TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する


夕方の園庭には、子ども達の笑い声が響いている。


夏の暑さも落ち着き、自由に外で遊ぶ子ども達の姿を見ると、僕のいる世界とは正反対に見えてくる。


そんな時は、置き去りにされた子どもの気持ちになる……



「せんせー!こっちきてー!」


子ども達が僕の手を引きながら無邪気に誘ってくれている。



進学を考える時には、勉強が得意じゃない僕に選べる進路なんてなかった。


”保育士”だって「いつでも、どこでも働ける資格」くらいの軽い選択肢だった。


……だけど、そもそもそんな甘い仕事なんて、世の中には無い。



今なら普通に理解しているけど、本当に軽い気持ちだった。



実際、保育園で働き始めた後も、自分にこの仕事は向いてないかもしれないと思っていた。


でも続けることで、仕事の視野や知識が広がっていく事を知れた。


気づけば──もう十年だ。


簡単に選んだ仕事だったのに、今はやりがいも見付けられた。



──続けて良かった。



でも、たとえ居心地の良い環境であっても、ストレスや疲れからどうしようもなく汚い自分が顔を出す。


眠れなくなる度に誰でも良くなって、一晩限りの相手を探しては関係を持っていた。


でも、自分勝手な理由から周りに迷惑はかけたくない。


自分のためにも、それなりに昼間の身なりや、体調には気をつけるようになった。





専門時代には転々としていた夜職も、今は五年程前から出入りする様になったバーのマスターのご好意で不定期に働かせてもらっている。


昼間は保育士、夜はバーテンダーの二重生活。


──とにかく時間を隙間無く潰したかった。


そんな生活を続けていると、ついに体調を崩してしまった。



普段は穏やかで優しいマスターに叱られ、「何故そんなに働くのか?」と、理由を聞かれた。


「──眠れないから」なんて、本当のことは言えなかった……


僕が「母子家庭で貧しかったからです……」と、マスターへ言うと、


「──わかった。でも無理だけはしないで」

と言われた。


僕が適当に言った嘘でも、マスターは信じてくれた。


それ以来、不定期で働かせてもらえる様になった。


マスターはとても良い人だ。


他人に心配してもらったのは恋人以来。


久しぶりのことで素直に嬉しかった。


保育園と同様に、居心地の良いバーも自分にとって特別な場所になっていた……





──今夜は、バーで勤務の日


「ツキー、そっちのお客様お願いなー」


と、マスターから指示が来る。


「はい、わかりました。」



頷いてからお客様が座るカウンターの前に立ち、注文を受けて提供する。


すでにほろ酔いの客に「君、可愛いねー。男の子?女の子?」と声を掛けられた。


少し照明を落とした店内に、自分の中性的な顔立ちも相まって客はパッと見だと、どちらか判断がつかないらしい。



「────男です……」


「そっかー、お肌が綺麗だから女の子かと思ったよー」


「──ありがとうございます……」


すぐに連れと話し始める客にホッとした。


性別の事はいつもどちらか聞かれているので慣れている。


客に悪気がないことは、相手の話し方や雰囲気で伝わっていたので手短に返事をした。


愛想が無くてもあまり気にされないのはバーの良いところでもある。


マスターは明らかな陽属性なので、変に絡まれるとすぐに場を治めてくれる。


それもここで働きやすい理由だった。





「おつかれー!気をつけて帰ってねー」


「お疲れ様でした」


軽く会釈して、マスターと別れた。


深夜、その先にある独りの時間が長く感じる……


店の裏口から出て、急に肌寒くなった夜風に当たりながら帰る。



(この肌寒さも案外嫌いじゃないな……)



そう思いながら上着のポッケに両手を突っ込んで歩き、空を見上げた。


それでも急に感じた肌寒さからなのか

──夜の闇が深いように感じた。



歩いているとタイミングよくスマホのメッセージが鳴る。


《終わったら来れる?》


《行く》



そう短く返信をして、そのままセフレの元へ向かった。



────これが僕の日常。


これが普通なんだ。


誰かにこれが正解かを聞いても意味の無い事。


今夜も、自分以外の体温が必要なんだ。

ただ、抱きしめて。

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

11

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚