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#三角関係
霞花怜
1,066
#イラスト部屋
寿命㌫(主) 🔮🖤ᩚ
695
キィ、と鈍い音を立てて開いた扉。その隙間から差し込む廊下の灯りの中に、瑞樹の姿があった。
普段の完璧な佇まいとは、まるで違っている。整えられているはずの髪はわずかに乱れ、息を荒げているわけでもないのに、肩が小さく上下していた。いつもの余裕はどこにもない。
柊吾を見つめる瞳に滲んでいるのは、隠しきれない心配と焦り。そして、拒まれることへの恐怖だった。
一週間、会わずにいた時間。瑞樹もまた、自分と同じように夜を眠れずに過ごしていたのだと、一目で分かった。
「……柊吾さん」
ドアノブから手が離れた瞬間、瑞樹の手が伸びてきて、拒む間もなく引き寄せられる。
ぎゅっと強く抱きしめられた胸の中で、瑞樹の体温と、わずかに震える鼓動が直接伝わってきた。壊れものを扱うような丁寧さと、二度と離したくないと言わんばかりの切実な強さ。その二つが同居したような抱擁。
「……よかった。鍵を、開けてくれて」
今まで聞いたことがないほど掠れていた。いつも余裕を崩さなかった男が、柊吾の肩へ顔を埋め、今にも泣き出しそうな声で縋るように息を吐き出している。
「黒瀬、さん……」
「すみません。嫌なら、押し退けてください。でも、少しだけ……少しだけでいいから、こうさせてください」
真理子に忘れられる恐怖と、孤独の冷たさに凍りついていた身体が、瑞樹の体温に触れてじわじわと解けていく。
疑っていたはずなのに。恐ろしかったはずなのに。ただその腕の中に収まっているだけで、あれほど胸を占領していた猛烈なパニックが、嘘のように引いていくのを感じていた。
このぬくもりに、すべてを預けてしまいたい。
溢れ出す感情に背中を押されるまま、柊吾はそっと瑞樹の背中へ手を伸ばした。震える指先が服の生地を掴みかけ——ハッと息を呑み、寸前で動きを止める。
(ダメだ……ここで甘えたら、僕はまた現実から目を背け、逃げることになるんじゃないか?)
瑞樹の温もりに包まれている瞬間だけは、すべてを忘れて救われた気になれるだろう。けれど、直視するのを恐れて問いをうやむやにすれば、自分たちの関係は歪んだ幻影のままだ。
何の解決にもならないどころか、本当の意味で瑞樹と向き合う機会を永遠に失ってしまう。
引き寄せられる強烈な依存心と、真実に踏み出さなければならないという切実な理性が、胸の中で激しくせめぎ合う。
ほんの僅かな逡巡ののち、柊吾は指先からそっと力を抜き、伸ばしかけた腕を静かに下ろした。
引き寄せられる強烈な依存心と、真実に踏み出さなければならないという切実な理性が、胸の中で激しくせめぎ合う。
ほんの僅かな逡巡ののち、柊吾は指先からそっと力を抜き、伸ばしかけた腕を静かに下ろした。
「……奥へ行きましょう。ここでは話せないので」
「……はい」
瑞樹は名残惜しそうに腕を解くと、柊吾に促されるまま靴を脱ぎ、静かに足を踏み入れた。
コメント
1件
いやあ……瑞樹さん、あんなに余裕なく乱れてるの初めて見ましたね。鍵を開けてくれたことに安堵して、掠れた声で縋る姿に、柊吾さんも心揺れたんだろうな。でも「甘えたら逃げることになる」と腕を下ろす選択、すごくリアルでした。依存と理性の葛藤、この描写が本当に心に沁みます。かんなさん、一週間の空白と二人の心理の機微、見事です。