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元気な子ども達の笑い声が聞こえてくる。

暑い夏も落ち着き、夕方自由に外で遊ぶ保育園の子ども達の姿を見ると僕とは真反対のキレイな世界が見える様な気がした。キレイな世界に入る事で汚い自分も誤魔化せる様な気持ちになった。

「せんせー!こっちきてー!」

僕の手を引きながら無邪気に誘ってくれる子ども達。

専門学校には通っていたけど、ずっとこんなクズな自分には務まらない仕事かもしれない…。と、始めは不安だった。そんな保育の仕事も今では10年以上続いている。実習はたくさん注意を受けながらも何とかこなした。これしか僕が出来る事がこの先に見つかる気がしなかったから、出来ない部分を直球で突きつけられても堪えるしかなかった。経験不足な仕事内容も、女の人だらけの職場も、肯定感の低い自分自身も、本当に何の希望も無かった。でも続ける事で、仕事の視野や知識が広がっていく事を知れた。合わせて子ども達の成長を見守るやりがいも見付けられた。続けて良かった。今はそう思えてる様になった。

 表向きは優しい先生というイメージを持ってもらえるくらいには立ち位置を確立出来ているけど、世間一般から見てどっちつかずな中途半端な見た目が本当はコンプレックスでもあった。居心地の良い職場であっても、ストレスや疲れから相変わらず醜い自分が顔を出す。その度に誰でも良くなって、相手を探しては一晩限りの関係を持っていた。僕は夜の時間帯には好都合な容姿らしい。見た目の使い道もあって良かった。

 ただ、そんな性癖のせいで保育園に迷惑をかけ無い様に、昼間の身なりや体調には自分なりに気をつけている。

 専門時代には転々としていた夜職も、5年程前から出入りする様になったバーのマスターのご好意で不定期に働かせてもらっている。とにかく時間を隙間無く潰したかった。そんな生活が続くうちに昼間も働き、夜も働いていた事で突発的に体調を崩した。その際、普段は優しいマスターにとても叱られ、何故そんなに働くのか理由を聞かれた。

本当の事は言えなかった。なので『母子家庭で貧しかった生活の事』を話すと、「わかった。でも無理だけはしないで。」と、不定期でも働かせてもらえる様になった。他人に心配してもらったのは恋人以来。

久しぶりの事で素直に嬉しかった。マスターは大らかで優しい。保育園同様にバーも自分にとって特別な場所になっていた。


・・・・


今日はバー勤務の日。「ツキー。そっちのお客様お願いなー」と、マスターから指示が来る。

「はい、わかりました。」頷いてからお客様が座るカウンターの前に立ち、注文を受けて提供する。すでにほろ酔いの客に「君、可愛いねー。男の子?女の子?」と声を掛けられた。少し照明を落とした店内と、自分の中性的な顔立ちに客はパッと見どちらか判断がつかないらしい。

「おとこ、、です…。」

「そっかーお肌が綺麗だから女の子かと思ったよー。」

「ありがとうございます…。」すぐに連れと話し始める客にホッとした。性別の事はいつもどちらか聞かれているので慣れている。悪気がない事は客の話し方や雰囲気で伝わっていたので手短かに返事だけした。

愛想が無くてもあまり気にされないのはバーの良いところでもある。マスターは明らかな陽属性なので、変に絡まれるとすぐに場を治めてくれるので、それも働きやすい理由だった。


・・・・


「おつかれー。気をつけて帰ってねー。」

「お疲れ様でした。」今日も営業が終わったバーを後にした。営業時間後でも夜の時間が少し長く感じてしまう。店の裏口から出て、急に肌寒くなった夜風に当たりながら帰る。

『この肌寒さも案外嫌いじゃないな…。』

そう思いながら上着のポッケに両手を突っ込んで歩き空を見上げた。それでもやっぱり急に感じた肌寒さから寂しい気持ちになった。歩いているとタイミングよくスマホのメッセージが鳴る。

『終わったら来れる?』

『行く。』そう短く返信をして、そのままセフレの元へ向かった。これが僕の日常。これが普通なんだ。誰かにこれが正解かを聞いても意味の無い事。これが僕の正解。寂しいよ。独りは寂しい。だから自分以外の誰かが僕には必要なんだ…。

 

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