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俺の右手の拳から、ヴィヴィアン目掛けて一直線に空間が歪み、何層にもなる空気の膜が誕生する。
その一枚一枚の膜が順番に振動を始め、最終的に全ての膜が共振し、その力は増幅される。
『―――回避不可。』
俺は咄嗟に術を解除し、空気の歪みを取り除こうと試みた。しかし、一度行われた行為が取り消される事は無い。
増幅された空気の歪みは、何枚も重なっている頑丈な装甲を完全に貫き、圧縮し、ただの薄い鉄板へと変貌した。
同時に、ヴィヴィアンの頭部にも歪みが到達し、まるで耐久度が無い潜水艦が深海に放り出された時と同じように。―――鉄塊へと姿を変えた。
「変えちまったらマズイんだよッ!!」
来る、そして考える暇が無い。 『遡行』の感覚が狭くなっている。
いやそれより、ヴィヴィアンから受けた攻撃はなんだ。
知らないのじゃ防ぎようがない。一撃だ、一撃で俺は命を失う程の攻撃を受けた。惣一郎の『撤退』の装飾品が反応しなかった?反応するよりも早く攻撃を受けたのか。どうする、どうやって防ぐ。そも光が防げるのかあの攻撃を。光、光だ。ヴィヴィアンの中から溢れ出した銀色の光がマズイ。影は間に合わない霧になったところで消し飛ばされた終わ光が。『太刀 鑢』が無いとな光が、『無銘・永訣』す光が扱うことが出来光が。光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光がを光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光がを光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光がを光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が。
ヴィヴィアンとの戦闘開始から、二度目の『遡行』。
俺の右手の拳から、ヴィヴィアン目掛けて一直線に空間が歪み、何層にもなる空気の膜が誕生する。
このまま『衝撃・打』を放てば、またもや真正面からヴィヴィアンの攻撃を食らってお陀仏だ。
なんとしてでも、俺の術を解除しなければ。
「………ッがァァアアアア!!」
今までの『遡行』の場合、敵の魔術に先を塞がれ、その全てを回避する為に何度も『遡行』をしていた。
だが今回は違う、敵の魔術でもなんでも無い。
「まさか俺自身の術に苦しめられるとはなァ―――!!」
ヴィヴィアンの頭部にも歪みが到達し、まるで耐久度が無い潜水艦が深海に放り出された時と同じように。―――鉄塊へと姿を変えた。
間に合わない。この時間に、ヴィヴィアンの動き、確実に間に合う訳が無い。
次、次の『遡行』でどうにかするしか無い。
潰れた頭部、その中から銀色に輝く光が溢れ始め、 どこかで目にした、その眩しく光がしい光が俺の全身を覆光がくし肉体光が全て溶かさ光が俺を含む光が全体光がし、光がごと光がを光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光がを光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光がを光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光がを光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光―――。
「ここから間に合うか!?」
三度目の『遡行』を行い、目が覚めたその瞬間。俺の腕に全神経を集中させ、妖術の中断に力を注ぐ。
俺の右手の拳から、ヴィヴィアン目掛けて一直線に空間が歪み、何層にもなる空気の膜が誕生―――、
「っさせるかァァアアアア!!」
腕に強く巡らせた妖力を遮断し、供給を完全に断つ。そうすることで、妖術の発動に必要な妖力を無理やり不足させる。
二度目の『遡行』で同じ事をしたが、既に妖術が発動した後、時間が間に合わずこの様な事は出来なかった。
でも今は違う。発動する前に、妖術がヴィヴィアンを破壊するよりも先に止められた。
落下の速度を壁に『岩融』を刺して殺し、俺はヴィヴィアンとほんの数十メートル離れた地点で停止した。
「………っうぶぅぁ!?」
―――止められた、が、あくまでも『無理矢理』に過ぎない。強制的に 遮断した事により、腕に巡るはずだった妖力が行き場を失い、脳へと逆流を始める。
ヴィヴィアンの装甲と頭部を破壊出来る程に莫大なエネルギーを持つ妖力、それが普段『治癒の術』の分しか妖力を扱わない場所に送られた。
例えば、上限1500Wの延長コードに1500W超えの電力を永遠に使用すると発火、放電を始めるのと同じ。
それは必然的に、拒絶反応を引き起こす。
「………ぃッてぇ!!痛えけど、立てない程じゃねェ!!」
頭から湯気が出てるのではと思うほどに脳が熱くなり、あまりの疲労と『治癒の術』の連続使用による負担で 鼻から血が垂れる。
熱い、と言うより実際に脳の一部は焼き切れていた。そこを『治癒の術』で片っ端から治していく。
………我ながらイカれてやがる。
『理解不能。あなたは何故、自爆行為を行ったのですか。私には理解出来ません』
ヴィヴィアン視点からすれば、妖術を使おうとした奴が突然攻撃を止め、苦しみ悶え始めたのだ。
不思議で仕方が無いだろう。
「あァ? テメェは知らなくていいし、伝える気もねェよ。こっちは色々と考えるのに忙しいからなァ!!」
ヴィヴィアンの頭部を破壊すれば、もう一度あの光が俺を殺す。惣一郎の『撤退』を貫通する力が、俺を殺す。
それに、ヴィヴィアン本人が言っていた通りなら、アイツに『核』は存在しない。駆動に必要な動力源となるモノがそもそも無い。
となれば、ヴィヴィアンを完全に停止させる方法は無い。全身を砕けば光が来る、だが一部でも残れば装甲で身体を形成し、光を放つ。
簡単に言えば、詰みだ。
「………クソ、こっちは京都の魔術師探しで大変だってのによ」
そんな中、一か八か。ヴィヴィアンの頭部を破壊せず、ヴィヴィアンの攻撃手段を完全に潰して身動きを取れなくする方法が、俺にはある。
両脚の関節を『岩融』で斬り、バランスを失って地面へと落下するヴィヴィアンを『黒影・深層領域』の中へ収納する。
影の中は俺の許可があるまで動くことは許されず、自分の力で抜け出す事は出来ない。
「………完璧な作戦なんだがなぁ、成功確率は最っ高に低い。本当にコレしか方法は無いのか………?」
簡単に言ってしまえば、ヴィヴィアンの脚は『エクスカリバー』そのものだ。一振で全てを破壊する白銀の脚。
そんな世界に伝わり広がる伝説級の剣を、俺の『岩融』で本当に斬れるのか?
「………今ここでやるしか道は残ってねェンだ」
俺は壁に突き刺した『岩融』の持ち手に両脚を乗せ、ヴィヴィアンを見下ろす。
ここからの落下速度と妖術を上手く組み合わせれば、ヴィヴィアンの身体を切断する事は可能 だろう。
「…………す〜、ふ〜ぅ」
深呼吸し、妖術と目の前の敵に集中する。 狙うは脚部のみ。正確に、脚部の関節を一ミリもズラすことなく、斬る。
再び正しく循環を始めた妖力を脚に密集させ、爆発的な一蹴を行う準備段階に入る。
脚の筋肉がギチギチと音を立て、俺は徐々にちぎれつつある筋繊維を『治癒の術』で治し、またちぎれては治しを何度も行う。
『重要報告。妖術師の行動を確認。攻撃に備え、第三段階へと変形を開始』
俺の作戦を悟ったのか知らないが、ヴィヴィアンは壁に突き刺した脚を抜いて、空中へと身を投げ出す。
その瞬間、空中に漂うほんの数秒間でヴィヴィアンの装甲が全身へと移動し、完全防御の形態へと成る。
今度はガラスに指を刺すのではなく、尖った脚でコンクリートの上に乗り、速度を落とす。
やはり、頭部に装甲が偏ってた時よりも落下の速度が遅い。 ………なるほど、物理法則に反する動きの正体はソレか。
「さっきも気になったが、テメェの重力無視は脚部に装甲がねェと魔術的効果が少なくなるのかァ!?」
足元の『岩融』を蹴ってビル側面へと移り、脚に貯めていた妖力を起爆させ、一気にビルを駆け下りる。
速度が速すぎたのか、俺の身体スレスレの強化ガラスが音を立てて揺れ、次第に割れ始めた。
「『疾風迅雷』!!」
本来の用途とは違う使い方だが、爆発的な速度を手に入れる為なら何だって使う。
『命令承認。絶対不可侵領域を展開、白銀剣の使用を申請』
絶対不可侵領域、白銀剣。何を言ってるのか全く分からないが、使わせるのはマズイ事は分かる。
「不可侵だがなんだが知らねェが、使わせる訳ねェだろうが!!」
ヴィヴィアンとの接触まで、十秒。九秒、八秒。 攻撃が届く範囲にまで入った、影から『岩融』を取り出して、
「いや、『岩融』は使わねェ!!」
それに『岩融』はビル側面の壁に刺したまま、影による回収は不可能。
だから俺が今取り出すのは『岩融』では無く。それよりもヴィヴィアンに対して有効な武器。
「―――『選定の剣よ、導き給え』!!」
創造系統偽・魔術師から模倣した『疑似創造』による『選定の剣よ、導き給え』。 ヴィヴィアンと出会った時、俺の『選定の剣よ、導き給え』は震えて反応を示していた。
『エクスカリバー』を作り出した張本人かも知れない人物相手に、『選定の剣よ、導き給え』が有効かどうかは分からず、戦いの中で見極めていた。
『命令承認。白銀剣の使用を許可』
来る。白銀剣、いや『エクスカリバー』が来る。俺に何度も『遡行』をさせたあの光、その元となった剣が来る。
それよりももっと早く、速く、夙く。『エクスカリバー』を使わせるよりも先に、その元を確実に断つ。
不可侵領域と呼ばれる範囲が分からないが、極限まで近付き………脚を狙って『選定の剣よ、導き給え』を振り下ろす。
行動前のヴィヴィアンに近付き、懐へと潜る事に成功。『選定の剣よ、導き給え』の剣先がヴィヴィアンの脚、関節へするりと入った。
関節とは言え、金属製の身体。剣とヴィヴィアンの身体が激しく衝突し、凄まじく火花が飛び散る。
足りない。速度は十分だけどやはり、『選定の剣よ、導き給え』がヴィヴィアンに対して怯えている。
「………ックソがァあああああああ!!」
『強制肉体強化』に『狂刀神ノ加護』を発動させ、俺の剣に更なるブーストをかける。
その間も 力強く金属同士がぶつかり合い、ギリギリと音がなり続けていた。
―――瞬間、ほんの少し。ミリ単位だが、ヴィヴィアンの脚に切れ込みが入る。
「うォおらァああああああ!!」
俺の怒号に合わせる様に『選定の剣』から、強い意志が剣、手を通じて流れてくる。
望み、期待、歓喜、裏切り、怒り、悲しみが。俺の身体の中へと流れ込む。
果たしてこの感情はヴィヴィアンの『エクスカリバー』なのか、俺の『選定の剣』なのかは分からない。
ただ一つ、その感情の中に。持ち主に応えたいと言う意志がある。
もう二度と、手放さない様に。もう二度と、失わない様に。
『………その力。私の白銀剣とは真逆の存在。別世界―――否、正史の選定の剣!!』
「あぁ、そうだ。お前は紛い物、所詮造られたイフの存在!!間違った歴史は、正しい歴史へと軌道修正される!!」
切り込みが更に深くなり、亀裂へと変化して行く。斬れるかどうかすら分からない鋼鉄の身体を、本物の『選定の剣』が傷付ける。
同時に、俺の剣から発している銀色の光が次第に強くなり、光の輝きが変化を始めた。
『貴公は選定の剣を引き抜き、王として選ばれた存在。それに応える様に、選定の剣も変化する!!』
まだ見極める段階にあった『選定の剣』が、俺の『原作生成』で、伝説を創り出した最強の剣へと生まれ変わる。
「―――『伝説の剣よ、導き給え』!!」
勢いが増した、形の無い白銀の光が、関節を真っ二つに斬り伏せた。 切断面が溶けた様に赤くなり、斬られた脚はビルから地面へと速攻で落下する。
同時に、重要な箇所となる脚を失ったヴィヴィアンはバランスを崩し、尖った指を強化ガラスへと突き刺した。
『………まさか、白銀剣の持ち主に選ばれるとは。互いに模造の存在だと思っていましたが、貴方は違ったようですね』
俺はビル側面に着地し『黒影・深層領域』でバランスを整える。 そのまま後ろに居るヴィヴィアンの方を向いて立ち止まる。
「俺が斬ったのはまだ脚一本だ。テメェは残り一本を斬られずして負けを認めンのか」
『負け、ですか。えぇ、 この勝負は私の負けです。所詮、偽物は本物に敵わない存在ですから』
「随分と潔いンだな。お前の世界、ヴィヴィアンは騎士か何かだったのか?」
『私は戦場で戦う騎士ではありませんでしたが、王の、円卓の一人として戦いました。故に、選定の剣を直接渡して、最期は私がそのまま受け取りました』
「それで、『選定』のまま終わりを迎えた結果。俺のやつが反応を示したのか」
『………過去の話は終わりです。貴方は最上階に用があると伺っています 』
ヴィヴィアンの装甲が全て剥がれ落ち、ヴィヴィアンは強化ガラスを突き破って途中の階層へと入り込んだ。
俺もそれに合わせ、ヴィヴィアンと同じ階に入って回収し損ねた『岩融』を引き寄せる。
「最上階、って狙撃を受けたとこだろ。あんだけ爆発すりゃ魔術師であっても無事で済むわけが―――、」
『無事ですよ。彼は』
「………彼?」
ヴィヴィアンの脚、斬られた箇所に空いていた少し大きな空洞から何かが姿を現す。 剣の形をした、白銀の光を纏った武器。
『エクスカリバー』だ。分かりやすい特徴を持った剣とかでは無く、どこでもある様な 西洋の剣。
ヴィヴィアンは『エクスカリバー』を脚から取り外し、振り返って持ち手を俺に向ける。
「―――受け取れってか」
『私の脚を斬った貴方の剣は、形を持たない光だけの存在。それでは彼を斬る事は出来ません。故に、勝者である貴方には褒美が必要だと判断しました』
「………使い方は」
『貴方の白銀剣を、このエクスカリバーに付与すればいいだけです。概念能力付与、とでも呼びましょうか』
概念能力付与………なんだか『神霊能力付与』と似ている気がするが。
俺はさっとヴィヴィアンの手から『エクスカリバー』を受け取り、速攻で影の中へと収納した。
『それでは――― 行動開始。最上階へとお進み下さい』
ヴィヴィアンはその場でしゃがみ、胸に手を当てて俺に頭を垂れた。まるでこれから出陣する王に、敬意を表すかのように。
「じゃあなヴィヴィアン。王は二度も死なねぇ、しっかりと憶えてろ」
そう言って、俺は割れた強化ガラスから飛び出し、ビル側面へと脚を付けて最上階に向かって走り出す。
『氷解銘卿』の効果は切れ、既に氷は全て溶けて無くなっていた。
ヴィヴィアンとの戦闘が終わり、監視塔の最上階に再び向かう。 本来の目的を果たすまでにイレギュラーが発生してしまったが、そこで 思わぬ収穫を得た。
『………えぇ、信じています。私は王直属の騎士、円卓の一人なのですから』
俺が居なくなった階、そこで頭を下げ続ける機械が一つ。 別世界の湖の乙女であり、円卓として戦い続けた騎士。
彼女は新しく誕生した二人目の王様の帰還を願い、誰もいないガラスの向こう側を向き。
―――跪いていた。