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太陽の光に照らされ、僕は自然と目を醒ます。
体を起こそうとするが力が入らず、そのまま数分間寝たままの状態だった。 恐らく、昨日の戦闘で無茶しすぎたからだろう。
暫くして、体を動かす程度まで回復した僕は体を起こして辺りを見渡す。
一番最初に目に入ったのはやはり―――彼女の死体だ。
上半身と下半身が絶たれ、頭部は刀が貫通した痕が残っている。この場に普通の人間が居たら間違いなく嘔吐していただろう。惨たらしい死に方だが、こいつは僕を殺そうとして来た奴だ。
―――お似合いな最期だよ、全く。
「……死体どうするか、このまま放置しておく訳にも行かないし、かと言って回収した後どうするんだって話になるし」
勿論、宿に持っていくなど以ての外。有り得ない。
僕は頭を抱えて考え込む。殺したのは良いが処分に困る事を戦う前に考えておけば良かったと今になって後悔している。
さてどうした物か―――
「え?死体?燃やして埋葬してあげればいいじゃん」
ポケットに手を突っ込みながら簡単そうに言ったのは僕の友人であり同期でもある元妖術師『夜市路 雅人』。
彼は昔所属していた組織で共に活動…手伝いをしていた。そんな彼は組織解体後、普通の高校に行き普通の大学に通っている。
「燃やすって、妖術で?」
「それしか無いだろ?大きな火を起こせる物をここまで持ってこれねぇし、なんなら持ってきたくねぇし」
「 」
僕は何も言わなかった。
「焔の神よ、私に寵愛を………―――焼炙」
手をかざしたもの触れたものに熱を加える術、発動。
焼炙は、鉄を変形させるだけの超高温も出すことが可能。発動中は腕が黒く硬化し、棘も生えてくる。
それは自身の熱で火傷しないためなのか、妖術師としての潜在能力を引き出すためなのか、或いはその両方か。
「焦げ臭いな…人が焼けた時の匂いってこんな感じなのか、二度と匂いたくないな」
「それは同感だ」
僕と雅人はそのまま何も言わずに、焼け終わるのを見届けて埋葬した。
「そう言えばお前、千里眼とか蛇戰心眼とか使えないのか?」
千里眼、それはあらゆる万物を一目見ただけで全てを透視、把握、解析、鑑定出来る術。
蛇戰心眼、それは人がなにかをしようとする時、邪気の流れとなって現れる術。
「無理だな、そんな大層な術使えねぇよ」
生憎だが、僕はまだこの二つを扱える域にまで達していない。父親のように全ての術が使えるようになるにはまだ―――
「ふぅん、そっか。じゃ俺の仕事も終わった事だし、そろそろ帰るわ」
雅人はポケットから手を出して頭の後ろで組む。
だるそうに振り向き、そのまま歩いて帰って行った。
「さてと、宿に行きますか…」
出来ることなら、宿のふかふか布団で眠りたい。
こんな硬い地面じゃなくてちゃんとした布団に。
昼の10:00。
僕は太陽の光に照らされ、自然と目を醒ます。あの時とは違って体は全回復し、幾らでも動かせるようになっていた。
昼食は宿で食べる予定だったが…、
自らの命を絶ってループした為、次また誰かに襲われそうになっても察知出来ずにそのまま殺されてしまう可能性があった。もし尾行されていて、昼食を食べてる時に襲われたら―――
そう考え、僕は近く…ここから8km離れた場所にあるのコーヒーショップに行って昼食を食べることにした。
お店に入って、一番奥の席から二番目の場所を選ぶ。人が全然居らず空いている場所にいる方が僕は落ち着く。
店内にはポツポツと客が居て、中には警察官の格好をした客まで居た。恐らく昼休憩時間なのだろう。
コーヒーとサンドイッチを注文して、その待ち時間で僕は襲ってきた彼女について考える。
僕を襲った理由は何なのか―――快楽の為、否。
僕の居場所が分かった理由―――特定した為、否。
妖術師を知っていた理由―――元組織の人間、否。
太刀 鑢を使わせた理由―――公平な戦闘の為、否。
ここから先の考えが出てこない。何も思い浮かばない、疑問が増える一方だ。本当に目的は何だったのか、彼女は一体何の為に僕と戦ったのかそもそも僕と戦う意味があそれにしてはおかし僕は僕を彼女はそれでも辻褄が昨日の妖術僕は斬ったなのに情報が居場所組織分かった死体ちゃんと二度となんなら僕は―――
気付かない内に注文したコーヒーとサンドイッチがテーブルに置かれていた。どうやら深く考えすぎて周りが見えなくなっていた様だ。
「もしかしたらもっと単純な理由とかなのか…」
僕はサンドイッチにかぶりつきながら頭をフル回転させる。だが、
何も思いつかない。
「あの時の戦い方、僕が妖術師だと知っていての攻撃だった。一体どこで僕の情報を―――」
その時、僕は最高に油断していた。
「へぇ、君妖術師なんだ」
「―――っ!?」
僕は素早く振り返り、バッグの中に手を突っ込んで刀を握る。
周りの客が驚いた顔でこちらを見ているが、今はそれどころでは無い。
そいつは椅子に座りながらこちらを見ていた。
声からして恐らく体の性は男、座ってて分かりにくいが身長は約180cm位はあるだろう。この男が何者か分からないがもし命を狙っているのだとしたら。
僕は店の中であろうと躊躇わずこいつを殺す。
「待った待った、別に君を殺そうとなんかしてないよ。取り敢えずその刀から手を離してくれないかな?」
男はその場で低く両手を広げて敵意がない事を示した。
―――攻撃する素振りを見せない。本当に戦う気が無いと僕は悟り、バッグから手を引き抜く。
「こんな所でそんなもの振り回されたら困っちゃうからね。まぁここ、座りなよ」
男は笑いながら同じ席に座るよう要求する。
少し警戒しながらも僕は椅子に座った。
「突然後ろから声を掛けられたら誰でも敵だと思うだろ」
「そりゃ私が悪かったね、申し訳ない」
男は頭を下げて本気で謝罪していた。敵なのか味方なのか分からないが―――調子が狂う。
「まぁ……良いよ。僕も攻撃しようとして悪かったな」
「ってそれより、お前が僕に声を掛けた理由はなんだ。何が目的だ?」
「だからそんな警戒しなくても良いよ、私は君の味方なんだからさ」
男は胸ポケットから一枚の紙を取り出して僕に渡す。
そこには名前と所属する組織の名前が書かれていた。これは―――
「その名刺に書いてある通り、私の名前は『永嶺 惣一郎』。君と同じ術師さ」
名前を聞いて僕は思い出した、昔所属していた術師を集めて結成された組織のナンバー3的な存在。組織内では日本最強の錬金術師と呼ばれていた。
惣一郎には申し訳ないが、僕は名前だけを知っていて一度も顔を見た事が無かった。
「永嶺 惣一郎…日本最強の錬金術師が味方についてくれるってのか?」
「その呼び方…なんだか懐かしいね、君の父親を思い出すよ」
「僕の…父親?」
惣一郎はテーブルにあったコップを持ち上げながら言う。
「そう、君の父親。初めて会ったのは『東京大規模魔法事件』の後かな。―――君の父親には何度も助けられたしね」
コップの中身を飲み干し、そっとテーブルに置いた後、惣一郎はため息を吐いた。
「すまない、話が脱線してしまった。戻そうか」
「君を守るように上から指示があってね」
「…上からの指示?」
「そう。君はあの蔵の鍵を破壊しただろう?あれ実は壊した瞬間、私たちの本部へ連絡が入るようになってるのさ」
「………本部?組織はもう無くなったんじゃ―――」
「―――前の組織、はね。新しく作られたんだよ、凄く少人数だけどね」
「新しく作られた!?」
僕は驚きのあまり椅子から転げ落ちそうになった。魔術師が僕の知らない所で動き始めたのか、それとも―――
「そう、魔術師を殺す為だけに作られた組織がね。その理由は君が一番知っているはずだ。君、昨日襲われただろ?」
「―――何故それを知っている」
僕は再びバッグの中にある『太刀 鑢』を取り出そうと手を伸ばす。
「待った待った、だから私は君に危害を加えない。知っている理由はこれから話すから」
「さっきの…鍵が壊れたらって話があっただろう?実は君の父親から『蔵の鍵が解錠された場合、直ぐに新対魔術師用の戦力を集めろ』って言われてたんだ」
「そしてその時、蔵の中の秘密を聞いたんだよ」
「…って事は、僕の『未来視』について?」
「そう、そしてこのタイミングで君を襲うって事は相手に同じ能力者が居るか、君が監視されているか のどっちかだね」
「―――僕は監視されてない。それは言い切れる」
「確かに、君はあの妖術師の息子だ。監視されていて気づかないはずが無い。となれば……」
「前者、『同じの能力を使う人物』が魔術師の中に存在する………か」
「……これからも君を狙う刺客がどんどん送り込まれるだろう。そして、それから君を守る為に私はここに来た―――」
「―――言っただろう?私は君の味方さ」
惣一郎は立ち上がり僕の方を見て言った。
瞬間、店の窓ガラスが全て割れ外の雨風が入り込んでくる。突然の出来事に辺りの客が 叫び、大混乱が起きていた。
「な…なんだ!?」
僕は姿勢を低くして警戒態勢に入る。惣一郎は立ったまま外をじっと見つめていた。
惣一郎の視線の先には、
「あれ、おかしいな……。術師は一人だけって聞いたんだけど…」
片手に三本のナイフを持ち、もう片方の手に銃のような物を持った何者かが立っていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈おまけ
主人公キャラデザ
『僕』―――語り部役・主人公
『日本最強の妖術師』の息子。禁忌の術式を発動させ、「2年後、再び惨劇が起こる。大規模魔法発動により全員が巻き込まれ、死滅する」と言う未来を視た。禁術を使用した代償により少年は 『永劫の呪い』を受けてしまう。
追記 : 初期の一人称は「俺」でしたが、何となく「僕」の方が良いと思い変更しました。
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天ヶ瀬です
『遡行禍殃』第一章 3 を読んで頂きありがとうございます
今回はおまけ付きだった為、第一章 3 は通常より短くなっています