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・【03 店を継ぎたい女子高生】
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机に突っ伏して寝ていると、急に耳元でデカい声を掛けられた。
「君が! さがしもの探偵さんだね!」
真澄じゃない。
一体誰だ、全く聞いたこと無い声だ、と思いながら目を開けて、声のしたほうを見ると、思った通り知らない顔だった……いや、見たことあるな、というか学校以外で聞いたことある声だ、よく考えたら。
そうだ、
「フライド亭の看板娘というか」
「話が早い! 私はフライド亭の一人娘の村上樹希です!」
そう言ったところで、真澄が割って入ってきた。
「樹希さんは足が早いなぁ! さがしもの探偵の仕事を探していたら、すぐ『今、フリーなんだ!』と言って走り出して!」
それに対して村上さんが、
「だって、さがしもの探偵さんが暇な時に行かなきゃ! 勝負はいっつも早い者勝ちでしょ!」
「そうだよな! アタシもそう思う! ワーッハッハッハ!」
と、村上さんと真澄は豪快に笑い合った。
応援団の共鳴じゃぁないんだよ。
とにかく、
「別に暇というわけじゃないんですよ。僕は料理人になるために努力しているんです」
そう僕が言った刹那、村上さんは僕のことを指差しながら、
「まさにそれなの! 受けてくれるよねっ!」
「いやどういうことか全く分からないので、ちゃんと説明して下さい」
「私がフライド亭の一人娘ということは言ったじゃない?」
「はい、さっき聞きました」
「でね! お父さんは私へ『店は継がせない』と言っているの!」
そう拳を強く握りながら言ってきた村上さん。
まあお店をやることは実際大変なので、そう言われることも理解はできる。
さて、で、それが何なのだろうか。
村上さんは口を大きく開いて、こう言った。
「だからお父さんを説得する言葉を探してほしいの!」
「言葉を探すですか……前にもしたことはありますが、特殊な話ですね。あと微妙に僕が料理人を目指していることが関係無いですね」
「同じ料理のことなんだからいいでしょ!」
そう言って笑った村上さん。
何かちょっと真澄に似ていて苦手だな、この強引な感じがなんとも言えない。
ここで真澄が割って入ってきて、
「これもさがしもの探偵の範疇だろ! 頑張ろうぜ! 始めれば得る!」
「さがしもの探偵という存在すら元々無いモノなのに、拡大解釈しないでよ、真澄」
「いやでも佐助だって文字で書かれたレシピを探すの好きじゃん! 合ってるじゃん!」
「それはネットとか図書館を巡るヤツだよ、言葉を探すことそのものは積極的に行なっているわけじゃぁないんだよ」
すると村上さんが、
「えっ……もしかすると迷惑だったりするんですか……いやでも! 私! 先輩だから!」
いや、
「先輩だからって何なんですか」
「私、高校三年生だよ! 君たちは高校一年生! 後輩なんだよ!」
「知らない先輩の話を請け負う義理は無いんですけども、でもまあ真澄が勝手に期待させちゃったので、その埋め合わせとして説得には一回ついていきます」
「やったぁ! さすが、さがしもの探偵! 最高!」
そう言ってバンザイをした村上さん。
まあダメ元みたいな感じだし、これくらいなら受けてもいいかな。
でもプロの料理人の元に自分の料理を持っていく勇気はまだ無いので、今回は喋るだけだろうな。
説得に行く当日。
僕と真澄は普通にフライド亭の店の前に来ていた。
まあここに来ることが一番早いことだけども。
開店前に入らせてもらうと、中には村上さんと、村上さんのお父さんと思われる店主がテーブルに座っていた。
僕を見るなり、お父さんのほうがこう言った。
「今度はなんだ、部外者に頼ったところでオマエに店は継がせない」
僕と真澄は一礼して席に着くと、村上さんがすぐにこう言い出した。
「じゃあ新しい店をオープンする! このフライド亭のライバル店になるんだから!」
いや急に話と違うこと言い出したなぁ。
そういうことを言い出すのならば、事前に連絡しておいてほしい。
それとも今、突発的にこんなことを言い出したのかな。
村上さんは話を続ける。
「私がこのフライド亭の味を進化させてライバルになって勝つ!」
それに対してお父さんが、
「オマエにレシピのなんたるかが分かるはずないだろう、それともなんだ、このモヤシみたいな青年に手伝ってもらう気かぁ? 細々として覇気のねぇ、紙芝居もできねぇようなモヤシによぉ」
いや僕の体型はどうでもいいでしょう、初っ端から良くないルッキズムの解放じゃぁないんだよ。
そのお父さんの言葉に対して真澄が、
「佐助はモヤシじゃない! 二郎系のモヤシだ!」
いや、
「どっちにしろ、モヤシなのかよ。ギトギトくたくたのモヤシを名乗らされて何になるんだい。ギトギトくたくたと思われる利点がゼロだよ。まあ体型はどうでもいいとして、僕は一応村上さんが店を継ぐための説得をしに来たわけで」
するとお父さんが、
「むしろ俺のほうが”村上”だから分かりづれぇなぁ、お兄ちゃんよぉ」
とニヤニヤしながら、そう言ってきた。
いやそういう親子との会話でありがちな苗字遊びでイキがらないでほしい、こういう状況初めてでテンション上がってる人じゃぁないんだよ。
まあ、
「樹希さんと、村上さんということですね、それでいいですね」
「樹希も村上だがなぁ、おーいぃ」
シンプルにウザいなぁ、と思いつつ、僕はもうそのことは無視して喋ることにした。
「樹希さんはもしかするとフライド亭のレシピを知らないんですか?」
「そうなのっ! レシピすら教えてくれなくてムカつくの!」
それに対してお父さんが、
「レシピ教えたらそれこそ店を出されてしまうじゃねぇかぁ」
「何でお父さんのほうは店を樹希さんにしてほしくないんですか?」
「そりゃぁ、店なんてもんは大変なんだよ、そんな苦労を一人娘にさせてほしくない親心だろ、まあ社会の厳しさを知らないモヤシには分からないだろうけどなぁ」
いちいちうるさいけども、打開する言葉が見つかったので、言うことにした。
「どんな仕事でも大変だと思いますよ、そうやって自分の仕事だけ大変だと思うことは見識が浅いと思います」
「あぁん?」
「それよりも自分のやりたいことをやっているほうが大変でも楽しいと思います。貴方は一人娘にやる気が無いのにただただ大変なことをやらせたいんですか?」
「そんなわけないだろ! 店はとにかく大変なんだよ! シビアな世界なんだよ! 料理は上手くなきゃいけない! 仕入れの計算もある! 接客もやらなきゃいけない! 全部やらないといけないんだよ!」
「それはどんな世界でもそうではないのでしょうか。どの世界にも大変さはあります」
「モヤシの若造に何が分かると言うんだ!」
「ただただ喧嘩腰でしか喋れないオジサンに僕の何が分かるんですか?」
「うるせぇ! うるせぇ! うるせぇ!」
そう怒鳴り上げて、テーブルを手で叩いたお父さんのほう。
樹希さんの表情は固まり、真澄は黙って僕の言うことを聞いている。
きっと今までこの人を怒らせるような説得はしてこなかったと思う。
自分の考えで凝り固まった人間相手には、本人が予測できない方向に振り回すしかない。
そう、
「例えば、樹希さんが看板商品のレシピを当てたら、店を継ぐほどの愛情があるということになりませんか?」
「うっせぇなぁ!」
「すみません、会話をしてくれませんか? でもそうですね、これだと確かに接客が難しいと感じるみたいですね。あっ、でも接客は樹希さんが手伝っていましたし、貴方はしなくても良かったんですよね」
「何だよ! オマエ! さっきからぁ!」
そう言って立ち上がったお父さんにあくまで僕は冷静沈着に、淡々と、
「レシピを当てることについてはどうですか? その勝負はやっぱり怖くて乗れないですか? 自信満々のレシピを当てられたら、継いじゃうことになってしまうような勝負には乗れないですか、やっぱり。リスクとか賭けるの苦手そうですもんね、貴方」
「そんなことねぇわ! 勝負師だわ!」
「いえいえ、無理しないで下さい。勝負とか本当にダメっぽいですもんね、分かります、貴方の言動を見ていると」
「上等だ! 勝負してやるわ! ボケェ!」
何を言っても反発するモードに入っている人間は扱いやすい。
もうちょっとやっておくかな。
「でもレシピを当てられたら店を継いでも良いことになってしまうんですよ? 貴方に得が無いんで、逃げて大丈夫ですよ?」
「ここまで言われて逃げるほど腐ってないわ!」
「まあこっちもノーヒントで当てる自信ありますから、いくら自信満々のレシピでも当てちゃいますよ? こっちは」
「何がノーヒントだ! 使ってる材料全部教えても問題無いわ! 配合だけ考えてろ! カス!」
「じゃあ決定ですね」
そう言いながら僕はシャツの胸ポケットに入れていたスマホを取り出して、テーブルに置き、
「この会話は録音させて頂きました。あとからナシにすることは無しでよろしいですね?」
「当たり前だわ! ボケェ!」
「じゃあこの調子で材料全部教えて下さい」
「おうおう! 言ってやるわ! 言ってやるわ!」
僕はお父さんの言った材料をスマホのメモで記録して、
「それでは樹希さん、真澄、フライド亭のフライドチキンを再現しましょう」
と言って立ち上がり、真澄もすぐに立ち上がり、
「まず材料を買いに行かないとだな! 頑張ろうぜ! 始めれば得る!」
樹希さんはポカンと開いた口が塞がらない感じだったけども、お父さんから、
「オマエもさっさと自宅で試作品でも作って配合を考えろ! 無理だと思うがな!」
と言われて、なんとか立ち上がり、僕と真澄と樹希さんはフライド亭のお店を後にした。