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12 - 第12話 アザレア

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2025年05月29日

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クロノアさんから連絡がきて、その場所にぺいんとさんと急いで向かう。


やはりと言うか、トラゾーさんは自らいなくなろうとしていた。

間一髪ので救い出され、お互いの想いを伝え合ったところ白銀の百合を吐いたトラゾーさんは気を失ったらしい。


僕たちが駆けつけた時は、クロノアさんは自分の体温を移すようにトラゾーさんを抱きしめていた。


びっくりするくらい痩せて軽くなった体。

所々、引っ掻き傷の跡や握り締めてできた薄れた内出血痕があった。


そうクロノアさんは罪悪感を抱いた顔をしながら言っていた。


「トラゾー、ごめんね…」


「、…っ、ぅ」


αとの触れ合いがなかったΩの心身の負荷は計り知れない。


「ごめん、トラゾー…」


そこで瞼が震え、ゆっくりとトラゾーさんが目を開けた。

緑の瞳がクロノアさんをじっと見つめる。


「くろのあさん…?」


「トラゾーっ…目が覚めたんか?」


「よかった…夢じゃ、なかったんですね…」


ぼんやりと彼を見上げるトラゾーさんはふわりと笑った。

それはまるで花が綻ぶように。


「っ、夢じゃないよ」


「クロノアさん…」


「なぁに?」


いつもの優しいクロノアさんの声。


「もっと、ぎゅってしてください」


「うん」


「ふふっ、嬉しい…」


そのまま擦り寄るトラゾーさんの破壊力は正直、他の人には見せてはならないくらいのものだった。


「ッッ…!」


別の意味で葛藤してるクロノアさんに大判のバスタオルをかける。


「体を冷やします。向こうにタクシー待たせてるので行きましょう」


トラゾーさんの愛車は代行の人にお願いする。


「うん。…立てる?トラゾー」


「だいじょぶです」


多少ふらつきながらも立ち上がったトラゾーさんにぺいんとさんが大判のバスタオルをかける。


「ぺいんとも、しにがみさんも、ごめん…」


「……」


いつものお喋りが嘘のように無言のぺいんとさん。


「怒ってる、よな…?」


「……」


「ぺいんとさん…?」


あまりにも無言すぎて声をかけた瞬間、ぺいんとさんが右手を出した。


パシッと軽い音。

ぺいんとさんがトラゾーさんのほっぺを叩いた音だった。


「ぺいんとさん⁈」


「バカ!大馬鹿野郎!お前はホントに俺らを頼ろうとしねぇ!死んだら二度と会えないんだぞ⁈ホント馬鹿野郎!…どんだけ、心配し、たかと…」


ついには泣き出した。


トラゾーさんは叩かれたことを怒りもせず受け入れていた。

思考の似ている2人だからこそ、そうされると分かっていたのだと思う。


「うん、弱い俺でごめん。…俺を見捨てないでくれて、ありがと、ぺいんと…」


「約束しろ!俺らとずーーっと友達でいることを!」


涙目でトラゾーさんを睨んで指をさす。


「!、…うん、するよ。ぺいんととしにがみさんとずっと友達でいる」


普段なら人を指差すんじゃありません!と怒る人が今はへにゃりと嬉しそうに笑って泣きながら笑うぺいんとさんに手を伸ばした。

多分、抱きしめようとしたのだろうけどそれを止める人物がいた。


「それはダメ」


クロノアさんだ。

後ろから羽交締めしてバスタオルでトラゾーさんの顔を隠してしまった。


「わっ…」


「ぺいんとが濡れちゃうから、ね?」


「あ、そっか。ごめん、ぺいんと」


見えないはずの犬の耳と尻尾が垂れ下がって見えた。

しゅんとしてる。


「……ううん、いいよ」


涙が引っ込んだぺいんとさんはへらっと笑った。


ぺいんとさんが濡れるなんてのは建前だ。

本音は表情と滲み出る威嚇のフェロモンで分かる。

βの僕でさえ竦みそうな圧倒的なもの。


因みにトラゾーさんは気付いてないようだ。

なんて器用なことをする人なんだ。


「…クロノアさんって、超ヤキモチやきやん」


「そうだよ。知らんかった?」


「だって、あなた淡白そうじゃないすか」


「ぺいんとさん、猫は嫉妬深いんですよ。昔から言うじゃないですか」


「そう。だから俺、もう我慢することやめたんだ」


「「へ?」」


「うわっ⁈」


俵のように抱えられたトラゾーさんはクロノアさんの突然の行動に困惑していた。


「クロノアさん⁈」


「ぺいんと、しにがみくん、ごめんけど2人で先に帰ってくれる?」


「え?」


「代行の人とタクシーで帰って」


「クロノアさ…?、ぁ…」


されるがままのトラゾーさんは突然の行動の意図が読めたのか黙ってしまった。


「赤の他人にトラゾーのものを触られたくない」


物にさえ、他人の痕跡がつくのが嫌なようだった。

ホントに猫のような人だ。


「……ぺいんとさん、帰りましょう」


「……うん、そうだな。…トラゾー、また後日な」


「…ん」


遠くの方で困ってる代行の人のところに行き、軽く説明をしてタクシーに乗り込む。


「…そういや、トラゾーは今ヒートだったな」


ぽつりとぺいんとさんが呟いた。


「そう言えばそうでしたね。…そりゃ、邪魔しちゃダメだ」


後日と言ったけど、果たして2人に会えるのはいつになるやら。

朝陽に照らされ白く輝く海を眺めながら思った。




───────────




浜辺でびしょ濡れになってる2人を見た瞬間、ホントに焦った。

クロノアさんから連絡が来たから、死にはしてないと分かってても心臓がきゅっとしまる。


「(よかった)」


気を失うトラゾーの傍らには白銀の百合があった。

トラゾーを守るようにして纏われるクロノアさんのフェロモン。


心の底から安心した。

かなりの荒療治をした自覚はあった。

吉と出るか凶と出るかは、クロノアさんの本能に賭けていたから。


まさか、クロノアさんとトラゾーの奇病が同時に治るなんて思ってもみなかった。

前よりも安定したトラゾーのフェロモンを包むようにして強くなったクロノアさんのフェロモン。


割れた硝子が元通りになって、より強く綺麗なものになったみたいだった。


タクシーで2人と代行の人を乗せて帰る道。


「よかったね」


「すみません。こんな時間にわざわざお願いしたのに」


「いいんだよ」


あの時、乗せてもらった運転手さんだ。


「深い事情はよく分からないけど、丸くおさまってよかったよ」


優しく笑う運転手さんに笑い返す。


「はい」


「いい友人を持てて彼も幸せだと思うよ」


しにがみくんと顔を合わせる。


「俺らにとってもいい友達です」


バックミラー越しに俺らを見て目を細めた。

そこにかけられた白い押し花のチャームが揺れる。

きっと娘さんの手作りの物だろう。


「……実はね、僕もΩなんだよ」


「「え」」


「娘は、僕が産んだ子なんだ」


全く気付かなかった。

βかと思ったくらいだから。


「君たちと同じようにすごく心配かけた友人…というより、幼馴染がいてね。…それが今の僕の番なんだ」


ちらりと前を見れば代行の人は寝息を立てて寝ていた。

睡魔に逆らえなかったのだろう。


「…おれ……、僕たちにその話をしてもいいんですか」


「そうだね、君たちには聞いてほしいな」


「わかりました…」


静かな声で話し始め、俺らはそれに耳を傾けた。


「僕は君たちくらいの歳の時にはまだ番を作ってなかったんだ。…まぁ、そんなある日突然、ヒートを起こしてね。抑制剤を運悪く持ってなかった僕は名も知らないαに襲われて……娘はその時にできた子なんだよ」


「「!!」」


「僕は、自分を責めたよ。何度も何度も悩んで死のうとした。でもなかなかできなくてね、そうこうしてるうちに子供ができてることが分かった。勿論、相手は誰かも分からないから1人で産むしかない。けど、…言い方は悪いけど望んでできた子じゃなかったからいっそこの子と一緒にって…」


「「……」」


「それを必死で止めて、説得して僕と番になってくれたのが今の奥さんなんだ」


「奥さん…」


「彼女はαでね、小さい頃からの幼馴染だったんだ。昔から世話好きのお節介やきでね。『あんたを私が幸せにしてやる!誰よりも、世界で一番!』って言われてねぇ。こんな僕のことをずっと支えてくれたんだ」


「…娘さんは、その…」


「話したよ。奥さんとは血が繋がっていないことを。望んでできたわけではないことを。多感な時期にそんなことを言っていいのかと悩んだ。…けど、彼女に似たのか娘も『それが何?お父さんの好きな人は私の好きな人なんだから関係ないよ。それに、私のことちゃんと産んでくれた。いっぱい悩んで苦しんだお父さんは私のこと産んで愛してくれてる』って」


「かっこいいですね」


「うん、僕にとって世界で一番かっこよくて可愛くて大好きな2人だよ」


その微笑みは積み重ねてきた年月だからこそできるものだった。


「周りの友人たちにも恵まれて僕は幸せ者だよ。……だから、君たちも彼らのことを支えてあげて。きっと壁にぶつかることもあるだろうから」


この人がそう体験してきたように、その壁を何度も超えてきたように。


「俺らはその壁をぶっ壊してやります。あいつらが前に進めるように、先回りして」


「僕たちにもあの人たちにもたくさんの味方がいますから、何重にもある壁だって壊してみせます」


細めていた目を開いて小さく笑っていた。


「ふふっ、僕も大概お節介だったね」


タクシーの速度が落ちていく。


「いえ、…俺らあなたに出会えて、あなたでよかったです」


「とても大切な話を、ありがとうございました」


そしてタクシーは止まった。

隣で眠る代行の人を優しく揺り起こす運転手さん。

慌てて飛び起きたその人にも俺らはお礼を言った。


「それでは」


そう言って降りていくその人を見送る。


「俺らも降りよう」


後部座席のドアが開き降りる。

運転手さんもタクシーから降りて深々と頭を下げてきた。


「またのご利用お待ちしております」


「「ありがとうございました」」


色んな意味を込めて。

心の底からのお礼を。






3月9日(日常組結成日)

白…愛される喜び、満ち足りた心

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