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趙雲が、孫夫人の列を見つけのは、どのくらい駆けた後のことだったろう。



気がつけば、着いてきていたはずの兵は、後ろにはおらず、彼方で、地響きがしているような、そんな、かすかな気配しか感じられなかった。



皆、昼は千里を駆けるという趙雲の愛馬、白龍の俊足に着いてこれなかったのだ。



「うん、少し、勇み足になってしまったか、白龍よ。仕方ない、私達だけで、あの難所を突破するぞ」



言いながら、趙雲は、孫夫人の列を見据えた。



同じ頃、やはり、警護役の武装侍女達が、趙雲の姿を見つけていた。



馬車の覗き窓越しに、報告を受けた尚香は、やはり、追ってきたかと覚悟する。



目指す河岸までは、あと少しのはず。このまま、振り切るか。



追われていると分かれば、何かしら、呉の加勢があるだろう。どうせ、こちらの思惑は、バレているはず。



尚香の悩みを打ち破るかのように、趙雲の声が届く。



「孫夫人!護衛に参りました!」



趙雲は、ありったけの声を張り上げる。



いくらかでも、あちら側の警戒を解きたかったのだ。



夫人が、乗っているであろう、馬車の周りを囲む侍女達の列が崩れた。



来るか!



趙雲は、覚悟する。



と──。



「お待ちもうしておりましたぞぉー!お見送りいたしますぞぉー!」



野太い声が、先から涼やかな風に乗り流れて来た。



河岸の直前で、まるで進行を邪魔をするかのよう、張飛が兵に列を組ませている。



そして、その背後には、巨大な帆船が、何隻か確認できた。



趙雲は、全速力で孫夫人の列へ駆け寄ると、先導したいと申し出る。



「姫様……」



馬車の中では、重い空気が流れた。



謀ったのは、もう、バレている。



趙雲、張飛と揃い、体の良いことを言っているのが証拠。



「……これまでか」



つと、呟いた女主《おんなあるじ》に、古参の侍女も頷いた。



「姫様……、どうか、最後までお側に。私もこの身をもって……」



口重に言いながら、手には、懐から取り出した、短剣を握りしめていた。



「待て、早まるな。しくじりは、許されない。しかし、それは、呉の掟ぞ。今は、まだ、蜀の地におる……相手の出方を見極める。それからでも……遅くはないだろう?」



尚香の言葉に、侍女は涙を流す。



「尚香様!馬車を止めてください!張飛まで、おりますよ!!」



めったに会えない張飛が居ると、阿斗は、大喜びだった。



「……ば、馬車を止めよ!」



阿斗が、こちらにいる以上、武将達も無体なことは、行うまい。



つい、保身に走った尚香は、自らを恥じた。



そもそも、阿斗を、幼子を、巻き添えにしてはならなかったのだ。



そんな、苦悩に襲われる馬車の中へ、一光が差し込めた。



いつの間にか扉が開き、趙雲が、阿斗をしっかりと抱きあげていた。



「おお、阿斗様も、孫夫人のお見送りを?一声かけておかれませんと、お姿が見当たらないと、侍女が心配しておりましたぞ」



「ありゃー、阿斗や、黙って、出てきたかー、そりゃー、ちいと、まずいのぉ。いくら、母じゃと、別れるのが寂しいからと言っても、こっそりは、まずい、まずい」



趙雲と張飛に正され、あっ、皆に、言ってなかった、と、阿斗は、息を飲む。



「かまいませぬよ、趙雲が、知っております」



「いやいや、この張飛も、知っておるぞ!母じゃ、恋しさに、着いてきた、とな」



ハハハハ、と、張飛は、笑った。



「あー!阿斗は、寂しゅうはありません!!あっ、でも、尚香様が、いなくなったら……」



「なあーに、ご用がお済みになられれば、また、戻ってこられる、なあ、孫夫人?」



張飛の言葉に、尚香は、小さく頷き、趙雲に抱かれている阿斗を見る。



「……暫く戻ってこられないが、阿斗や、鍛練を怠るでないぞ」



苦し紛れに言った言葉を、阿斗は真顔で、受け止めていた。



「我らが主君、劉備様のご正室、孫夫人のお宿下がりぞ!皆の者、礼を持って、お見送りをいたせっ!」



張飛のひと声で、兵達は、手を重ねる拱手をして、深く頭を下げると、孫夫人への礼を表した。



尚香は、馬車から降りると、趙雲へ、



「いずれ、許されるであろうか?」



と、問うていた。



「夫人は、宿下がりに向かわれるだけではござりませぬか……」



うん、と、頷き、尚香は、長江を見る。



沖には、呉の船が待っている。



こちらの様子に応じるかのよう、尚香達を迎える小舟が、下ろされ、静かに向かって来ていた。



「お陰で、何事もなく、戻れそうじゃ、世話になった」



言って、尚香は、振り替える事なく迎えの小舟に向かって歩んだ。



悔しさか、寂しさか、何かわからない感情に押され涙いているのを、誰にも見られたくなかった。



そして、劉備と共に、この長江を渡って来たのだと、思い出していた。




内情の脅威(了)


乱世の刀自(とじ)

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