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「あ~……
カルベルクの野郎がエクセと?
何してんだアイツら」
ブリガン伯爵領東地区の町の麻雀大会の翌日、
戻ってきた私たちは―――
まず公都『ヤマト』の冒険者ギルド支部長、
ジャンさんに報告していた。
そして報告を受けたアラフィフの筋肉質の男は、
その白髪交じりの頭をボリボリとかく。
「ま、まあ年齢差はあるでしょうけど、
好きになったら関係無いでしょうし……」
「そ、そうッスよ。
それに父親代わりだったのなら、そのまま
恋愛に発展してもおかしくないッス」
「冒険者でもギルド支部長、ゴールドクラス
くらいになれば―――
相手として超がつく優良物件ですし」
私が擁護するように口を開くと、
褐色肌の青年と丸眼鏡の彼の妻が続く。
しかしギルド長はその渋面を崩さず、
「別に好き同士なら問題ないんじゃ?」
「無理やりならともかくのう。
特にエクセの方がベタ惚れのように感じたが」
「ピュイ」
同じ黒髪の妻二人とその子も同調する。
「つか、そういう事じゃねぇんだよなあ。
本来それはご法度なんだよ。
それ目当てで子供を引き取る連中が出て来るかも
知れねぇからさ」
自分の嫁さんか夫にするため、子供のうちから
育てるやつが出てきかねないという事か。
確かにその心配はあるけれど……
「それはカルベルクさんも言ってましたが、
エクセさんの方がすごい剣幕で」
その後にレイド夫妻が顔を見合わせ、
「『んだとぉ!?
オヤジともあろう男が約束を破るのかぁ!?』
って一歩も引かなかったッス」
「『だったらあたいの相手連れて来てくれよ!
オヤジと同じかそれ以上のヤツをよぉ!』
とも言ってて……」
メルとアルテリーゼもうんうんとうなずき、
「何か周囲も、『こりゃ仕方ないな』って
雰囲気だった」
「確かにあのじゃじゃ馬に釣り合う男は、
そうそうおらぬだろうて。
目を付けていた男はすでにミリアの物
だったしのう」
「ピュウ」
家族の言葉に、若い夫婦は顔を赤らめる。
「まあいいか。エクセがカルベルクの野郎と
結婚したってんなら―――
次期ギルド長への移行も問題なく進められると
思えば」
大きく鼻息を漏らして、ジャンさんがソファに
座り直す。
そういえばレイド君と同じく、
次期ギルド長だったなエクセさん。
「それで、イカサマ野郎はどうなったんだ?」
「カメレさんですか?
アシェラットさん一家に目を付けられたので、
まあ、なるようになるんじゃないかと」
室内の他の人たちも目を線のように細くして、
『言わずもがな』と無言で語る。
「何にせよご苦労だった。
……結婚式の時は思いっきり冷やかして
やるかあ」
そう言って苦笑いするギルド長にあいさつし、
私たちが退室しようとすると、
「おうそうだ。
レイド、ミリア。
ちと児童預かり所まで頼まれてくれ」
そうして用件を言い渡されたレイド夫妻と共に、
私たちは支部長室を後にした。
「まー気持ちはわからないでもないッス
けどねえ。
言ってみれば、オッサンがミリアと
結婚するようなものッスから」
「小さい頃は大好きだったけど……
『パパと結婚する』っていう娘みたいな
ものだったし。
そう考えるとエクセさん、なかなか
すごいわね……」
児童預かり所への道すがら、私たちも同行して
二人の話に付き合う。
「そういえばジャンさんって独身ですよね?
結婚とか考えないんでしょうか」
私がふと疑問に思った事を口にすると、
「あー……
別にあのオッサン、女嫌いってわけじゃ
ないッスよ?」
「結婚していた事もありますから」
私がその話に驚いていると、
「アレ?
まさかシンだけ知らなかったとか?」
「しかし、相変わらずそういう方面には
鈍いのだのう」
「ピュピュ~」
家族がさも当然のように答えて来て、
混乱が加速する。
「え? え?
い、いやだって私はまだここに来て……」
しどろもどろになっている私に、
「えーと、もしかしてリベラ先生とオッサン、
結婚していたって知らなかったッスか?」
「別れたのは、アタシたちがまだ孤児院に来る
前だったと聞いてますけど。
というより、別れてから孤児院を立ち上げたん
ですよ、リベラ先生」
今は児童預かり所の所長を務めているが―――
まさかそんな過去があったとは知らなかった。
付き合いでは、この世界に来てから結構長い方
なのに。
「メ、メルとアルテリーゼはいつ知ったんだ?」
するとアジアンチックな妻の方が両腕を組み、
「雰囲気でわかるよー、
『あ、この2人過去に何かあったんだな』
って」
「ギルド長とリベラ殿が男女の仲であった事は、
すぐわかったぞ?」
欧米人のモデルのような妻の方も続けて答える。
全然気付かなかった……
確かに孤児院時代からジャンさんは結構
そこを気にかけていたし、長年の付き合いは
あったと思っていたけど。
でもそれなら何で別れたんだろうか?
ジャンさんもリベラさんも、人格的に何も
問題あったとは、と考えていると、
「あ、別にケンカ別れしたとかじゃ
ないッスよ?」
「い、いえ。
そこまで個人情報というか、過去を
知りたいと思っているわけでは」
レイド君があっさりと別れた事を話すので、
私は慌てて弁解するが、
「当人たちは気にしていませんから、
そこまで深刻にとらえる事も無いと
思いますよ?
これから児童預かり所に行きますし、
その時に聞いたって」
ええー……
と思いつつも同行した手前、今さら引き返す
事も出来ず―――
結局、目的地まで向かう事になった。
「あら、シンさんは知らなかったんですか?
そうですよ、私とジャンドゥは夫婦でした。
腐れ縁とでも申しましょうか」
児童預かり所の応接室で、薄い赤色の髪をした、
五十代くらいの上品そうな婦人があっさりと話す。
私が目を白黒させていると、
「ふふ、シンさんでもそんな顔をして
驚くんですね。
私としてはそっちの方が意外ですよ」
事もなげに語るリベラさんに、どう受け答えして
いいのかわからずにいると、
「なんとなーく、そんな感じはしてた」
「しかし何があったのだ?
ギルド長もいい男ではないか」
そして妻たちが容赦なく切り込んでいく。
あわあわと私は困惑していたが、リベラさんは
軽く微笑み返すと、
「……私もまだ若かったですしね。
耐えきれなかったんです。
あの人は今のレイドよりも若い頃に、すでに
ゴールドクラスに達していました。
そのため、危険な任務―――
断れない仕事もたくさんしてきて」
そこでフッ、と一息ついて、
「夫がそんな仕事をしていて、待っているだけの
妻というのはとても疲れるんですよ。
本当に帰ってきてくれるのか、いつか
帰ってこなくなるんじゃないかって……
気付いたら会話が無くなっていて。
子供でもいたらまた違っていたんでしょうけど」
確かにジャンさんって、マウンテン・ベアーとか
ヒュドラとか―――
トップクラスの魔物討伐はほぼ経験済みって感じ
だからなあ。
「まあでも、今の人生には満足していますよ。
ここにいる子たちは、みんな私とあの人の
子供みたいなものですし。
子供たちの教育方針で、よくあの人と
ケンカしたりしてますから」
そしてリベラさんは、その話を黙って聞いていた
レイド夫妻に向かって、
「それであなたたち。
子供はまだなの?」
「おふっ!?」
「ぶぅえっ!?」
突然話を振られた夫婦は飲んでいたお茶を
吹き出すが、彼女は構わず、
「あの人は早くギルド長の座をレイドに譲って、
私と一緒にここで、あなたたちの子供の面倒を
見たいって言っているのよ。
親孝行だと思って早くしなさい。
5人でも10人でも面倒見てあげるから」
そういやジャンさん、そんな事言ってたっけ。
今度はレイド君とミリアさんが顔を真っ赤にして、
慌てふためく。
「あ、そ、そうだ。
この前来た、えーと……
山の主の子は元気にしていますか?
何でも精霊様たちと仲良くしていると
聞いてますけど」
助け船として別の話題を振ると、
「ああ、あの子なら元気にしていますよ。
ラッチちゃんやレムちゃんと一緒に、
お人形のように扱われていますわ。
久しぶりに変身しない子が来たから、
というのもあるかも知れません」
「というより、魔狼もワイバーンも……
明らかに人外の姿をしている子は、
人間に変身するのが当たり前だもんね」
「純粋に変身しない者の方が、ここでは珍しい
からのう」
「ピューイ」
家族も察したのか、うまく別方向へ
誘導してくれた。
「本当に、人間だけじゃなくいろいろな子が
増えましたからねえ。
孤児院をやっていた時は考えもしませんでした」
しみじみとリベラさんが語り、ふと私の方を
向いて、
「シンさんにも本当にお世話になりっぱなしで……
最初はお魚や鳥を持って来てくれる、ちょっと
変わった人という感じでしたけど。
いつの間にか子供たちの仕事やら、
冒険者たちへの支援やら商売やら、
思いもつかない事を次々と―――
もしかしたら神様が姿を変えてやって
来たんじゃ、とさえ思いましたよ」
「まあ実際、シンさんは神様によって
別の世界から来た人ッスから」
ふと自分たちの事から話題が外れ気が
緩んだのか、レイド君が口をすべらせ、
「……はい?」
と、そこで室内の時が止まり、
「あ」
「バカ……!」
「あーあ」
「ちょっとのう」
そこで全員が『あちゃー』という顔になり、
「どういう事? レイド。
あなたの言っている事を詳しく説明して
ちょうだい?」
「あ、いや、アハハ。
まるで別の世界から来たような人って
意味ッスよ」
リベラさんはそのままジーッと彼の目を見つめ、
「ウソを吐くと目があっちこっちに泳ぐクセ、
子供の頃から直ってないのね」
母親同然の彼女の指摘に、レイド君はそのまま
項垂れた。
「やれやれ……
私たち以外応接室にいなくて良かったわね。
ちょっと気を抜くと何かやらかすんだから。
あなたは昔から……」
一通り説明を終えると、ガックリと肩を落とす
レイド君の前で、リベラさんは呆れながら
ため息をつく。
「す、すいません。
事が事だけに、情報公開している方は
限定されていまして」
私は取り敢えずフォローに回るが、
「……ミリア。
シンさんが別世界の人って、あの人は
知ってたのかい?」
「あ、ハイ。
結構最初の頃から知っていたみたいで」
素直に答えるミリアさん。
というか、多分レイド君も彼女も、
リベラさんには頭が上がらないのだろう。
「まー、私たちも結婚した後だもんね。
シンが別世界の人間だって知ったの」
「むしろそれで納得した部分もある」
「ピュイ」
家族も擁護するように話し、
「ごめんなさいッス!」
「多分、いつかはギルド長も先生に話したと
思うけど……」
身を縮めて夫妻は申し訳なさそうにするが、
「まったくあの人は。
いっつもこういう肝心な事ほど私に
話さないんだから。
後でとっちめてやるわ。
本当にもう」
重大な事を秘密にしていた、というより、
自分に隠していた事について怒っているようだ。
すると今度は自分に心配そうな目を向けて、
「でも違う世界からって、大変だったでしょう。
それでいてよくいろいろと他の方のお世話を
していましたね?」
「あー、まあそれは成り行きと言いますか。
特に食事とトイレは絶対手を抜かない国から
来たもので」
それを聞いて周囲はうんうんとうなずく。
「そうですよねぇ。
私も、もうあのトイレ以外受け付けないもの」
「食生活も豊かになったッスよねえ」
「今日食べる物で、肉、魚、卵、貝で
悩む日が来るなんて―――
考えられませんでしたよ」
祖母と息子娘夫婦のように三人が語り、
「貝と卵が安定して食べられるように
なっただけでも驚いたのに」
「今でも新作料理が時々出て来るからのう」
メルとアルテリーゼもそれに続く。
「私の場合、食べないと死ぬっていう事情も
ありましたから」
「そうッスね。
3日食べないだけで動けなくなるん
でしたっけ」
「魔力ゼロで魔法が使えないって聞いた時は
驚きました」
「あら、シンさんにもそんな弱点が―――」
こうして雑談は続き……
小一時間後、口止めを一応お願いして
私たちは解散となった。
「アルテリーゼの巣から?」
数日後、私は自分の自宅のである屋敷で、
ドラゴンの妻から話を聞いていた。
「うむ。時折、我とシャンタルは巣まで、
ここの食事や酒などを差し入れに行って
おるのだが―――
夏の間、子供だけでも公都に受け入れて
もらえぬかと相談されたのだ」
「あ~……
確かに今年は猛暑だもんね」
基本、ドラゴンは群れないものなのだが、
子育ての時だけは子供たちを守るため、
一ヶ所に集まって巣のようなところで暮らすと
聞いている。
この前、その巣まで戻った時―――
避暑地として、子供を公都まで連れて行って
くれないかと頼まれたらしい。
「多いのか?」
「いや、受け入れて欲しいくらい小さいのは
3・4体であろう。
両親が来る事を考えてもそれほどおらん」
「ピュー」
私はドラゴンの方の妻にうなずき、
「じゃあギルド長、それに公都長代理に
話を通してみるよ。
多分問題無いと思うけど」
「あ、それでな。
移送というかその護衛に、シンを指名して
おるのだが……」
「ん? どゆこと?」
人間の方の妻が聞き返すと、
「我らだけなら問題は無いのだが、ドラゴンと
いえど幼い頃は無敵ではない。
不測の事態が起きないとも限らぬ。
そこでシンが同行してくれれば―――
たいていの事は対応出来るとの事でのう」
確かに、最初の出会いはアルテリーゼとラッチが
ワイバーンの群れに襲われていたのを助けたのが
きっかけだったし。
(■14話 はじめての ねっちゅうしょう参照)
それを考えると、我が子の移動は万全の状態で
行いたい、考えるのは親として当然か。
「わかった。
じゃあ明日にでもジャンさんに話を通して、
そのまま向かおうか」
「念のため、空調服も何着か用意して、
お土産として持っていけば」
「すまぬのう」
「ピュウ」
こうして家族会議の結果、私はアルテリーゼの
『里帰り』に付き合う事になった。
「じゃあ、アルテリーゼ、頼む」
「わかったぞ」
ドラゴンの姿となったアルテリーゼが、
『乗客箱』を抱くようにして乗っかり―――
係の人たちが彼女の体に固定していく。
「そういえば、アルちゃんの実家に行くのは
初めてだねー」
「実家……と言っていいのかのう。
子育ての時だけの集落みたいなものだが」
微妙な答えをする彼女に、私は話を続け、
「ラッチに取っては生まれ故郷じゃないのか?」
「ラッチが生まれたのはまた別の場所じゃ。
自力で動けるようになれば、もう赤ちゃんでは
ないからのう。
今のあの巣にいるのは、まだ生後20年も
経っていないドラゴンばかりじゃ」
ラッチは三十才を越えると聞いているし、
二十年くらいはまだまだ乳幼児という感覚なのかな。
そのラッチはというと児童預かり所に預け―――
またついでと言っては何だが、空調服と共に
各種料料理、氷と積み込む作業を続ける。
「しかしドラゴンと言っても、結構危険が
多いものなんだな。
小動物は避けるものだとばかり」
私が荷物を準備しながらつぶやくと、
「空を飛び、群れるものだと厄介なのじゃ。
そういう意味ではワイバーンはそこそこ
強いし、大ガラスくらいでも興奮していたら
手に負えぬ。
後は虫だな。
あれは群れていると手が付けられぬよ」
ワイバーンの拠点でも、ルーメン・ビートルの
群れに襲われた事があったし、
(■102話 はじめての ごむ参照)
ハイ・ローキュストの大群はそれこそ総力戦で
当たったからなあ。
「アルちゃん、詰め込み終わったよー」
「了解じゃ。
では2人とも、『乗客箱』へ乗り込んでくれ」
こうして私とメルはアルテリーゼの手で、
文字通り上空へと飛び立った。
「……しかし、料理や酒の差し入れって
言っても、やはり飲食は人間の姿になって
しているのか?」
飛行中、私は伝声管を通じてアルテリーゼに
話しかける。
『そうだのう。
その方が多く飲み食い出来るし―――
というより、人間の姿の時の方が味に
敏感になっているように思うのだ。
これは、クラーケンを食べた時に感じた
事だがのう』
そういえばたまには、とドラゴンの姿の
ままのアルテリーゼに……
焼きクラーケンを食べてもらった事が
あったけど。
(■148話・はじめての いかりょうり参照)
あの時は焼きイカにただ醤油をぶっかけた
だけのものだったが―――
それも相まって大味になっていたのかな。
魚なら公都の養殖で巨大化させられるし、
それでいろいろ試してもらうのもいいかも、
と思っていると、
『……シン!
何か接近しておる!』
「!」
伝声管からの警告に、私とメルは思わず
窓の外に目をやる。
「何かの群れっぽいのが来てる……!」
「また大ガラスとかか?」
警戒しながらそのその接近を見守る。
やがてそれは点を散らしたような状態から、
徐々にその存在が明らかになっていく。
『鳥……!?
いや、翼があるが違う!』
「わかった!
アレ、蛇蜻蛉!
蛇蜻蛉の群れだよ!」
妻二人の言葉に目を凝らしてそれを確認すると、
蛇の体にコウモリの翼を付けたような生物、
体長は一メートルあるか無いか―――
それが三・四十匹くらいの群れとなって、
こちらへ近付いて来ていた。
「その蛇蜻蛉とやらは危険なのか?」
「それほど強いってわけじゃないけど、
毒あるから、アレ」
メルの話を聞いた後、今度はアルテリーゼに、
「振り切れるか?
アルテリーゼ」
『荷物があるからのう。
なるべくなら、これ以上速度は上げたく
ないのだが』
確かに、お土産として大量のお酒や料理類を
持って来ている。
それに調味料はガラス製のビンを使って
いるから、強烈な衝撃は避けたいところだ。
「仕方が無い。
襲い掛かってきたのはあちらだし―――
運が無かったと諦めてもらおう。
アルテリーゼ、速度を落として群れを
追いつかせてくれ」
『わかったぞ』
彼女がスピードを落とすにつれて、
蛇蜻蛉の群れはグングン近付いてくる。
やがて一匹一匹が口を大きく開き、
牙をむいて―――
その様子が見えるところまで接近した時、
「蛇の体に翼を付け、かつその大きさで
そのサイズ比の翼で飛ぶ事など、
・・・・・
あり得ない」
そう私がつぶやくと、
「お、止まった」
メルの言う通り、群れは急激に速度を落とし……
地面に吸い込まれるように、ポトポトと殺虫剤を
かけられた虫のように落ちていった。
まあ運が良ければ生きているだろう。
「アルちゃーん。
シンが排除したから、もう速度
上げていーよー」
『うむ』
そしてスピードを元に戻すと、そのまま
巣に向けて飛行を再開した。
「ここか……」
「こりゃー確かにドラゴン以外住めないね」
その日の夕暮れ―――
ようやく巣に到着した私とメルは、その風景に
見入っていた。
場所は、ウィンベル王国より北東……
その険しい山々の山頂で、彼らは住処を
構えていたのだ。
ちなみに人間が来るのは、パックさんに続いて
私とメルで三人目との事。
アルテリーゼは帰郷した挨拶回りに出掛け、
自分たちはお近付きのしるしにと、簡単な
料理でも作ろうと考えていると、
「あれ? アルちゃん?」
そこへ人間の姿になった彼女が、やや疲れた
表情をして戻ってきた。
「どうしたんだ、アルテリーゼ。
何かあったのか?」
するとドラゴンの妻は微妙な顔になり、
「すまぬがのう、シン。
どうやら子供らを公都に送る話は、
無くなってしまった」
「?? どゆこと?」
メルが首を傾げると、アルテリーゼは
申し訳なさそうに、
「ここに来る途中で蛇蜻蛉の群れに襲われたで
あろう?
それを聞いた親、特に母親がやっぱり
取りやめてくれと言ってきて……
こちらから頼んでおきながらまことにすまぬ」
まあ話はわからないでもない。
いくら安全と言われたって、襲われたばかりの
このタイミングで―――
さあ行きましょうと言われてもなあ。
私はそれを聞いて少し考え、
「しかし、高所とはいえ結構広い平地が
あるんだな」
おそらく高度一千か二千メートルほどの
山岳地帯なのだろうが、場所としては
結構開けていて、
「ここはどちらかと言うと、人間の姿専用の
居住区でな。
我やシャンタルが運んできた荷物を
受け取るのと同時に―――
人の姿で酒や料理を楽しむ場でもあるのだ」
「そういえば小屋みたいな家があるね。
あれ、そういう事だったんだ」
なるほど。
そう考えると、人間の生活にすでに
順応しているとも言えるわけか。
「……よし。
アルテリーゼ、ここのドラゴンたちに
話を通してもらえないか?」
「?? 何をじゃ?」
私は各所にある小屋や家のような建物を
指差して、
「要は公都で暑さをしのげる、人間のような
生活が出来ればいいのだから―――
ワイバーンの拠点に作ったように、
こちらにも人間に来てもらい、そのための
施設を作ればいいんじゃないか?」
そこでメルが私の考えを察し、
「あ、そうか。
こちらで公都での生活を再現出来れば、
何もドラゴンの赤ちゃんを移動させる
必要は無いもんね」
「なるほどのう。
よし! ちと話してみるわ!」
こうしてドラゴンたちが集められ―――
結果、人間が常駐する施設の作成を頼まれたので
あった。