テラーノベル
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久しぶりに来た人里で、私は三色団子を食べながら
ぶらぶらとあてもなく歩いていた。
こういう目的も意味もない時間が、私は好きである。
そんなゆったりとした空気をぶち壊すように、誰かが私の肩を叩く。
金髪の魔女…霧雨魔理沙だ。
「よぉ妖夢!久方ぶりじゃないか」
「…」
「ん?どうした?」
私はポケットから小さい紙切れを紐で束ねた物を出す。
そして鉛筆でそこに文字を書いた。
「えーと、なになに…風邪の後遺症で声が出ない?それ以外は大丈夫…?
え、本当に大丈夫なのか?」
私は首を縦に振る。
話そうとすると喉が焼けるように痛くなるだけで、他は本当に大丈夫なのだ。
声が出ない、というより声を出せないという方が正しいかもしれないが
そんな面倒くさい訂正は、するだけ無駄である。
魔理沙は、しばらくは私の心配をしていたのだが
少し黙ったかと思うと、唐突に大声で笑いだした。
「あははっ!!がははっ…死人に口無しってこのことだな!!」
私はそう言われ、後頭部を叩かれたような気分になった。
先程のメモ帳(仮)をハリセン代わりにし、私は魔理沙の頭を引っ叩く。
「いってぇ!!」
彼女は頭を抱えてうずくまったかと思うと、ひょいと立ち上がり
私に向かって文句を垂れ流す。(その大半が今現在の事柄になんの関係もない話だった。)
「ふふっ…げほっ!!」
「おい、あんま声出さない方が…」
彼女のそんな様子を見て、私は可笑しくなり笑ってしまった。
その後喉を貫くような痛みに襲われ、たまらず大きい咳をする。
魔理沙はあれだけ私に文句を言っていたにも関わらず、
咳をした反動で前に倒れ込みそうになった私の身体を支えた。
「妖夢、無理すんなよ。」
なんかあったら私に言え!
そう付け加え、彼女は自分の胸をばしっと叩いた。
異変解決の時も、こういうプライベートな時も…
頼りになる彼女が、私は好きなのかもしれない。
だが、想いを伝えるのは今じゃない。
この想いは文字じゃなくて、言葉で伝えたいから。
コメント
2件
あっすき 日常からの発想を小説に生かすの凄すぎる だいすき
コロナで声出にくかったのを思い出して、 「あれ?これ妖夢だったら死人に口無しじゃね?」とかいうアイデアが浮かんで書いた。 妖夢は半霊だから、正確には死人じゃないかもだけど… 原作にわかだから許してクレメンス。幽々子様じゃ話が思い浮かばなかったんだよ。