それから数日間、俺は自分の中の違和感に気づかないふりをして過ごしていた。
佐久間とはいつも通り。
仕事の合間にふざけ合い、ふとした瞬間に真剣な顔を見せる。
そんな姿を何年も見てきたし、何も変わらないはずだった。
……なのに。
「阿部ちゃーん!」
元気な声とともに、後ろからぐいっと腕を絡めてくる感覚。
「ちょっ、佐久間」
「ははっ〜、お疲れ!」
楽屋に戻った瞬間、佐久間が腕にしがみついてきた。
驚いて肩をすくめると、本人は何も気にせず肩に顎を乗せてくる。
「今日の収録、阿部ちゃんのツッコミすごかったね」
「そりゃどうも。だからってそんなくっつくなって」
そう言いながら、自然に佐久間を引き剥がそうとする。
近すぎる距離。触れた体温。耳元で聞こえる佐久間の笑い声。
……なんで、こんなに意識してるんだ?
「え〜? いいじゃん、阿部ちゃんあったかいし」
「子供か」
呆れたふりをしながら、なんとか冷静さを取り繕った。
でも、心の奥がざわつく感覚は消えない。
——まさか、いや、そんなわけない。
俺はただ、佐久間の自由すぎる行動に驚いただけ。
そう思いたかった。
だけど、その日から、俺の中で“佐久間”の存在が少しずつ変わり始めていた。
たとえば、ロケの移動中。
隣に座った佐久間が無防備に寝落ちして、俺の肩に頭を預けてくる。
「……佐久間、ほんとどこでも寝れるよな」
ぼそっと呟いて、肩を貸したまま動けなくなる。
以前なら「仕方ないな」くらいに思っていたのに、今は違う。
佐久間の髪が触れる感覚が妙に気になった。
すぐそばで、静かな寝息が聞こえる。
なんだ、この緊張感。
心臓が少しずつ速くなるのを感じながら、窓の外に視線を逃がした。
何でもないはずの時間が、やけに長く感じる。
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きゅんきゅんします