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「教育って……誰にそんなこと教わったの?」
私がグラスを片手に首を傾げると、高瀬くんは少し困ったように、でも誇らしげに笑った。
「うち、姉貴が二人いるんですよ。めちゃくちゃ気が強くて、僕なんかずっと尻に敷かれてて。その姉貴たちに徹底的に叩き込まれたんです」
「お姉さんが……?」
「ええ。『男が女の愚痴にアドバイスなんて100年早いのよ!』って。『とにかく“うんうん”って頷いて、最後まで聞いてあげるだけでいいの。そしてもし彼女なら、その後にたっぷり甘やかすこと!』……それが高瀬家の家訓みたいなもんで」
彼はそう言って、少し恥ずかしそうに髪を掻いた。
なるほど、その完璧な包容力は、最強の女性陣によって磨き上げられた賜物だったわけだ。
「……彼女なら、たっぷり甘やかす、ね……」
お酒のせいで、思考がふわふわと解けていく。
「彼女なら」という言葉が胸の奥で心地よく響いた。
今の私は、彼の「彼女」ではないけれど。
でも、この一週間、彼は誰よりも私を優先し
守り、慈しんでくれた。
「いいなぁ……その彼女…羨ましいわ」
ぽろりと、本音が溢れた。
高瀬くんが目を見開く。
静まり返ったリビングで、氷がカランと音を立てる。
私は自分でも驚くほど迷いのない瞳で、隣に座る彼を見つめた。
「……凛さん?」
「…私、甘やかされたい」
「……え?」
「今だけ、今だけでいいから私を、思いっきり甘やかしてくれない…っ?」
高瀬くんの喉が、ごくりと動くのが見えた。
いつも余裕そうに微笑んでいた彼の瞳に、一瞬だけ「男」の鋭い熱が宿る。
けれど彼はすぐにそれを隠すように、優しく、蕩けるような笑みを浮かべた。
「……後悔しませんか? 俺、一度甘やかし始めたら、めちゃくちゃ甘いですよ」
「……いいわよ…望むところよ」
私がそう答えると、高瀬くんは「……じゃあ、こっちきてください」と言って
自分の膝をぽんぽんと叩いた。
シトラスの香りと、姉仕込みの「甘やかしの極意」。
私は導かれるように、彼の腕の中へと体を預けた。
おまる
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