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「タオル持ってくるから其処から動くなよ!廊下が濡るからな」

中也はそう云って、自分の服の水気を切って部屋に入っていく。

「う、ん…………判った……」

走って行く中也の後ろ姿に、僕はポツリと呟いた。

あの後、僕は中也と一緒に中也の家に来た。

大きなマンション……。

中也より雨に当たっていた為、僕は全身びしょ濡れ。けれどそんな僕に、中也は外套を被せたままだった。

「……………」

僕に被せてたら濡れるのに…………でも────温かいなぁ。

少し濡れた中也の外套に僕は触れる。刹那、廊下の奥の方から足音がした。

「悪ィ、太宰!風呂湧いてなかった!取り敢えず躰拭くぞっ!」

そう云う中也の手にはタオルが握られている。

中也はしゃがみ込んで、掛けていた外套を取ると、僕の髪を拭き始めた。

反射的に瞼をギュッと閉じる。片目を薄っすらと開けた。

視界の隅にタオルが入り込む。

「っ……ちゅう、や………」

「ん?如何した?」

中也は僕の髪を拭くのを止める。

「中也は髪の毛、拭かなくて佳いの?」

首を傾げながら僕は聞いた。

僕がそう云うのも、中也は髪がまだ濡れていたからだ。

「俺は後でで佳い、手前の方が先だ。風邪引いたら大変だろ?」

煌めきと揺らめきが、眼の前で起こる。
















『大切に思ってくれている』
















きっと、あの人が云った事は全部事実だったんだ。

「……ふふっ…」

自然と口元が緩む。

タオルで僕の髪を拭く中也の手に、優しく触れた。

そして──────────。


「ありがとう、中也っ!」


笑顔で中也に云った。

中也が目を丸くし、動きを止める。僕は首を傾げた。

「中也?如何したの、?」

僕の声に中也は反応せず、静かな音を立ててタオルが床に落ちる。

「ちゅうy──────────ゴンッ!!!

僕が声をかけようとした瞬間、中也が床に勢い良く頭をぶつけた。

「……ッ!?」

唐突な中也の行動に、僕は目を見開く。

「ち、中也!?大丈夫ッ!?」

「………………」

中也は頭をぶつけた体制のまま動かない。

僕は如何すれば良いのか判らず、辺りをキョロキョロ見渡したり、中也に声をかけたりと、ソレを何度も繰り返した。



















































***

「悪い太宰、大丈夫か?」

暫くして、平然とした顔で中也は起き上がった。

「ぅ、うん……僕は大丈夫だけど、中也は?」

僕は自分の額を指して、ココ赤くなってるよ…?と何処か震えた声で云った。

其れに中也は、大丈夫だ、と云う。

絶対に大丈夫じゃない………。

内心、何で自分で頭をぶつけたのか少し知りたかった。

「如何して頭ぶつけたの…?」

「気にすンな、何でもねェよ」

笑顔で中也は云う。

僕は、えぇ…と声をもらした。

中也が床に落ちたタオルを拾う。

「リビング行くぞ、此処に居たら躰冷やしちまうからな」

そう云って、中也は僕の手を引っ張った。

「ぅ……うん…」

混乱しながらも、僕は中也の手を握って付いて行く。

結局、何で頭ぶつけたんだろう……?



















































***

「もう少ししたら風呂沸くから、其れまで待ってるぞ」

俺はそう云って、太宰をソファに座らせる。

先程使っていた湿ったタオルを取り、今度は大きめのタオルで太宰を包み込んだ。

コレで少しは温かいだろ、後は………。

立ち上がって袖を捲り、髪を結う。キッチンへと向かった。

「太宰、白湯飲むか?」

「白湯ッ!!?」太宰がソファから勢い良く立ち上がる。「ココアとかじゃなくて……?」

「いや白湯で良いだろ、簡単に作れるし躰温まるし……」

「それはそうだけど…………味しなくない?」

顔を曇らせて太宰は云う。

「蜂蜜入れりゃあ美味くなる」

俺はそう云って、食器棚から二つマグカップを出した。

ソファの方から、ゔぅん…と唸る太宰の声が聞こえる。

ガキかよ、と俺は微笑した。

電気ポットに水を入れ、切換機(スイッチ)を押す。沸騰するのを待った。

後ろの棚に背を持たれる。

「………………」

静かな空間になると、どれ程小さい音でもよく聞こえる。

布が擦れるような音が耳に響いた。

瞼を開ける。

太宰がソファの上でゴロゴロしているのだろうと、何となく判った。

暇になると、彼奴は良くそうするから。俺と同じで。


──────ありがとう、中也っ!


刹那、先刻の言葉を思い出し、沈黙が生じる。

ゴンッ!!

近くにあった壁に、俺は自分の頭を思い切りぶつけた。

「…ッえ゙!?」

太宰の声が後ろから聞こえる。

「ちょ……中也、大丈夫!?」

と声を掛けてくるが、太宰の声はどんどん遠のいていった。

頭の中で何かがグルグルと回る。

床がない奥底に、ゆっくりと落ちていくような感覚に陥った。

「………違ェ…」

固く拳を握り締め、俺はボソリと呟く。

別に、ぁ…何だ此奴可愛いな、とか思ってねェし。只、子供っぽさがギャップ萌えだっただけだし、特にそんなやましい事は何もねェ。俺は子供のキラキラした笑顔に久しぶりに当たった。それだけ。ン?待て、それじゃあ俺が子供好きみたいじゃねェか。断じて違う。俺は、あー、、ほら……あれだ。何時もチビチビ煽って来る太宰が俺より小さくなって、かつキュルキュル(?)してるのが悪ィンだ。そうだ太宰だ。あれは太宰。可愛いって思ったって何も起こらな───────。

「いや其方の方がアウトじゃね?」

其の日、一瞬だけ俺の思考が狂った。















































***

「ほら、白湯できたぞ」

額を赤くしながら中也はそう云って、目の前の机の上に白湯が入ったマグカップを置く。

僕は其れを取って、一口呑んだ。

躰の心から全身へと温かくなっていき、其れを心地良く感じる。

自然と口元が緩んだ。

「美味しい……」

口先から言葉をこぼす。

中也は其れに少し目を見開いた後、小さく嬉しそうに笑って──────。

「そうか…」

蜂蜜が入った白湯は、温かくて美味しかった。



















































***

「ちょ、中也っ……!」

「んァ?如何した?」

僕が声をかけると、僕の頭を洗う中也の手が止まった。

「力強いよっ、髪の毛抜ける!先刻タオルで拭く時は優しかったのに……」

「別に洗えりゃあ、其れで佳いだろ」

そう云って、再び中也は僕の髪を洗い始めた。

ゴシゴシと少し雑に洗われ、振動で頭が揺れる。

「何か、雑ぅ…」

肩をすくめながら云った僕の言葉に、中也はははっ、と微笑した。



























































***

ドライヤーの温風が僕の髪を煽る。

「……っ…」

毛先が肌に当たり、少し擽ったかった。目に入らないよう瞼を閉じる。

「ぅしッ、乾いただろ?」

中也はそう云って、ドライヤーの切換機を切った。

「ん、ありがと…」

乾いた髪の毛に触れ、彼方此方に跳ねた毛先を整える。

僕は中也に視線を移して、

「中也、今度は僕が髪乾かしてあげようか?」

「えっ…、いや…」

中也が目を丸くしている間に、僕は中也からドライヤーを取る。

「僕だってできるよ」

そう云って僕は中也の後ろに周り、ソファの上に立った。

目を丸くしたまま暫く僕を見つめた後、中也は柔らかい笑顔をする。

「そンじゃあ頼むわ」

其の言葉に、僕は笑顔を浮かべた。

切換機を押してドライヤーから温風を出す。温風が中也の赭色の髪をあおった。

中也って意外と髪が長い………。

髪の毛一本一本が、宙に舞う。柔らかな好い匂いと、煌めきが眼の前で起こった。

「……中也の赭い髪──────綺麗だね」

僕の其の言葉に、中也が目を見開く。

ゆっくりと僕に視線を移した。

「そ……そう、か…?」

只、唐突に云われた発言に、中也は目を見開いているだけだった。

ドライヤーの切換機を切り、僕は中也の質問に「うん!」と答える。

中也は何処か嬉しそうな笑顔を浮かべて云った。













「ありがとな」























──────プルルルルル




刹那、中也の携帯から電子音が響く。

中也は机の上に置いてあった携帯を手に取った。携帯を開く。

そんな中也を横に、僕はコンセントからドライヤーの細引(コード)を抜いた。

「ン、芥川からか…?」

ピッと、先程の電子音とは少し明るい音が聞こえる。

其の瞬間───────『中也さんッ!!』

僕にも聞こえる程の声が、中也の携帯から籠もって聞こえた。

あれ、此の声………。

携帯から響いた声に、僕は聞き覚えがあった。

「敦ィ!?何で芥川の携帯なンだよ!?」

中也が目を見開きながら云う。

そうだ、あの温かい場所に居た白髪の人の声だ。

柔らかい笑顔で、優しくて……。

『済みません中也さん!実は僕達太宰さんを探してましてッ!携帯は僕、中也さんの電話番号知らないんで芥川から貸してもらいました!』

落ち着きのない声が聞こえる。

僕と中也は視線を交わした。

皆の云う“太宰さん”────詰まり僕は、今此処に居るのだから。

「あー敦、連絡しなかった俺も悪いが……何つうか、その………」

『矢っ張り中也さんも知りませんよね!?済みませんホント!』

「いや…だから、そうじゃなくてな……」

『給湯室の戸棚から乱歩さんの駄菓子を取りに戻って来たら居なくなってて!』

「敦落ち着け、そしてよく聞け…」

『……は、はい…………』

中也は息を吐き、そして吸う。

云った。

「太宰は今、俺の隣に居る」

『えっ…』

声をもらした後、沈黙が辺りを包み込む。

僕と中也は白髪の人の返事を待った。

そして──────。

『ええぇぇぇぇええッッッ!!!?』

籠もっていても尚、其の声は室内に響き渡る。僕は思わず耳を塞いだ。

中也も反射的に耳元から携帯を離している。

『じゃ、じゃあ太宰さんは大丈夫なんですね!?』

「……ぉ、おう……」

『良かったぁ〜』

そう云って安堵した。

良かった、か……。

そんな、心配してくれてたんだ…。

悪い事…しちゃったかもな……。

黙って出て行かなければ良かったかな…。

『色々と申し訳ないんですけど、太宰さんの事お願いしても大丈夫ですか……?』

「おう、任せろ」

『っ!本当に有難うございます!』

電話から籠もって聞こえる其の言葉に、中也は凛々しい笑顔を浮かべた。

互いに沈黙が生じる。

相手の事は電話な故に判らないが、中也は電話が切れるのを待っていた。

「……………」

『……………』

「……あー、何かあるか?」

『えっ、あ…いや!』

中也の其の言葉に、白髪の人は慌てる。

僕は静かに其れを見ていた。中也が首を傾げる。

『と、特に何も無いんですけど……只…………』

「只…?」

一呼吸おいた後に、其の言葉は室内に響き渡った。

『矢っ張り、太宰さんは其方の方が良いのかなって……』

中也が再び首を傾げる。

『ぁ、深い意味はないんですよ!?でも何か、太宰さんは中也さんと居る時、少し雰囲気が変わるなぁって……』

僕には、よく判らなかった。

だって………多分だけど、僕の事じゃないから。

『何か、昔馴染みの人と話す時ーみたいな…?済みません、変な話をしてしまって…』

「────いやァ?」

中也はそう云うと、僕の頭に触れて引き寄せた。

思わず目を丸くする。

そして中也は云った。

「何方も対して変わンねェよ」

『____…ありがとうございます』

籠もっていても、何処か嬉しそうな声だった。






















































***

電話が切れる。

僕は中也の名を呼んだ。

「中也」

「ン?如何した、腹減ったか?もう直ぐ晩飯の時間だしな」

「ううん、そうじゃない…」

小さく横に首を振って、僕は云う。

中也が首を傾げた。僕は中也の上に乗る。

「……中也はさ…」

「うん?」

「僕…の事…………」

重い空気を吸っているようだった。

肺に溜まって、吐き出せない。言葉に出来ない。

少し苦しかった。

「ぼくが如何した…?」

中也が首を傾げながら聞いてくる。

僕は暫く中也を見つめた後、云おうとした言葉をつぐんだ。

後に紡がれる君の言葉に、僕は微かな恐怖を抱いたからだ。

「何でもない!ご飯食べよう」

ニコッと笑顔を作って、僕は云う。中也はそんな僕を見て、何故か息を吐いた。

そして──────。



「何かあったら直ぐ云えよ」



「____…ッ」

見開いた眼が小刻みに揺れる。

煌めきと揺らめきが瞼の裏で起こった。

きっと僕は、今しか君に会えない。

何時になったら、本当に君に会えるのかな…?

ねぇ、何時かの相棒……?

君と出会って、過ごして行って。

君は僕に何を齎(モタラ)す?

其れを愛と云うのならば。

其処で僕は、“僕を止められる”。

若しかしたら、“僕としての”生き方を見出だせるかもしれない。

ねぇ、中也。

僕の何時かの相棒…?




君は僕を────――――――――る?





























































ソレを君に問えば、何かが変われるのかな……?


太宰さんが幼児化した件

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