テラーノベル
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僕は彼の肩から手を離し、エレベーターの上表示を眺める。もう地下一階だ。チンと軽やかな音を鳴らして、エレベーターの扉が開く。避難用の廊下に繋がっている。自分が行きたかった場所を、いつの間にか押してくれていたようだ。
囚人とは歳が近いと思うので、フラットに話しかける。
「ありがとう。気持ちが楽になったよ」
手を振ってエレベーターから出たら、彼自身、後ろからついてきていた。ここへ何しに来たのだろうか。
「君もここに用があるの?」
「まあね。それよりさ」
質問には一切答えず、話を進めてくる。
「お前、看守だろ。そのズボンで分かる」
「あっ……」
すっかり忘れていた。
あの時気が立っていたため、自分の姿をじっくりと見ていなかった。下は看守のズボン。上は何も着てない状態で、胸あたりにばつ印が。こんなの自分は看守ですって自白しているもんだ。
相手は囚人で、人を何人も殺してきた殺人鬼。何をされるのか、分かったものじゃない。
実際この船に収監されているのは、二人以上赤の他人を殺してしまった者ばかり。死刑制度が多くの国から排除されたこの世界では、船に収容されとある土地に運ばれるという。その土地は海に囲まれた島であり、そこに囚人たちを放って殺し合いをさせる。まさにデスゲームが開始。一億円もらえるという条件下で、残り一人になるまで終わらない最悪な殺戮を繰り広げる。最終的に死刑と同じ状態になってしまった。残った一人は一億円などもらうこともできず、結局は食料と飲料が無くなり、餓死で死亡する。
救いようがないデスゲームは、この島を所有する国の政府たちが厳密に管理しているため、他の国に情報が漏れることもなかった。完全密室だ。
この船コーパスデコイ号にいる囚人に自分が看守だとバレてしまったら、先ほど廊下で見た通り、確実に殺される。顔が青ざめていき、彼からそそくさと離れた。
「殺されるとでも思った? 殺すならもうとっくに首にナイフを刺して殺してる。安心しなよ、お前は絶対に殺さない」
彼の眼差しを見て、本気でそう思っていることが伺える。僕はそれを聞いて安心し、再び廊下を歩きはじめた。
とはいえ、相手は凶悪な囚人だ。言葉ではそう言っても襲ってくる可能性は充分にある。アイツらはそういうことを平気でしてくる嘘つきだから。そのため、離れて小走りした。徐々に歩く速さは速くなり、廊下を突っ走る。ちょうど非常用とは別の入り口を見つけて入ると、目の前を二人の囚人が横切っていく。パッと見て男女の囚人だったが、バレていないようだ。
その後ろにはあの403336が立っていたものの、脚を棒にして突っ立っている僕を追い越していく。
「ちょっと待って!」
T字路を左に曲がってまっすぐ行くと、医療室がある。勇気を振り絞って飛び出すと、すでに誰もいなかった。恐らく医務室へ行ったのだろう。このまま様子を見ることにした。あいつら二人がこちらへ来ないことを願って。
なぜ医務室へ向かっていたのかというと、胸の傷の手当てをするためだ。この傷を手当てした後、復讐してからここを脱出する予定だ。でないと、悔いも残るし生き残るのさえ厳しい。それに看守の服では危うい。誰かから囚人服をもらわないと、復讐も脱出することも不可能。無謀に近い。
待つこと数分後。眠くてあくびをしていたら、医務室から白髪の男が顔を覗かせてきた。こちらへ来いと手招きしている。
恐る恐る医務室まで歩き開き扉から入ると、何かを手渡してきた。囚人服だ。オレンジ色で折りたたまれている上下一式と、白いタンクトップ。それを握りしめた。
「看守のままじゃ、脱出なんかできない。着替えてこいよ」
そう真顔のまま言われて、自分と同じ考えだったことに驚いた。とはいえ、一つ疑問に感じたことがある。彼はどうして予備の囚人服の場所を知っていたのだろうか?それになぜ医務室に用事があったのだろうか。
周りを見渡しても、特に怪しいところはない。分厚いファイル資料も散乱していないし、医療用ベッドも清潔感溢れている。棚も使われていないのかと思うほど、綺麗に整頓されていた。
考えても時間の無駄だ。この傷を直すのが先。そう思ってハサミと包帯と塗り薬、医療用テープを探した。全て見つけるのは簡単だった。
必要な道具を使って、傷が隠れるように包帯を巻いていく。必要な分だけ取り出して、ハサミで切った。中々一人でするには大変だが、元々手は器用な方だ。なんとか傷を隠すことに成功した。あとは囚人服を着るだけ。
まあ、この包帯が取れたらおしまいかもな。ゆるゆるすぎたか……。しかし直している時間はない。
囚人服にあたふたして着替えると、看守用カードを後ろのズボンポケットに入れる。白髪の男の方へ向かった。彼は退屈そうに椅子に座っていた。周りを見渡したら、何か違和感があるけど……気のせいだよなぁ。ファイルの上に、麻のロープなんかあったっけ?
「何?」
「べ、別に……」
挙動不審なのを変に思われてしまったようだ。気持ちを落ち着かせて、下の蓋つき床を踏みしめる。医務室から出ることにした。
彼が最初に外へ出て、こちらを無表情のまま振り向く。
「そういえば自己紹介がまだだったね。俺はアルマ。よろしく。お前の名前は?」
手を差し伸べてきた。
「……」
流石に囚人に名前を教えることはできない。目線を晒して、素知らぬふりをした。教えたら悪用されるのがオチだ。
「ふーん、名前はナンバヒロキか。よろしく」
なぜ名前を!?と思って彼の方に素早く視線を向けると、いつの間にか看守カードが彼の手の中にあった。いつのまに!?
「油断しすぎだ。後ろのポケットには入れない方がいい。盗まれるぞ」
「返して!」
取ろうとしても背が高くて全然取れない。
「いや、これは海に捨てなきゃいけない。履歴書と共に」
「なぜ?」
「お前は囚人になったんだ。看守ではなくなった。看守だった証拠があれば、真っ先に疑われる」
確かにその通りだ。そのことに気づかないなんて、馬鹿すぎて笑える。僕は苦笑いを浮かべた。
コメント
1件
第5話、めっちゃ面白かったわ!看守バレからの緊迫感、そしてまさかの403336が助けてくれる流れが熱い🔥 アルマの「お前は囚人になった」って台詞、グッときたな。看守カードをポケットに入れたままだったのはご愛嬌だけど、そこから脱出計画に巻き込まれていく感じ、続きが気になりすぎる!
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もな
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