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第7話 「一つ目の白星」
「今日は練習試合や」
福間監督の一言で、空気が変わる。
相手は前回と同じ、南筑高校。
前回は引き分け。
――次は、勝つ。
誰も口にしないが、その想いは全員にあった。
試合前。
「前と同じことをやれ」
福間監督はそれだけ言った。
「特別なことはいらん」
一拍。
「当たり前を、当たり前にやれ」
1回表(守備)
初回から動きは良かった。
声が出る。
連携が取れる。
三者凡退。
ベンチに戻ると、自然と声が飛ぶ。
「いいぞ!」
「このままいこう!」
雰囲気が違う。
3回裏(攻撃)
二死一塁。
田村が打席に入る。
カウント1-1。
外角の球を、逆方向へ。
――カキン!
ライト前ヒット。
続く打者も繋ぐ。
一、三塁。
小早川が打席に入る。
(準備……)
深く構える。
初球。
コンパクトに振る。
――コツン。
セカンドゴロ。
だがその間に1点。
先制。
ベンチが盛り上がる。
「ナイス最低限!」
派手ではない。
でも、点が入った。
中盤
柳城は守り切る。
エラーはない。
無駄な四球もない。
一つ一つ、アウトを重ねる。
6回表
ピンチ。
一死二塁。
相手のクリーンアップ。
(落ち着け……)
小早川がマウンドへ向かう。
「大丈夫っす。いつも通りで」
投手がうなずく。
次の打者。
打たせて取る。
――アウト。
続く打者。
フルカウント。
最後は――
――ズバン!
三振。
ベンチが沸く。
最終回
1対0。
一点差。
最後の守備。
打球はショートへ。
――パシッ。
一塁送球。
アウト。
ゲームセット。
柳城高校、1対0。
初勝利。
「よっしゃあああ!!」
ベンチが一気に爆発する。
拳を突き上げる者。
笑顔の者。
喜びがあふれる。
その中で、小早川は静かに息を吐いた。
(勝った……)
初めての感覚だった。
整列。
礼。
ベンチに戻ると、福間監督が一言。
「おめでとう」
短い言葉。
#高校生
だが、確かに認められた。
しかし――
「でもな」
空気が締まる。
「ギリギリや」
その言葉に、全員の表情が変わる。
「一点取れたのはええ」
「でも、あと何点取れた?」
誰も答えない。
「勝ったことに満足するな」
グラウンドを指さす。
「このレベルで止まるチームになるな」
喜びが、少しだけ引いていく。
代わりに残るのは――
悔しさと、欲。
帰り道。
啓介は思い返していた。
あの最終回。
あの一点。
(まだ足りない)
はっきり分かる。
それでも――
(でも、勝てた)
その事実は、大きかった。
水路に映る夜の灯り。
柳城に、ようやく一つ目の白星が灯った。
だがそれは――
通過点にすぎなかった。
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