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・【04 フライドチキン】
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メモした材料は全て地元のスーパーで揃えることができた。
実際に使っているモノはこれよりも良いモノである可能性はあるけども、最低限の再現はこれでできそうだ。
スパイスは基本的にカレーを作るようなスパイスを使っている。
それにショウガやニンニク、タマネギなどは多分すりおろして揉みこんでいると思われる。
そして当然骨付きの鶏肉が原材料としてあって。
今は樹希さんの自宅で、とりあえず樹希さんが思った通りにフライドチキンを作っている。
樹希さんは言う。
「買い出しは任されることもあったから、材料は多分合ってると思う。漬け込む時間も三十分って知ってる。あとは本当に配合だと思うんだけども、大体こんな感じかな」
そう言って完成したフライドチキンはすごく美味しかった。
樹希さんは厨房に入らせてもらったことが無かったみたいだけども、揚げる音は聞いていたので、揚げ方は完璧。
外はパリパリ、中はジューシー、旨味は”あまり”逃げ出さず、口いっぱいに味が広がった。
香りはスパイシーで、どんどん手が伸びるような味。
真澄は口に入れてすぐに、
「旨い! 完成だ!」
と叫んだが、当然ながら、
「いやちょっと違いますよね、樹希さん。チキンの旨味が少し足りないですよね」
「そうだよねぇ、そもそも何回かフライド亭のフライドチキンを家で作ろうと作ったこともあるんだけども、いっつも何かが足りないんだよねぇ」
それに対して真澄が、
「じゃあ実は隠しスパイスが入っていたりとかか! 卑怯だぞ! 樹希さんパパ!」
すると樹希さんが、
「いやスパイスは多分合っていると思うんだけども。何か鳥本来のパワーが足りないんだよねぇ」
真澄は樹希さんのことを指差しながら、
「じゃあ! めちゃくちゃ高い鳥を使っているんだ! そうに決まっている!」
「ううん、安い鳥でお父さんが家で作ってくれたこともあるんだけども、ちゃんとフライド亭の味になっていたんだ」
樹希さんは腕を組んで悩んでしまった。
どうやら樹希さんの中では既にある程度答えが固まっているみたいだ。
でも最後の決め手が見つからないといった感じ。
鳥の旨味を引き出す方法が他にあるのか、それとも、と僕も考えていると真澄がこう言った。
「いやでも絶対に隠し材料があると思う! だって樹希さんはもうある程度考えが固まっているんだろぉっ? よく思い出してほしい! 本当に何か怪しい白い粉とか入れてなかったかっ!」
「そんな麻薬みたいに言うなよ、健康を害する中毒性のある違法な粉じゃぁないんだよ」
それに対して樹希さんは小さな声で、
「でも」
と言ったので、僕は、
「樹希さん、何か気になることがありましたら是非教えて下さい」
「確かに家で作った時、何のスパイスか分からないモノを入れていたような記憶もあるような、無いような……粉状だっけ、どうだったっけ……?」
真澄は即大きな声で、
「それだ! 薬だ!」
と叫んだ。
いや、
「何らかの化学調味料ならまだしも薬だと叫ぶなよ、摘発の瞬間じゃぁないんだよ」
樹希さんは悩みながらも、
「うちは化学調味料無添加を謳っているからそれは無いと思うんだけどなぁ」
「そうですよね、僕もフライド亭には何度も行っているので、その謳い文句は知っています」
ちょっとした沈黙。
それを打破するのは大体真澄で、
「まあ考えるよりまず作る! いろいろ試してみようぜ!」
そう言われて樹希さんと僕は話し合いをしながら、いろんなフライドチキンを作っていった。
そして完成する度に食べていく僕たち三人。
いつの間にか僕たちの目の前には大量の骨の山が出来上がった。
樹希さんが小声でゲップをしてから、
「さすがにもう食べられない……」
僕もそうだと頷くと、真澄が、
「じゃあ樹希さんと佐助は味見だけに専念して、残りの肉は全部アタシが食べる!」
いや、
「よく真澄ってそんなに食べられるね」
「スポーツ推薦だからな!」
「そんな微妙にリアクションしづらい言い分なんなんだい」
「とにかく! アタシは何でも食べるぞ! 骨だって何かもっと食べられそうだけどなぁ!」
それに対して樹希さんが、
「知ってる? こういうフライドチキンの骨とかそのまま捨てないで、煮だすと出汁が出て、そのままスープとして味わうことができるんだよ」
「そうなのか! じゃあこの骨! 全部洗ってスープにしよう!」
いや、
「まだ食べる気なのかい? 真澄……あっ」
僕は一つ、案が浮かんだ。
だからそのことを口にした。
「樹希さん、もしかしたらやっぱりお父さんは何か粉を入れていたのかもしれません」
それに対して次の言葉を喋ったのは真澄だった。
「えぇっ! 何だよあのオッサン! 卑怯なことしてやがったんだな! ヒントが騙しだったのか!」
樹希さんは少々驚きながら、
「そんな、えっ、何が入っていたんですか……?」
「鳥が入っていたんですよ」
僕のこの台詞に、疑問符を浮かべる樹希さんと真澄。
僕は続ける。
「鳥の骨のスープを煮詰めたモノをフライドチキンに入れているんじゃないんですか? だから鳥の味がフライド亭のフライドチキンのほうが強く出るんじゃないかなと思います」
「それだ!」
そう言った樹希さんは早速今まで食べた骨を洗って湯通してから、鍋で煮始めた。
白湯スープが出来上がり、それをさらに煮詰めて、味を濃くしてからフライドチキンに揉みこみ、揚げた完成品は、まさにフライド亭のフライドチキンだった。
中はジューシーで外はパリパリなのは勿論のこと、噛めば噛むほど鳥の旨味が詰まったフライドチキン。
鳥の香りとスパイスの香りが合わさって、食欲が増進されるような。
もう結構お腹いっぱいだったのにも関わらず、このフライドチキンは全部食べ切ることができた。
樹希さんが言う。
「材料のヒントは本当に合っていたんだ……でもまさかこんな”抜け道”があったなんて」
「そりゃお父さんも自信があったわけですね、普通に材料を寄せ集めて作っていたら分からないわけですから」
「じゃあこのフライドチキンをお父さんの元へ持っていく!」
樹希さん、そして僕と真澄は三人でフライド亭へ行き、空いた時間にお父さんに食べてもらった。
その結果が、
「まさか一日で見破られるとは……バカな……」
と言ったので、僕はこう言った。
「一日じゃないです。元々樹希さんはお父さんの味に近付こうと自分でずっと考えていたんです。それほど樹希さんはお父さんの味が、お父さんの店が大好きなんです。そんな樹希さんの思いを汲み取ってくれませんか?」
樹希さんも言う。
「パパ、まだまだパパは現役かもしれないけども、私ほどは若くないでしょ? だから私にも、もっといろいろ教えてほしいんだ。私は本気なんだ。フライド亭の味も店もお父さんも、そしてここでできた思い出も、みんなみんな大好きなんだ。さっきはさ、正直売り言葉に買い言葉といった感じだったけども、私はやっぱりお父さんが納得して継がせてほしいんだ」
樹希さんのお父さんは溜息をついてから、こう言った。
「……どっちだ、というか誰だ、骨に気付いたのは」
樹希さんは僕のほうに視線を送りながら、
「佐助くんが気付いたの」
「おいおいおいぃ、それだと樹希じゃなくてこっちのモヤシが店を継ぐことになるぞ」
それに対して樹希さんは俯きながら、小さく、
「ゴメンなさい」
お父さんは僕のほうを見ながら、
「というかモヤシと言って悪かったな。オマエには負けたよ、佐助、でいいんだな、おい、佐助。うちの樹希と結婚するでいいんだな」
と言って笑った。
いや! と僕のツッコミ出る前に真澄が叫んだ。
「それは無い! すみませんでしたぁ!」
いや、
「何で真澄が先に言うんだい、いやまあ僕も同じ気持ちだけども」
樹希さんは僕と真澄のほうを見ながら、
「フフフっ、そういうことだったんだね、お邪魔しないよっ、大丈夫! 大丈夫!」
「いやどういうことですか! 僕と真澄は何でもありませんから!」
それに対して真澄が、
「あっ! あぁぁぁああああ! 当たり前だろがぁぁぁああああ!」
と言いながら、めちゃくちゃ強いツッコミみたいな手を僕の肩にぶつけて、正直痛かった。
樹希さんのお父さんは、
「まあ佐助、まだ若いんだからまだまだ悩んでいいからな。さて、樹希、結局この佐助の手助け無しじゃ全然ダメだったわけか、これは一から鍛え直さないといけないな! よしっ! 今日から早速厨房をやらせるぞ! ちゃんと見てろよ! 樹希!」
それに樹希さんの顔はパァッと笑顔になり、
「はい!」
と言って満面の笑みを浮かべた。
これで終わりかなと思って、僕と真澄は帰ろうとすると、樹希さんのお父さんが、
「うちのフライドチキン定食を食べて行けよ!」
と言ったけども、僕は、
「さすがにもう食べられないです」
と答えたんだけども、真澄は元気に、
「はい! 食べます!」
それに対して樹希さんのお父さんは、
「何だ何だ、樹希の夫はこっちの元気なお嬢ちゃんのほうかよ! まあ佐助には定食券10枚くらいやるよ! だから待ってろ!」
いやでも実際、
「樹希さんのお父さん、僕に対して怒りとか無いんですか? 失礼な言い回しいっぱいしましたし」
「あんなん怒らせているって後で分かったわ! それが佐助の交渉術だったんだろ! 頭を冷やす時間はいくらでもあったし、そのあとの見破りで感服よぉ! 俺はそんな小さい人間じゃないからな! いつでも結婚していいからな!」
と言うとすぐさま真澄が、
「それは無い!」
と叫んだ。
いや、そんな顔を真っ赤にして叫ぶなよ。
こっちも恥ずかしく思えてくるし、えっ、真澄って、僕に対してそうなの……いやあんまり深く考えないことにしよう、こっちも赤面してくるから。
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