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…体が痛い。どうやら、ずっと床で寝ていたらしい。私は起き上がるために手に力をいれ、上半身を起こす。ギシィっと音がなり、床板は少し曲がりながら体重を支えた。重い体をゆっくり立たせ、改めて周りを見回した。暗い木造の部屋。古びた匂いがする。
ここはどこなんだ…?
それどころか、何も分からない。
呼吸が荒くなり、冷や汗が輪郭をつたい私を煽った。自分を思い出せない。この体が自分のものでないみたいな感覚がした。棒立ちのまま過呼吸で震えるひとりの視界の端には、鏡があることなんかしばらく気がつかなかった。はっとし 急いで自分の姿を見ようとした。ほこりをかぶり、少し曇ったように見えるひび割れの鏡。そこにうつしだされたのは、くたびれた少女。制服を着た、女子高生だろうか。髪は肩で綺麗に揃えてある。襟についてある校章に目がいった。
あぁそうだ。私は塔城 咲だった。
なんでこんなことを忘れていたんだろう…。鏡の中の自分を見てから、自分自身を思い出した。
ただ、それ以外が思い出せない。一向に思い出せない。とにかく、知らない場所が怖くなり部屋を出た。勢いよくドアの前に立ったくせに、嫌な可能性を考えたのか、本能的にゆっくり開けていく。ドアの先にあったものは、長い廊下だった。部屋と同じ、窓のない木造の道。オレンジがかった常夜灯のような電球がぶら下がっている、暗い道。外を感じれないたびに、私は焦りが滲み出る。ここからの脱出が実感できなくなっている。それでも進んで、何個かあるドアの内のひとつを開けた。今度は頭が想像する暇もなかったから、ばんっと音をたてその向こうを確認した。なんでか、こういう時に限って人がいた。自分がいた部屋と全く同じ景色の空間にひとり、セーターを着たお団子結びの女の人が横たわっていた。これはまずいと急いでドアを閉めたが、あまりのドアの勢いに彼女は起きてしまったらしい。
「…えっ。どこ?どこなの!?」
廊下に薄く響いた声を聞き、立ち去ろうとした私は足を止める。この反応は、私の仲間なのかもしれない。私は、ひとりじゃないのかもしれない。
もう一度その部屋へ戻る。
咲「あ、あのぉ…」
??「わっ!え、えあ。やめ、やめてください!!ごめんなさい!!」
咲「え、いや違うよ!?私、多分仲間なの。気づいたら部屋にいたの…同じでしょ?」
そう聞いて、彼女は静かに私を見つめた。
??「そ、そうなんですか…?」
咲「そうそう!!仲間だよ!!」
??「あぁ良かった…いつの間にか知らないとこにいて、これからどうなっちゃうんだろって感じだったので…あ、あれ?知らないっていうか、私、何も思い出せないかも!!どど、どうしよぉ」
また騒がしくなってしまった。えっえと言いながら必死な様子で考えている。震えながら頭に手を添えて、今にも泣きそうだった。私は彼女に、自分もそうだった 鏡を見れば思い出せたと声をかけ、この部屋にもある似たような鏡を指さした。彼女はしばらく自分の鏡像を眺め、口から声を漏らす。
「あぁ、あ。私の名前、ちひろ、千紘 菖蒲です…!思い出せました!!私は千紘菖蒲です!!」
彼女は泣きながら安堵した。私は千紘の肩をゆっくり撫でる。こうしていると、なんだか安心した。それから、私達2人はこの廊下にある無数のドアの向こうを全て調べた。そうしたら、全く同じ状況の人達が11人もいた。全員合わせれば13人だ。あまりに異質だった。全員誘拐され、全員記憶がない。あまりにおかしい状況。頭の中で、12人をひとりひとり整理した。
🤯千紘 菖蒲(チヒロ アヤメ)
セーターを着たお団子結びの女性。かなり落ち着きがない。
👾山縣 真宵(ヤマガタ マヨイ)
パーカーを着た小柄な女の子。逆に落ち着きすぎている。発言が少なく、引っ込み思案かも。
👗雛形 久遠(ヒナガタ クオン)
ワンピースを着た長い髪の女の子。私達が来たとき、鏡を見ては自分に見惚れていた。変なやつ。
🎪我俺僕 私俺(ガエンボク シオレ)
不思議な格好をしたツインテールの男の子。こんな状況でも楽しそうだ。明らかに変なやつ。
🎀曲鎖 澄(マガサ スミ)
ダウナーな雰囲気をまとった女の子。人一倍疑心暗鬼で、周りと距離をとっている。
🪽天天 天天(アマソラ アッテン)
制服を着た茶髪でボーイッシュな女の子。彼女は行動的で、リーダーシップがある。
🌀榊夜 梟(サカヤ フクロウ)
マスクをつけスーツを着た男性。落ち着いた様子で冷静に物事を考えている。
👊羽仁 黒鵺(ハニ クロヤ)
タンクトップの男の子。とにかく元気で、かなりお喋り。落ち着かない様子だ。
👕不破 喧士(フワ ケンジ)
高身長で金髪の青年。爽やかで清潔感がある。みんなの話しを積極的にまとめてくれる。
❤️🔥八束 猟(ヤツカ リョウ)
少し髪が長く、眼帯をした少年。かなり攻撃的で荒れた性格。彼も周りと距離をとっている。
📱江夏 蘭々(コウカ ランラン)
ポニーテールで制服の女の子。みんなに話しかけては大笑いする、楽観的な子。
✨九重 灯(ココノエ アカリ)
制服を着た男の子。これといった特徴も無く、平均的な人。
かなり主観もはいってしまったが、こんな感じだろうか。ただ、ここまで人がいれば心強いのは確かだ。さっきよりも足が軽かった。いろんな人と会ってきたが、集団で行動することはなかった。各々がこの場所を調べている。玄関らしい場所は閉ざされていて、窓もない。完全に外の景色が見えなくなっていた。木造で古い家といっても、さすがに道具がなければ壊すのも難しそうだった。そうして歩き回っていくと、倉庫のような場所を見つけた。蜘蛛の巣が張っており、薄暗く奥が見えない。手前に積んであった本を開いてみると、そこには私の写真が貼ってある。背筋が凍った。あまりの恐怖に手を離してしまうほど。なぜ私の写真があるのか、床に落ちた開いたままのその本をゆっくり見下ろしながら頭を働かせた。結論は「誘拐なら写真があってもおかしくない」だった。その結論が限界だった。私がピースをしていたり、誰か小さい女の子と手を繋いでいる。何かを思い出せそうな雰囲気があった。
私俺「あ、なにやってんの??」
咲「うわっびっくりした…。私俺、見てみてよ、私の写真があったの。なんか不気味よね。」
私俺「そうなんだ…俺のもあるかな。」
そう言って彼は積まれた本を次々に開く。
私俺「これ、全員分ある感じだね。」
そう呟きながら本を開いていく。その時に気がついた。彼の両腕は、金属製の義手だった。
一瞬、何かの見間違いかと思ったが、本をめくるたびに、無機質な指がわずかにきしむ音を立てていた。私は肩唾を飲んでしまった。触れてはいけないと思い、すぐに手元の”私”を見るふりをした。 しばらくして、彼は自分のものを見つけたのか、1冊の本を持ち出してどこかへ行ってしまった。
しかし、私は彼を止めるべきだったかもしれない。あの腕を掴んででも。
この屋敷では、記憶を取り戻すことがどれだけ危険か、誰も まだ知らなかった。