テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する


今ではすっかり見慣れたマンションへ着いた。


エントランス横のインターホンを鳴らすとすぐに明るい声が聞こえてくる。


「はい、はーい♡」


電子ロックが解除されてエレベーターで上階へ上がる。


部屋の前でもう一度インターホンを鳴らすと、ジュリがパステルカラーのパジャマ姿で出迎えてくれた。


「おつかれー、待ってたよー♡」


「お疲れ様……」


無気力な声で返し、白で統一された清潔感のある部屋へ入ると、リビングに荷物を置いた。


ジュリは先に入った僕の後を追うようについてくると、嬉しそうに僕のことを見ている。


いつも通りにそっとジュリを抱きしめると、甘くて優しい匂いがした。



ジュリとの付き合いは二年になる──


ジュリは二十一歳で、キャバクラで働いている。


小柄でふわふわな巻き髪に大きな猫目。


僕から見ても、ジュリは可愛いと思う。


裏表が無く、サバサバしていて、いつ会っても明るくて、楽しそうにしている。


ジュリが出会ったきっかけは、僕が働いていたバーに、彼女が同伴客と一緒に立ち寄った時だった。


好奇心旺盛なジュリは、僕の見た目に興味を持ったらしく声をかけてきた。


……しかも同伴の最中なのに。


僕も普段ならどの客に対しても無関心だけど、ジュリだけは違った。


だって、一緒にいた同伴客そっちのけで、僕への質問ばかりするから……


僕は、ジュリの強引で純粋な情熱に負けてしまった。


あの時は、僕への食いつきように、一緒にきていた同伴客が怒り出してしまうかと心配になり、さすがに慌てたけど、


……まあ、その同伴客(どこかの社長だろう)もジュリの姿をにこにこしながら見ていたし、きっとジュリは普段からこんな感じなんだろうと思った。


それから、ジュリとは連絡をやり取りする仲になった。


ジュリは人の心に寄り添うことが上手い。


「この子、きっとすごく売れてるんだろうな……」と思った。


セフレの関係になる前、ジュリが自分の話をしてくれた。


「ツキみたいな人に初めて会ったから、なんかテンション上がっちゃって!」


そう言って笑っていた。


それと今、片想いをしているけど、その人は昔からの知り合いで”結婚指輪をしている”こと。


──本当のジュリは、叶わない恋に傷付いていた。


今でも不思議に思う。


ジュリの気持ちを知った時、僕も誰にも言うつもりがなかった”眠れない理由”を話していた。





ジュリと何度か連絡をやり取りした後、


「じゃあ、お互いを使おう♡」


そう言ってセフレ関係を提案してきたのはジュリの方だった。


少し驚きはしたけど、「いちいち探す手間が省ける」程度の気持ちで受け入れた。


「なんだか緊張するけど、これからよろしくね♡」


そう言って笑ったジュリと抱き合った……





会う約束はしていない。


抱き合う日はジュリが気まぐれに僕をマンションへ呼び、一緒の時間を過ごす。


ジュリは、僕に先約があっても絶対に怒らない。


気まぐれだけど、切り替えの早いジュリは、一番付き合いの長いセフレになった。



出会ってから殆ど僕への態度が変わらない。


でも、少しだけセフレになってから変わったことがある。


それは……ジュリは僕を愛玩ペットのように扱う。


僕へ「可愛い!」「大好き♡」という言葉がとても増えた。


「なんで?」


と聞いたら、彼女の中では”盛り上がるために、物凄く僕を溺愛している設定”らしい……


この時も「設定があると燃えるでしょ!」と、言って笑っていた。



裏表の無い小悪魔なジュリと身体の関係を持つうちに少しずつだけど、本音も話せる仲になった。


”他人”は、身体だけが必要であって苦手だ……


でもいつもにこにこ出迎えてくれるジュリのことは嫌いではない。



「ツキー、早くやろっ♡」


いつも明るくノリの良いジュリ。


今夜も無反応な僕の様子を気にすること無く、溺愛設定のまま嬉しそうだ。


軽くシャワーをしてから、そのままベッドで2人の時間を過ごす。


ジュリはゆっくりするのが好きらしく、僕もジュリの反応に合わせて動く。


他にもたくさんの人と身体の関係は持ったけど、僕が女の子を抱くのはジュリだけだ。


ジュリの中へ入るととても暖かい。


抱き合いながら、お互いを補い合う。


──ただ、それだけの行為



限界が来て、ジュリと一緒に果てるのと同時に、僕は気絶するように眠りについた。





眠ることが怖い……


その度にセフレと過ごすか、都合の良い相手を探しては一夜を共にしてきた。


呼ばれるとセフレの元へ行った。


家に呼ぶこともある。


正直、外じゃなければセックスなんてどこでしても良い。


他人に対しては無関心。


僕は男女関係なく寝る。


男なら抱かれ、女なら抱ける。


こんな行為はただ少しでも”気持ちよく眠る為の運動”でしかない。


────どうでも良い……



いつもそう思いながら、一日のタスクをこなすように相手を探した。


──相手の気持ちも、自分の気持ちも

どうだっていい。





翌朝、目が覚めると隣には寝息を立てながら眠るジュリがいた。


昨晩は夢を見ずに眠れたことに少しだけ安心した。


ベッドからそっと起き上がると、そのままシャワーへ行った。


身支度を済ませてから、まだ気持ち良さそうに眠るジュリを起こさないように、静かに部屋を後にした。

ただ、抱きしめて。

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚