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何でここにリースがいるのか、理由は簡単だ。単純過ぎて、説明するのも面倒くさいぐらいに。
(本当に強欲だなあ……)
私の夢であって、私の夢じゃないけれど。私が半分は望んだような形の夢。そこに、イレギュラーとして出てきたリースを、私は笑って受け止めるしかなかった。本当に何処までも強欲だと思う。私の意思通り動いてくれないというか。まあ、そこが彼なんだけど。
「どうやって入ってきたの?」
「気づいているくせに。また、お前を助けに来た」
「それで、ここまで出来る? アンタも、私が幸せなら、そのままでいいっていう感じの男じゃん」
「お前の言ったとおり、俺は強欲だからな。俺が治める帝国で幸せになって欲しい」
「まだ、皇帝になってないくせに」
なるさ、いずれ。と、リースは笑った。
確かにそうかも知れないけれど、その前にやるべき事は沢山あるでしょう。と私はツッコミを入れたくなった。
けれど、彼がここまで助けに来てくれたことは本当に嬉しいし、さすがだと思っている。彼がいなくても、目覚められたかも知れないけれど、リースがいたからこそさらにこの夢を抜け出そうと思えた。
「不満そうな顔しているな」
「そう? でも、まあ、此の世界も良かったって言えば、よかったのかも知れない……私が夢見た幸せってこんな形だったのかなあって。けど、現実ってそう幸せなことばかりじゃないでしょ?」
「そうだな」
と、リースは少し悲しそうに言った。リースも、親に振り回されたり、そのせいで人間不信になったりと散々だった。まあ、これは彼の記憶を覗いたから分かったからであって、話してくれなければ、リースの心の中なんて察することも出来なかっただろう。
私も、不幸せの真ん中にいた。でも、幸せがなかったわけじゃない。
「俺は、お前のいない世界は悲しいぞ」
「……そう、アンタってそういう人だったもんね」
この世界にリースとして転生して、私が居ない中生きてきたけれど、それは私が彼を振ったからであって。そのフラれたという事実が、怒りか悲しみかが彼の生きる原動力になっていたんだろうけれど。
けれど、そう言って貰えると嬉しかったりもする。
私は、顔を隠しながら、ちらりと階段の下を見た。
今の私は、あの世界の天馬巡ではなくて、エトワールの姿に戻っている。後は、この夢を見せている張本人を叩くだけなのだが。
「お姉ちゃん……何で」
「廻……」
階段の下を見れば、走ってきたであろう廻が、信じられないというような顔をして私達を見上げていた。抱き合っている私と、リースを見て、否、リースを見て形相を変える。
「何で、貴方がここにいるんですか」
その口調は、廻ではなく、彼女、トワイライトに戻っていた。綺麗な言葉遣いなはずなのに、どことなくとげとげしさを感じるのは、彼女が怒りを隠し切れていないからだろうか。
どっちでもいいが、廻の姿はだんだんとトワイライトに変わっていく。
「何故か、簡単な質問だな。エトワールを連れ戻しに来たんだ。お前の甘い夢の中から、俺がエトワールを連れ去るために」
「勝手な、勝手なことしないで下さい。お姉様だって、この世界を望んでいるはずです。幸せな。誰も傷つかないこの世界を」
「……」
廻、トワイライトの言っていることは正しい。此の世界は、誰も傷つかない。けれど、此の世界を私は望んでいないのだ。勝手に、トワイライトが私が望んでいると言っているだけで。
何て、酷い姉かも知れないけれど。私は現実を知っているから。
「トワイライト」
「お姉様……お姉様建てこの世界が良いですよね。誰も、お姉様のこと傷付けませんし、お姉様の好きなもので溢れているんですよ。どうして、この世界を否定するんですか?」
「否定はしていない」
「否定していないなら何で!」
「過ぎ去ったときは戻ってこないし、蛍が死んだのも、私が一度遥輝を振っちゃったのも、両親との関係が最悪なのも、アンタが死んだって言う事実もかわるわけじゃない。それを、ねじ曲げちゃったら今がないって事になるじゃん」
「……でも、私は」
と、トワイライトは言葉を紡いで、天を仰いだ。
何のために、こんな事を……? と、呟いたのを聞いてしまった。何も悪くないし、トワイライトはよかれと思ってやったんだ。そこに悪意も何もないのだろう。だからこそ、彼女を救ってあげたかった。
「やり直すんだよ。トワイライト。私はアンタをもう一人にしないし、私は辛い世界でも生きていける」
「お姉様は、良いんですか。お姉様のことを嫌いだといった世界で、そんな人達が溢れているこの世界で生きていて幸せなんですか?」
「幸せかどうかは、分からないけれど……でも、良い気持ちにはならなかったよ。偽物の聖女だって言われて、気味悪がられて。アンタが敵側に寝返れば、私のことを本物の聖女だってはやし立てて。これが、人間なんだって思った。汚い部分もそりゃあると思うよ。でも、それは、私達の中にもあるでしょ?」
汚い感情は、私達の中にもある。そう、私は思っている。
差別とか、自分の思い通りにならないから、とか……そういう自分の欲を優先して動いた結果、人を傷付けること何てざらにある。だけど、それを許容してはいけないし、ダメだと言える勇気が必要だ。
私は、この世界にきて、初めこそ推しと出会えるやったー何て思ってたけど、悪役聖女で、しかも、推しの中身は元彼で……何て散々だったけど、嫌なこともあったけど、それでも、今楽しいって思えた。私も、遥輝と同じで人間不信だった時期が合った。今でも、人は怖い。何を考えているか分かんないし、陰で何を言っているかも。皆、平気で嘘をつくし、その顔に笑顔を貼り付けることも出来る。けれどそれが人間なんだ。
汚くて、醜くて、尊い存在なんだって。
私は思っている。
階段の下で、うずくまるトワイライトを見下ろす。彼女は泣いているのか、肩が震えていた。自分が間違っていたのだと、絶望に打ちひしがれるように。
そんなかおをさせたかったわけじゃない。彼女が悪いわけじゃないんだ。だが、この戦いを収めるには、方法は一つだと。
「お姉様、私は、死んでから真っ白な空間にいました」
「真っ白……前にも話してくれていた、あれ、だよね。女神のうんたらかんたら」
記憶にないぐらい昔にトワイライトが話してくれた事を思い出した。でも、何故このタイミングなんだろうかと私が思っていると、トワイライトは少しだけ顔を上げた。
「私の魂は、小さい頃に亡くなったことによってまだ何ものにも染まっていませんでした。それを、この世の理から外れた存在に拾われ、いつか何処かに転生できるようにと教育をされたのです。最も、その時にはまだこの世界が誕生していませんでした。けれど、何かのイタズラから、お姉様がこの世界に転生したことによって、私の転生先も決まりました。お姉様と血を分かち血合った肉体はとうの昔に滅びましたが、私はお姉様と同じ時を生きています。同じ年齢なのは変わりません。そして、私はトワイライトとしてこの世界に転生しました。そこで、お姉様と出会い、自分と同じ魂だと気づいたんです」
と、トワイライトは言い切るとグッと拳を握った。
魂とか、この世の理から外れた存在とかピンとこなかったけれど、彼女の魂は天国にも地獄にも行っていなくて、理の外で捕獲されていたと言うことなのだろうか。理解は出来ないことは無いが、現実味はない。
でも、魂という言葉を聞いて、彼女がトワイライトとして転生しても、彼女は私の妹の廻なんだということ。ただ、それだけは事実だった。
(記憶にはないけれど、ずっと私のことみててくれたって事だよね)
実際に言葉を交してこなかったけれど、廻、トワイライトは私を姉としてずっと見ていてくれたんだと分かった。私は全く記憶が中田つぃ、双子の妹がいるなんて覚えてもいなかったけれど。彼女はずっと。
そう考えると、本当に寂しい思いをさせたんだなあと言うことが分かった。
「エトワール」
「大丈夫、私、行くよ」
とんと階段を一段降りれば、リースに手を捕まれた。彼は、行くなと言う顔で私を見ている。でも、今の彼女は無害だからと私はリースの手を振りほどいた。
一度段、また一段と降りて、私はトワイライトの目の前までいく。
ゆっくりと彼女は顔を上げて私を見た。
「トワイライト、ありがとう」
「おねえ、さま……」
「あんたの気持ちすっごく嬉しい。これまでずっと私のことみててくれたって事だよね。私のこと覚えていてくれて、今度は姉妹で幸せにって」
コクリと頷くトワイライト。
彼女は、きっと私の辛かった現実、前世も知っているのだろう。だからこそ、苦しみのない世界を作ろうとしてくれたに違いないと。
そんな彼女に私は何が出来るのだろうか。
受け止める、ただそれだけな気がする。
「ありがとう、トワイライト。ありがとう……」
そう、私がいった瞬間、空間にひびが入るような感覚がし、ピシと、亀裂が入る。
パラパラと崩れ始める空間は、たちまち、真っ白な何かに包まれていった。