コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ご飯を食べ終わった。
これからどうすればいいんだろう。
自分のことなのに考えたくなくなる。
あの家にもう一度帰ることなんてできるのだろうか?
「桜、話をしよう?」
「はい」
ソファーに蒼さんと二人で座る。
無言の時間が流れる。私から切り出した方がいいのかな。
チラッと隣を見ると、蒼さんは一点を見つめて真剣な顔をしている。
そっか、私が優人に暴力を振るわれているところを昨日実際に見ているし、私が話し出すまで待っていてくれているのかな。
「あの。私の話、聞いてくれますか?」
「もちろん。これからどうするか考えなきゃいけないだろ?」
これからどうするか……。
深呼吸をする。
「私、彼氏にDV受けてて……。身体的にもですけど……。お金も自由に使わせてもらえなくて……。付き合った時は本当に優しかったんです。でもいつの間にか、何か気に入らないことがあると、殴られたり……」
あぁ、思い出すと手が震える。
そんな私を見て
「辛かったら今は全て話さなくていい。昨日も酷い目に遭ったばかりだし……。でも、一つだけ聞いていい?」
「はい」
蒼さんは一呼吸置いて
「なんで今まで逃げようとしなかった?俺だったら理不尽に暴力振るわれたらすぐ逃げるけどな」
そうだよね。普通だったら……。
「今の彼氏は初めて付き合った人で。同棲を始めた時は、本当に幸せでした。彼も早く帰って来てくれたし……。暴力を振るわれた当初は、私が我慢をすればもしかしたらまたその幸せな時に戻れるかもしれないってどこかで想っていました。でも……。今は逃げたらもっと酷い目に合うとか、反抗したらもっと痛いことされるとか……。恐怖の方が強くて……。勇気を出すことが出来ませんでした」
「そっか……」
蒼さんは一言そう呟いた。
そして
「辛いかもしれないけど、もう諦めろ。元には戻らない。桜が傷つくだけだよ?」
ストレートに自分の想っていることを伝えてくれた。
あぁ、そうだ。
こんな風に誰かに言って欲しかったんだ。
涙が流れた。
「ごめん。キツイこと言った」
蒼さんは私の涙を見て、謝ってくれた。
けれど
「いいえ。私、誰かにそうやって言ってもらえることをどこかで望んでいたのかもしれません。気持ちがスッと楽になりました。ありがとうございます」
未練なんかない、これから再出発だ。心からそう思ったから。
「遥さん……。椿さん……。蒼さんと出逢えたからだと思います。本当にありがとうございます」
頭を下げた。
「へっ……?」
蒼さんは私の頭を撫でてくれた。椿さんが撫でてくれるように。
撫で方が同じ、やっぱり同じ人なんだ。
「今までよく頑張ったな。これからは大丈夫だから?」
そんなこと言われたら、さらに涙が溢れてしまう。
「うう゛……」
一生懸命目を擦る私を見て
「桜は笑ってた方が可愛い。でも――。今日は泣いていいから?今まで一人で我慢してきた分……」
蒼さんは私を引き寄せて、抱きしめてくれた。
「あっ、あの……?」
こんなに優しくしてもらっていいの?
「嫌?」
嫌なんかじゃない。すごく落ち着く。
「嫌じゃないです。すごく落ち着きます。でも、蒼さんの洋服が濡れちゃいます……」
いろんな感情が混じって、涙はまだ止まりそうになかった。このまま抱きしめてもらっていたら、彼の洋服が汚れてしまう。
「嫌じゃなかったら良い。そんなこと気にするな」
「はい……」
ここは素直に甘えよう。私も彼の背中に手を回す。
椿さんの時はモデルさんのように見えるのに、こうやって触れると身体は男の人なんだ。
彼は、声を押し殺して泣く私の頭をずっと撫でていてくれた。
ずっとこのままだったらいいのに……。
私はそんなことを想ってしまったんだ。