テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
おまる
高瀬くんは慣れた手つきで私を自分の膝の上へと引き寄せ、私の頭をそっと自分の肩に乗せる。
「失礼しますね」
そう言うと、彼は私の頭に大きな手を置いた。
リハビリの時のような、壊れ物を扱うような遠慮がちな触れ方じゃない。
指の腹でゆっくりと、でも力強く地肌を刺激するように、円を描いて撫でていく。
「……あ、…んっ……」
思わず、喉の奥から変な声が漏れた。
美容室でのマッサージよりもずっと熱くて、心地よくて、脳がとろけてしまいそうな感覚。
「力加減、大丈夫ですか? …凛さん、ここ、すごく凝ってる。ずっと一人で、色んなもの背負ってきた証拠ですね」
「……そう、?……私、頑張ってた、かな」
「頑張ってましたよ。健気に」
彼は何度も、何度も、私の頭を撫で続ける。
お姉さんに叩き込まれたという「甘やかしの極意」。
それは単なるテクニックではなく
相手の孤独や疲れをすべて包み込もうとする、圧倒的な慈愛の塊だった。
私は彼の胸元に顔を埋め、シトラスの香りを深く吸い込む。
トク、トクと響く彼の鼓動が、私の耳に直接伝わってくる。
「……高瀬、くん。…心臓、すごく速い」
「……当たり前でしょ。好きな人をこんな風に抱っこしてて、平気でいられるほど俺、大人じゃないんですから」
彼は苦笑混じりにそう言うと、撫でていた手を私の頬へと滑らせた。
親指の腹で、私の唇の端を優しくなぞる。
「……甘やかすって、こういうことも含まれるんですけど…ダメですか?」
その瞳には、もう「可愛いワンコ」の面影はなかった。
獲物を狙うような、でも泣き出しそうなほど切実な、一人の男の欲望。
私は逃げることも、目を逸らすこともできなかった。
「…高瀬くんなら、嫌じゃないけど」
私がそう呟くと、彼は堪えきれないといった様子で、私の額に自分の額をコツンとぶつけた。
唇が触れそうなほどの至近距離で、彼の熱い吐息が肌を打つ。
結局、その夜の彼は「一線」こそ越えなかったものの
私が眠りに落ちるまで、耳元で甘い言葉を囁きながら、ずっとずっと頭を撫でていてくれた。
翌朝、目が覚めた時の猛烈な羞恥心よりも
彼の腕の中で感じた「絶対的な安心感」が勝ってしまった時点で、私の負けは決まっていたのだ。