記憶を探す。
自分が入社したばかりの頃。
コードレビューで何度も止められた。
変数名が分かりにくい。
処理を一つに詰め込みすぎ。
動けばいいではなく。
あとから読む人間のことを考えろ。
そんなことを、少し厳しく。
でも、必ず理由まで説明してくれた女性。
「私より前から、白峰さんのチームにいた」
ユナの声が少しずつ速くなる。
「開発の中心ではなかったけど……接続処理。同期処理。それから、初期の意識応答系」
日下部が記録を開く。
「名前は?」
ユナは眉を寄せた。
「まだ……出てこない」
「無理に思い出さなくていいです」
「でも」
ユナは首を振った。
「思い出せるところまで来てる」
再び。
目を閉じる。
白い部屋。
椅子。
頭部へ取り付けるセンサー。
ガラスの向こう。
白峰律。
そして。
その椅子へ座る女性。
「……実験」
ユナが呟いた。
日下部の手が止まる。
「何の?」
「接続試験」
ユナの呼吸が少し乱れた。
「先輩が……受けてた」
◆ ◆ ◆
断片だった記憶が
少しずつ繋がっていく。
その日。
ユナは自分の席へ戻る途中で試験室の前に立つ先輩を見た。
「何してるんですか?」
『接続テスト』
「またですか?」
『今度は少し深いところまで見るみたい』
先輩は笑っていた。
怖がっている様子はなかった。
ユナは聞いた。
「危なくないんですか?」
その時。
先輩が言った。
『白峰さんが大丈夫って言うなら、大丈夫でしょ』
そこで。
記憶が切れる。
ユナが目を開けた。
「やっぱり……」
「以前思い出した言葉と一致しますね」
日下部が言う。
ユナは頷いた。
以前、断片的に聞こえていた。
《白峰さんが大丈夫って言うなら――》
その続きだった。
「次の日」
ユナが言う。
「先輩、会社に来なかった」
日下部が記録を見る。
「会社から説明は?」
「辞めたって」
ユナはすぐに首を振った。
「でも、おかしい」
「何が?」
「辞める予定なんてなかった」
机。
飲みかけのコーヒー。
書き途中のコード。
翌週の会議予定。
ユナ自身とのコードレビューも。
予定表に残っていた。
「急に辞めた人の机じゃなかった」
◆ ◆ ◆
日下部が別の古いデータを呼び出した。
クロスゲートの初期バックアップ。
一部だけ残っていた試験記録。
《接続同期試験》
《被験者情報・削除》
《身体側応答・維持》
《意識側応答――》
そこから先は破損している。
だが。
波形データだけが残っていた。
日下部は以前保存していた別のデータを並べた。
白色コア。
ラストに奪われる前。
現実側で計測した意識波形。
二つを重ねる。
ユナは画面を見た。
「……似てる」
日下部は倍率を上げる。
一致箇所。
一つ。
二つ。
増えていく。
完全一致ではない。
長い時間。
環境。
変化。
それらを考えれば当然だった。
それでも、基礎となる反応には
同じ特徴がある。
《類似度・高》
日下部の表情が変わる。
「これが同一人物のデータだと仮定すると……」
ユナが小さく言った。
「先輩が」
その先を
言えなかった。
白色コア。
名前を失い。
身体から切り離され。
長い間。
誰にも本人として呼ばれなかった存在。
「白峰さんは……知ってたの?」
日下部は答えられない。
ユナ自身も。
答えを求めているわけではなかった。
◆ ◆ ◆
【どこでもない層/深部】
白色コアが小さく明滅した。
ラストの手の中。
白い光は。
今も彼の身体へ入ろうとしない。
Cの表示が浮かぶ。
《融合・不成立》
《侵食・拒絶》
《外部照合反応・発生》
カシウスが目を細める。
「現実側が古い記録を掘ったか」
白峰律の視線がわずかに動いた。
「何の記録です」
カシウスが彼を見る。
「心当たりがないのか?」
白峰は答えない。
白色コアが、
もう一度脈打つ。
Cが続けた。
《初期接続試験記録との照合可能性・上昇》
一瞬。
白峰の顔からいつもの冷静さが消えた。
ほんのわずかだった。
だが、カシウスは見逃さない。
「思い出したようだな」
「……」
「お前は今、選択を奪うことを嫌っている」
カシウスは静かに続ける。
「だが最初から、そうだったわけではない」
白峰の目が細くなる。
「黙ってください」
「図星か」
ラストが白色コアを見る。
「何の話だ」
カシウスは答えなかった。
白峰もそれ以上何も言わない。
ただ。
白い光だけが。
誰の手にも従わず。
小さく脈打っていた。
◆ ◆ ◆
【異世界・王国警備局/帰還準備室・夕方】
一度すべて閉じられていた帰還陣が、再び組み上げられていた。
ダミエが外周を確認しセラがエリウスの案内層を内側から調べる。
サキのスマートフォンではreが静かに光り、ノノは主鍵と二つの副鍵の数値を何度も照合していた。
リオの副鍵。
亀裂拡大なし。
出力制限。
継続。
アデルがハレルを見る。
「いけるか?」
「うん」
「今度は高瀬の時より緊張するかもしれないぞ」
ハレルは少し笑った。
「一回成功したから?」
「そうだ。人間は成功した後の方が、同じ結果を期待する」
「でも、同じとは限らない」
「分かっているならいい」
扉が開いた。
佐野悠真が治療班と一緒に入ってくる。
緊張しているのが見ただけで分かった。
それでも、逃げようとはしない。
帰還陣の前まで来て一度だけ深く息を吸う。
「お願いします」
ハレルは悠真の前へ立った。
「最後まで、自分で決めていいから」
悠真が頷く。
「はい」
帰りたい人を一人ずつ。
本人の意思のまま。
次の帰還が、
始まろうとしていた。
コメント
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うわ〜〜〜第284話、めっちゃ良かった!!😭💕 「双方向帰還」の条件リスト、めっちゃ丁寧に組み立てられてて感動したよ…! 特に「本人の意思」を外さないってとこ、ノノの「これがないならカシウスたちと変わらない」ってセマすぎる…!! エリウスの「案内はするけど決めない」も重いし、悠真くんの「怖いけど帰りたい」がまっすぐ響いた…。 ユナ先輩の記憶が白色コアと繋がりそうで、次が待ち遠しすぎる!! 続きも楽しみにしてるよ〜〜🌸✨