数週前のこと。
アリィ「ポルポル、今から大事な話をするから、よく聞いてね。」
ポルポル「ギ?」
アリィ「私達はちょっと隣の、恒陽国に行ってきます。」
ポルポル「ギ。」
ポルポルは頷く。
アリィ「でも、ポルポルは連れていきません。何日か、この宿でお留守番してもらいます。」
ポルポル「ギッ!?ギッ、ギー!」
ポルポルは目を丸くし、アリィの目の前を飛び回る。
ジーク「凄い慌てようだな。初めて見た。」
アリィ「私も初めて見た。でも、ちゃんと話は理解出来てるってことで良さそう。」
ポルポル「ギィー!」
アリィ「あのね、ポルポル。イリア達と別れる前に、聞いたんだけど…今体調があんまり良くないんでしょ?私が気づけなかったのは…ごめん。だから、ここでしっかり休んでて欲しいの。無理やり連れて行って、悪化なんてさせたくないから。」
ポルポル「ギ…。ギー…?」
ポルポルはジークの方に顔を向ける。
ジーク「俺もアリィと同じ意見だ。本当はアリィにも休んでてもらいたいが…頑固だからな。」
アリィ「えへへ。」
ジーク「心配するな。今まで二人で、上手くやってたんだ。限られた物資の中でやりくりするのに関しては、俺はプロだぞ。」
ジークはそう自慢げに答える。
アリィ「ポルポルが居たら、物資をほぼ無制限に保管や、出すことが出来るけど…頼りすぎってのもね。ご飯は勝手にだして食べていいからね。」
そう言って、アリィはポルポルの頭を撫でた。
ポルポル「ギィ〜…。」
「もう一度聞くよ。君はボクのことを覚えてる?」
ニャヘマの前に立ち、白髪の青年、ノアは悪魔に問う。
ニャヘマ「あんたは…」
ノア「ちょっと説明が難しいけど、君と同じ魔法を使えるヒトかな。」
ニャヘマは目を丸くする。
ノア「……。」
ノアは振りかぶった尾に手を付き、そのまま飛び上がる。そして、悪魔とほんの数秒目を合わせる。
ノア「…ダメだ。防がれた。」
(記憶が読めない…?こんなこと一度も…)
ニャヘマ「そいつ…高知能種よ。」
ノア「高知能…?」
ノアは右から迫りくる尾を避け、疑問を浮かべる。
ニャヘマ「左!!」
ノア「っ!」
(この体勢じゃ…!)
ニャヘマが手をかざすと、左から来た尾が氷の壁と相殺される。
ノア「ありがとう、助かったよ。でもこれは…」
ニャヘマ「尻尾何本あるのもう!!」
ノア「それはボクも思う。逃げなさい。」
ニャヘマ「…なんて…」
ノア「これは相当厄介なタイプだ。君のその足じゃ、まともに戦えない。逃げなさい。子供は戦うんじゃなくて、遊ぶ生き物だよ。」
ニャヘマ「…悪いけど、家族を守れるなら死ぬ覚悟は、とうの昔に出来てるの。」
そう言うと、ニャヘマは自身の傷口に氷剣を突き刺す。
ノア「なっ…!?」
ノアが止める間もなく、ニャヘマの傷口は凍りついていく。
ニャヘマ「抉れたなら、補修すればいいだけ。止血は完了したわ。痛みなら気にしないで。私こういう無茶な扱い得意なの。器用って言うべきかもね。」
ノア「…君、砂漠の民の血が入ってるでしょ。」
ニャヘマ「ええ。祖父がね。だから3分の1。」
ノア「どうして、砂漠の民ってのは、皆イカれてるのかな…!」
ノアは、再び迫りきた尾をバネに飛び上がり、足に嵌められていた輪を外すと、悪魔に投げる。
ニャヘマ「あんたこそ、逃げなくて平気?」
ニャヘマはごく僅かな時間、悪魔の動きを止めるために足を凍りつかせる。
ノア「家族がやらかしたら、後始末をするのは身内だ。それと一緒だよ。」
ニャヘマ「そ。あと私は19。子供じゃない。」
ノアの投げた輪は、ニャヘマによって動きを封じられた悪魔の背をほんの少し抉り、ノアの手元に戻ってくる。
ノア「子供でしょ?手応えなし。」
ニャヘマ「正気?私じゃ背中に傷は付けられなかった。凄い殺傷能力だこと。狙うなら腹だよ。」
ノア「分かった。そんなに超時間戦える魔力もないし…約束を破ってきてるからね。早いとこ終わらせないと。…ばれたら…はぁ。」
ニャヘマ「そんなに怖いの?」
ノア「怒るとね。」
ニャヘマ「私の兄弟と一緒だね。」
アノは一人、永夜の国を駆けずり回っていた。
アノ「くそっ…!どこだ…!」
(悪魔は…まだこちらに来ていないが…既にあちらに居るのか…?)
アノ「…あっちこっちに魔力が散らばってて分からぬ…!この娘以外の反応で…4つ…。1つは悪魔だろう。後は…それに近い所に2つ反応…。恐らく襲撃を防いでいる…。」
アノはあるひとつの道を見る。
アノ「国境である橋付近に1つ反応…。」
(守り人が逃げるとは考えにくい。もう1つの悪魔と戦っている反応も、危険視する必要はなさそうだ。)
アノ「これが…守り人であれば、何の心配も要らないんだが…。ぐうっ…!?」
突如地面に突出した氷柱に、アリィの前髪が切られる。
アノ「とんだヘアアレンジだ!おなごの髪は命というのに、なんてことを…!」
(やはりそう甘くはないか…!)
アノ「擬態型の悪魔か…!」
(まずい…!この娘に代わるか…?しかし…)
無機質な足音が鳴る。
しかし、鳴るだけで姿は見えない。
アノ(この娘が戦うのは得策でない。逃げるが得策…!)
しかし、その動きを読んでいたように、家の壁から心の臓を突き刺そうと氷柱が即座に生える。それを咄嗟にアノは、スライディングし避ける。
アノ「こ、この娘の体が柔らかくて良かった…。」
(しかし、無茶な動きをしたことには変わらない。…すまない。アリィ、ちと我慢してくれ…。)
アノは瞼を閉じる。
再び瞼を開け、アリィはアノを労う。
アリィ(…十分やってくれたよ。)
「…そろそろ、どうして『人間』が攻撃してくるのか、教えて貰ってもいいかな?」
「それはね、ヒトを喰い、模倣する悪魔を知ってるから。だけど、その膨大な魔力は隠せない。」
頭の後ろから、酷く落ち着いた声と、何かを振りかぶった音が聞こえた。
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