「お前、あの祠を壊したのか?!」 おまけ
本編の警察視点ネタバレ補足です。
本編を読んでない人には完全にネタバレ&意味不明なのでUターンしていただけると幸いです。
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完成して何年も経たないかわいそうな祠がぶった切られた直後、青井とつぼ浦を除く全署員に六法経由で市から極秘でメッセージが届いた。
曰く、つぼ浦と青井がデスマウンテンの祠を壊した。速やかに以下の指示を実行するようにと。
もし二人に出会ったら「祠を壊したんですね、もう助からないですよ」と脅すように言う、という指示を受け、署員たちは皆最善を尽くした。
中でも迫真の演技だったのは成瀬だ、と皆が称えた。ただでさえ夜に見るとちょっと怖いペンギンマスクでつぼ浦を脅かしたのをきっかけに、他のみんなもノリノリで脅しにかかった。
呪いというものは精神への刷り込みだ。今日が雨なのも呪いのせいだといい続ければそれは強い毒になる。些細な異変の積み重ねが精神に少しずつ傷をつけ、そして存在しない恐怖を生み出す。
誰かに言われる度に明らかに曇っていく二人の表情をモニター越しに見て市長はニンマリと笑う。
「市長、本当にやるんですか?」
「まあ作っちゃったしなぁ。つぼ浦はともかくらだおはあまりこういう必要なさそうだけど、最近株が上がってて腹が立つからいいでしょ」
後ろめたそうな馬ウアーの声を聞き流し、若干の私怨を込めて市長はタブレットを操作する。その小さな操作画面から二人の姿が消えた。
「はい注目~、あの祠を壊した犯人たちには罰としてホラーのワールドに行ってもらいました。前もって言ったようにこのモニターに衛星映すから、見たい人見ていいよ」
市長は一階のオフィスに設置した大きなモニターの電源をいれる。待ってましたとばかりに署員たちが集まってくる。
さぞや恐怖する二人が映るかと思いきや、衛星を繋いでまず映ったのは応答する無線を必死に探し、警察機能を心配する様子だった。
「へぇ、まず警察として対応しようとするんだ」
その気概をもうちょっと見せてくれればな~、と市長は呟く。まあもう遅いのだが。
「では私も行ってくる」
「頼んだよキャップ」
「ああ、彼らにお灸をすえないとな」
市長はアドバイザー兼仕掛け人のキャップをワールドに送り出す。ダメ押しでリアリティを高めるために自ら役を買って出たのだ。
画面には謎の足音と呼吸音に怯える二人の姿が映っている。スピーカーが異音を捉えるよりも早く青井が音に反応したことに同僚たちから驚嘆の声が上がる。
「これなんの音なんですか?」
「フリー音源」
隣に立つ馬ウアーに聞かれて市長は面白くなさそうに答える。
「これ、どういう仕組みなんですか?」
「ああ、別のサーバーに警察署だけのワールドを立てて、そこに、」
「市長、サーバーってなんすか」
「滅多なこと言わないでくださいよ」
血相を変えた成瀬とミンドリーが世界の核心を喋ろうとする市長を遮る。
画面にはちょうど闇から現れたキャップを見て絶叫する二人が映っている。そのとんでもない声量の悲鳴に前列で見ていた面々は耳をふさぐ。
「悲鳴うるっっっさ!!」
「ど、どっちも耳破壊しに来てる!!」
耳をやられた皇帝とひのらんがのたうち回る。
高音担当のつぼ浦と低音担当の青井のハモった悲鳴はスピーカーがビリビリと震えるほどだ。
ギャラリーが耳の痛みに悩まされているうちに、二人の目の前でキャップが無惨な姿になり、またしても鼓膜を破壊する悲痛な悲鳴が響き渡る。
部屋の中から聞こえるゴキゴキという嫌な音に顔をしかめて馬ウアーは市長に聞く。
「これもフリー音源ですか」
「こないだローストチキン食べたときの音」
「ああ、そういうのもあるんだ……」
「いい感じのが見つからなくてね」
画面の中では腰を抜かしたつぼ浦を青井が背負って走って運んでいる。
「らだオすごい!よくドア蹴ったナ!?」
中に何がいるとも知れない部屋のドアを蹴って閉めた勇敢な姿に、猫マンゴーは拍手をして喜ぶ。
「らだおやるなぁ、あのつぼ浦さんを背負って走るなんて」
「青井くんああ見えて力あるんだよ、ヘリばっか乗ってるのに」
「でもさっきつぼ浦さんのこと見捨てようとしてなかったっすか?」
「うーん、あの間、多分そうだね」
成瀬とミンドリーは青井が手を差し出すまでの変な間を見逃さなかった。
「引っ張る力が強すぎる、むち打ちになるかと思ったぞ」
怪異に食われたはずのキャップがきれいな格好で市長のもとに帰還する。
「あれくらい勢いがあるほうが怖いかなって」
「今どうなってる」
「つぼ浦泣いちゃいました」
まるんに言われてモニターを見に行くと、キャップの死を悼んでスンスン泣くつぼ浦が映っていた。
あのつぼ浦が泣いてる!と爆笑するメンツの中で、同期のオルカだけがかわいそう……と袖を握りしめていた。
「あいつ、あんなに俺のこと……」
たまには懲らしめてやりたかったし、ホラー系の事件からことごとく逃げるつぼ浦のことだからこうなるだろうとは思っていたが仕掛け人とはいえ心が痛む。キャップが生意気な部下の身を案じたとき、「盾がなくなっちまった」と言うつぼ浦の声が聞こえる。
「なんだと?!あいつっ!!」
「はは、つぼつぼはつぼつぼだな」
地団駄を踏むキャップの横で馬ウアーが笑う。
しばらく説得していたが、立ち上がれなくなってしまったつぼ浦を置いて青井が先に行ってしまう。尊敬する鬼の先輩に自動でついてくるハッピーセットこと猫マンゴーと成瀬は驚きを持ってそれを見る。
「アー!つぼ浦サンのこと見捨てタ!」
「らだおマジか」
青井ならなんだかんだ最後まで世話を焼くと思っていた。意外と非情な選択をしたことに二人は驚きを隠せない。
キャップは市長と馬ウアーと一緒に事態の推移を見守る。
「見捨てるのも仕方ないだろう、しかしあいつ本当にホラー駄目なんだな」
「市長、これ全滅したら終わりなんですよね?」
「そうだよ。らだおもさぁ、もうちょっと怖がったほうがいいんじゃないの?これ」
一人で階段を降り始めた青井を見て、市長は手元のタブレットを操作する。たちまち闇の中から黒い手と無数の目が現れ、一人しかいないのに二人のときと遜色ないくらいとんでもない声量で青井が絶叫している。
「これはなんのフリー素材ですか」
「い◯すとや」
「えっ、こんなに怖いイラストあるのか?!」
「暗闇に浮かぶ目のイラストだね」
後で検索しよう、とキャップが思ったとき、画面の中では泣いてたはずのつぼ浦が青井を助けに来て怪異に向けて勇ましくも啖呵を切っている。
「オー!!つぼ浦助けにキた!!」
「あー、つぼ浦さんなら来るのわかっててわざと先行ったな?」
そこには泣きべそをかく23歳の怖がりな青年ではなく、混沌の擬人化、特殊刑事課NO.0がいた。その怯えていた闘志に見事に火をつけた様子に会場は湧く。
「なんからだおの株が上がるの癪だな」
盛り上がる面々の中で市長だけがおそらく何らかの私怨で苦い顔をしていた。
一度火がついてしまえばガソリンのように燃え上がる太陽と、その裏で冷静さを取り戻した悪魔がいた。これはもうよほどのことがなければ折れないだろう。長いこと付き合ってきたキャップは不屈の魂を感じ取る。
「潮時だ、市長。引導を渡してやれ」
「そう?もうちょっと怖がらせてもいいと思ったけど、あんまり長くてもかぁ」
市長はタブレットを操作し、向こうの世界の一階のオフィスーーつまり皆がウォチパしているまさに同じ場所ーーにいびつな形の怪異を設置する。馬ウアーとキャップは「設置完了」のウィンドウが出ているタブレットを覗き込む。
「これは……」
「これ?昔、ヨーソローハリケーンでやばいことになったモデルの流用」
「モデルってなんですか市長」
「滅多なことは言うなよ」
二人に詰められて市長のメタ発言は葬られた。
画面の向こうでは気持ちの悪い形の怪異が闇から姿を表している。女性陣が小さく悲鳴を上げるが、向こう側の二人はもはや叫ばず「ブッ殺してやる!!」と強気に言い放っている。
「待って待って、本当に化け物相手に物理でやり合うじゃないこの人たち」
「ああ、隙を見せたな。物理が効くなら特殊刑事課は殺るぞ」
「たしかにめりこみとかの処理が面倒だからそういう当たり判定にしたけど……あー!!」
戦闘の果て、つぼ浦の手にはロケットランチャーが握られていた。
「あ~これはまずい」
その指が引き金にかかるより早く、市長はチャンクのボタンを押す。目の前が赤く染まり、見えなくなったら怯えて止まるだろうと思ったが……
「結局撃つんかーい」
「さすが特殊刑事課だ、100点だな」
見えないまま撃たれたロケランは二人の間で炸裂し、爆発に巻き込まれて二人共ダウンした。
こちらのワールド……いや正常なロスサントスに呼び戻された二人は署長室のソファーで眠っている。その寝顔を見てキャップと馬ウアーは安堵のため息をついた。
「まったく、あんなに怖がりだとはな。それにしてはよくやったぞ」
「つくづく君たちが警察官で良かったよ」
半開きのつぼ浦の口からフガッといびきが漏れた。
二人が市長のネタばらしで困惑し、皆に囲まれて赤面するのはもう少しあとのこと。
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相変わらず各人の敬称、呼び方等自信がないのでミスが有りましたら申し訳ありません…!
この話に限ったことではないですが、私の書いているものはすべて時間設定がフワッとしているので、時間軸についてはあまり気にしないで読んでいただけると幸いです。いつまでもつぼ浦たちが大暴れしていたあの半年に囚われている…
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