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「うーん。私も女性専用販売所で短期間だけど店を出すつもりでいるの。そのとき、一緒に入ってもらってもいいけど……」
「「是非お願いします!」」
二人揃ってぶん! と音がするほど勢いよく頭を下げられた。
「問題ないわよね、彩絲」
「ふむ。主は言いだしたら聞かぬからのぅ……」
「女の子だけになっちゃうけど、できないよりはマシでしょう」
「マシだなんて! パンの販売は女性が好まれていますから、本当に有り難いのです!」
ディアナが力説した。
「そういえば、五人の内訳は?」
「あ、はい。女が三人、男が二人です」
ああ、なかなか良いバランスだ。
しばらくは大変だろうが悪くないスタートを切れるに違いない。
「……もしスラムとこちらの物件、両方となるのなら、購入より賃貸の方がいいですね」
さすがに二店舗一括購入するお金は用意できない。
勉強してもらってスラム住居購入がぎりぎりなのだ。
今彼らが持っているアイテム全てを一端こちらで適正価格の購入してもいいんだけど、そこまでするのは甘やかしすぎな気もする。
ですね。
夫も同意見のようだ。
ここまで反対意見が出なかったのも珍しい。
よほど孤児たちへの同情が強いのだろう。
「いろいろと話を進めてしまったけど、取りあえず三件目を見てから話を詰めた方がいいんじゃないかしら? もしかしたら三件目はもっと好ましい物件かもしれないわよ」
「それもそうだよな」
「先走り過ぎちゃってすみません……」
チャンスを逃したくない気持ちの表れと思えば、不快感を覚える態度ではない。
むしろそれぐらいの心持ちでないと、他の孤児を率いてはいけないのだ。
「では、次の物件に移動してしまってもいいですか? 最愛様、二階や三階は御覧にならなくてもよろしいでしょうか?」
「せっかくなので、拝見させていただいても?」
「あ! あの、もしよろしければ、最愛様の御意見も拝聴したいです!」
ディアナに言われて頷いた。
意見が多いと迷うが、大きい決断をする際には違う視点の意見も必要だろう。
二人とイグナーツが先導する後ろに続く、既に階段の手すりがあちらの物件より元々の素材が良かった。
これが立っている場所で大きく違う点の一つ。
スラムの物件がここに建っていても誰も購入しない。
それぐらいのレベル差がある。
施設に入るのに家具はいらないと、一式置いていったようだ。
二階は寝室になっていた。
優しい色のカーテンや壁紙。
寝心地の良さそうなダブルベッドが一つ。
寝具は替えもあるという。
備え付けのクローゼットの中にはシーツやタオルケットに毛布や枕なども入っていた。
一日の疲れを癒やす寝具には力を入れていたようだ。
もしかしたら幾つかは持っていったのかもしれない。
床には大きな絨毯が敷かれており、ベッドの足元には毛足の長い小さな絨毯が、家具の下にもそれぞれ家具のサイズに合った絨毯が敷かれている。
ベッド近くのサイドテーブルには照明も置かれていた。
クローゼットの他にはタンスも残されていたが、こちらには中身が入っていなかった。
「さすがにベッドは売るのかしら?」
「頑張った人の御褒美か、交代制で寝るのもありかなぁと思います」
「売るのは……勿体ないです」
大きなベッドを売却すれば、子供用の小さいベットを多めに置けそうだが、寝心地の良いベッドでの就寝を御褒美にすれば頑張る子も出てきそうだ。
「小さい子なら何人か寝れますし……もし借りられたら、そのまま残したいです」
残されている物を引き続き丁寧に使いたいという考えは好ましい。
きっと老夫婦も喜ぶだろう。
寝室の反対側はリビングルーム。
テーブルに大きな一人用のソファが一つ、二人用のソファが一つ。
隅にはコンロが二つ程度のキッチン。
パンは下から持ってくるとして、それ以外の料理をこちらでしたのだろうか。
製造スペースは覗いていないが、作るパンによっては普通のキッチンのような設備があってもおかしくはない。
食器棚には空きがあり、幾つかの食器も残されている。
何人ここに住むかはわからないが、さすがに購入しなければならない物の一つだろう。
「三階は?」
「老夫婦は足腰が大分弱ってきていたので、物置として使っていたようですね」
「……お子さんたちが昔使っていた小物などもありました」
「少し埃が被っていましたが普通に使えそうなものばかりで嬉しいです」
孤児の子たちには有用なアイテムがあるのなら使えばいい。
片付けて共有スペースと寝室になるのかな?
スラム街の物件より狭いはずなのに、どうしてだか広く感じるのは、老夫婦が丁寧な時間を過ごしていた名残なのかもしれない。
結局三階には足を運ばずに、最後の物件へと移動した。
やはりじろじろと凝視される。
ノワール、彩絲、蛇と蜘蛛たちまでもが頑張って威嚇していた。
私の姿は認識阻害までかけられる始末だ。
良い手配です。
やり過ぎだと思うも、過保護な夫は納得していた。
解せない。
三件目は随分と豪華な外観の物件だった。
「「ほぇ……」」
二人などは気の抜けた声を上げながら、その物件を見詰めている。
イグナーツ曰く、高級家具店とのこと。
ただ現在は外から見ても薄汚れた感じが否めない。
経営破綻後破産したので商品も差し押さえられたらしい。
少し前まで違う商会が管理をしていたため、この状況なのだとか。
掃除を入れるとなると費用がかなりかかるので、今の代金で一定期間賃貸及び売却の希望を受け付けていると説明があった。
「さぁ、入りなさい」
「……入っても大丈夫ですか?」
「家具とか……壊しそうで怖いです」
曇っているガラス越しに見える家具は繊細な細工が施された豪奢な物だ。
二人が躊躇するのもわかる。
「高級家具を間近に見れる機会なんて、なかなかないと思うわよ?」
私の言葉に、それもそうか! といった表情をした二人。
「じゃ、じゃあ、入ります!」
「ええ、どうぞ」
私とイグナーツに促されて二人は恐る恐る中へ入っていく。
「お先に失礼してもよろしゅうございますか?」
珍しくノワールが断りを入れてきたので、これも頷いて許可をする。
「ふむ。幾つか購入したい家具でもあるのじゃろ」
「そうなの?」
「ああ、妾も欲しい物が幾つかあるぞ」
「えぇ? そうなんだ!」
商品の目利きは確かだったらしい。
まだ健全な経営をしている段階で足を踏み入れてみたかった。
そうすればこの店舗は現在も経営できていたかもしれない。
「御購入いただけるなら勉強いたしますし、掃除もさせていただきますが……ノワール殿より腕の良い方はそうそうおられませんので、掃除は彼女にお任せするとよろしいのではないでしょうか?」
掃除はシルキーが得意な家事の一つだしね。
ノワールのスキルにある清掃が力を発揮するだろう。
特殊清掃は……アンデット用の攻撃スキルだったっけ。
何となく細かい部分の掃除とか、血などの汚れを綺麗にする印象が強いから、毎回思い浮かべてしまう。
「イグナーツ殿! 幾つか欲しい物があるのです。購入は可能ですか?」
「ええ、勿論」
「妾もよいかぇ」
「当然です。最愛様も如何でしょうか?」
「うん。見せてもらうね」
二人は家具から距離を取りつつもきちんと観察をしている。
それ以外の点についても検証をしているようで、二人でああでもないこうでもないと話をしていた。
ノワールが購入を決めていたのは、ダイニングセット。
横長のテーブルに椅子四脚。
その椅子も肘つき二脚と肘なし二脚となっている。
定番のセットで有名な工房の限定シリーズらしい。
また丸テーブルに肘つき椅子二脚も同じシリーズなので購入するとのこと。
ホワイトとブラウンがあるけれど、ホワイトがより希少で前から探していたそうだ。
「主様のアフタヌーンティー用ですね、移動時の」
「あー確かに似合いそうだね、アフタヌーンティーセットに」
移動時専用のアフタヌーンティー家具がある件について、突っ込みを入れてはいけないと自分を戒めておく。
「……これ、何を入れておくの?」
彩絲が欲しがったのは、三ドアのキャビネット。
見せるためのティーカップを飾っておく豪華なショーケースにも見える。
「人に見せたい物、かのぅ。違う工房のものだが、女性向けの高級な品じゃ。主がアフタヌーンティーをするときのティーカップ専用棚にしてもよいぞ?」
高級なティーカップを使うときは、何時だってどきどきしてしまう庶民のハードルを上げないでほしい。
精緻な百合の花が浮き彫りになっている大型キャビネットには、贅をこらしたティーカップの数々が良く似合うとは思うけれど。
「……ノワール殿と彩絲殿の御購入分を引くと……先ほどのパン屋とあまり変わらない金額になりますね……」
「「はぁ?」」
またしても二人の声がハモる。
驚愕に満ち満ちた声だ。
「それだけ高級な家具なんですよ。商品として残されている家具が全て売れれば、家は無料譲渡でもいいくらいです」
「そうなんだ」
「こちらの家具でしたら、元々新品ですし。綺麗に磨き上げれば転売も可能でございます」
「そうじゃのぅ。ノワールの腕があれば最低でも二~三倍。オークションに出せば十倍になるかもな」
転売用に購入してもいい。
そうすれば今までの二軒と違って雑貨販売用の機材が必要になってくるが、それを差し引いてもお買い得な物件になるだろう。
「もともとオークションは予定しているから……一緒に出してもいいのかな?」
「主様の出品される物はどの品も高額ですので、購入層は同じでございましょう」
「人気の家具じゃからなぁ。主が一度購入したという価値がつけば、更なる高値が見込めるぞぇ」
「……そういうもの?」
「ええ。この店の評判がもともとあまりよくないのですよ。ですから品物が高品質なのに買いたたかれる未来しか見えなかったのです」
それもあって放置していたのかな?
まぁ放置すれば今回みたいに、想定しない条件で売れるケースもあるからね。
「……こ、この物件が購入できるとして……それに相応しい販売物を用意できるかどうか……」
「服ダンジョンのレア物限定で、レア物入荷時のみ店を開けるとか?」
そういう販売方法もありだろうが、運要素が強すぎないか。
表立っては売れない品々を高貴な人たちから引き取って、代わりに販売する方法もありそうだ。
高貴な人たちは現金が手に入り、こちらは販売手数料などをもらう……そんな形の。
「うーん。じゃあ、家具は全部引き取るよ。代金のやり取りはノワールとしてもらっていい?」
「はい、そうさせていただきます」
「さて、二人とも。こうなったらいっそ、三件全部購入しておく?」
二人は大きく目を見開いたまま硬直してしまった。
まさかこんな状況になるとは思いもしなかったのだろう。
私も想像しなかった。
「そうそう。住居部分の家具も高級ですよ。中古でも人気のある物ばかりです。そちらは残しますか?」
「「同じく販売でお願いします!」」
豪華すぎる家具は毒になるのかもしれない。
二人は今回も仲良く声を揃えて要求を伝えた。
「では、そうしましょう。ノワール殿、そちらは如何しますか?」
「……現物を見てきます。寝具は難しいかもしれませんし」
「妾も行くぞぇ」
ノワールと彩絲は階段を上っていった。
「最愛様……その、この物件に関しては、最愛様が購入されては如何でしょうか?」
「私が?」
「ええ。さすがにここまでの高級な物件は孤児の手に余ります」
家具を全て撤去しても家自体が豪奢だしね。
購入してしまったらやっかみを受ける気がする。
「でもこの街に永住するつもりはないからなぁ……」
「冒険者であれば拠点の一つとして、如何でしょうか。もしくは委託販売の店舗として御活用いただくとか……」
ふと王都の拠点にいる皆を思い出す。
スペックの高い彼女たちを責任者にして、販売業に勤しんでもらうのもいいかも。
「……少し皆で相談してみるわ」
「はい! あのあくまでも御提案ですので、最愛様のお心を最優先でお願いいたします」
「ええ、ありがとう」
真面目に誠実に働いてくれるなら、最愛の名前を貸すくらいはいいかしら?
魅了娘が酷かったからといって、そこまでその子たちに肩入れする必要はありませんよ?
夫の声がした。
肩入れしたつもりはないのだけれど。
やっぱり魅了娘にざまぁを与えるのなら、被害者にはそれに応じた贖いがあってもいいはずだと思ってしまう今日この頃だった。
コメント
1件
第144話、読み終えました〜!三軒目の高級家具店、そのまま物件ごと買っちゃう流れになるとは思わなかったです!ディアナたちが「ほぇ……」ってなる気持ち、すごく分かります。ノワールがアフタヌーンティー用にダイニングセット選んでるシーン、思わず「ああ、それ良いな」って頷いちゃいました。高級家具に囲まれて暮らす孤児たち…想像しただけで胸が熱くなります。あおいさん、素敵な物語をありがとうございます🌷
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#死亡遊戯で飯を食う
ユイ
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