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#追放
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扉が開いた。
入ってきた男は、思っていたよりも静かだった。
背は高い。
だが、それ以上に目を引くのは、その立ち姿だ。
力で威圧するのではなく、
そこにいるだけで周囲を支配するような、整った重心。
衣服は華美ではない。
だが質は一目で分かる。
無駄な装飾を削ぎ落としたその装いは、
金よりも価値のあるものを知っている者の選び方だった。
顔立ちは端正。
だが、どこか温度が低い。
口元には、わずかな笑み。
それは愛想ではなく――
相手の価値を測るための仮面のようにも見えた。
そして目。
柔らかく見えるその奥に、
計算がある。
一瞬で理解する。
この男は、剣で戦う人間ではない。
だが――
剣を振るう人間を、
好きなように動かせる側の人間だ。
(リチャードとは違う)
(でも、どっちが怖いか分からない)
カルドは、思わず息を止めていた。
「よう、兄弟。今日はどうした?」
リチャードは気軽に声をかけた。
だが、入ってきた男――
バッキンガム公ヘンリー・スタッフォードは、笑っていなかった。
「国王の病状が悪化しているのは、本当か?」
「……ああ」
リチャードは肩をすくめる。
「もう長くはないだろうな」
バッキンガムは一歩だけ近づく。
「――いよいよか」
低く、つぶやくように言った。
「だが、どうも気に食わん」
リチャードは眉を上げる。
「何がだ?」
「リヴァーズ伯の動きだ」
「妙に早い」
「王が死ぬ前から、もう“その後”の配置を始めている」
一瞬、沈黙。
リチャードの口元が、わずかに歪む。
「……ああ」
「囲い込みに来てるな」
「王が死ぬ前に動くやつはな」
「死んだ後に全部持っていく気のやつだ」
(この人たちは王が死ぬ前から、次の王の話をしてる……)
カルドはこの時、権力闘争の中心に足を踏み入れていた
「ん?」
バッキンガムの視線が、カルドに向く。
「この坊やは?」
「俺のボディガードだ」
軽く言ってのけるリチャード。
バッキンガムは一歩近づき、カルドを上から下まで眺めた。
「……大丈夫か?」
「大丈夫だ」
即答。
その声音には、疑いがない。
バッキンガムはわずかに笑った。
「なるほどな」
「“面白いもの”を拾ってくる趣味は相変わらずか」
リチャードの口元が歪む。
「退屈しないだろう?」
一拍。
リチャードはカルドを見る。
「カルド」
「出番だ」
その目は、楽しんでいた。
「面白いものを見せてやる」
リチャードの声は低かった。
「お前、エドワードの顔は覚えているな」
「……はい」
「これからエドワードをさらう」
カルドは息をのんだ。
「行き先は――エスカリオ塔だ」
「!」
「一緒にいろ」
「片時も離れるな」
リチャードはカルドをまっすぐ見た。
「後で応援をやる」
一歩、近づく。
「俺が迎えをよこすまで、そこを動くな」
(これ、失敗したら死ぬどころじゃない…)
(国の話だ…俺の話じゃねえ)
カルドは、後年この話を一度だけしたことがある。
酒の席だった。
「俺はその時、本当に小僧でよ」
苦笑する。
「仕事だ、うまくやろうってな」
「金をもらったら、前に盗んだ酒屋に返そうとか」
少しだけ間。
「そんなこと考えてた」
グラスを揺らす。
「……なのにさ」
視線を落としたまま、ぽつりと続ける。
「リチャードは――」
一瞬、笑った。
「国ごと盗もうとしてたんだよな」
エスカリオ塔
旧王宮――
テムルー川に沿って築かれた城塞であり、
堅固な防備を備えている。
そのため、王族の緊急避難先として
用いられることもあった。
そしてここが、
カルドにとって運命の舞台となります
さて、ここでリヴァーズ伯について少し触れておきましょう。
現在の国王の妃は、エリザベス・ウッドヴィル。
リヴァーズ伯は、その王妃の父にあたる人物です。
もともとグロスター公は、エドワード王の有力な側近でありました。
しかし王妃の一族が次々と登用され、
宮廷で勢力を広げていく中で、
彼は次第に中枢から押しやられていきました。
とはいえ、グロスター公もまた百戦錬磨の人物。
このままで終わる男ではありません。
さて、どうなりますことやら。