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第91話:ヒグマからの「恩返し」〜最強の調達兵と、限界集落の春の宴〜
巨大なデッキブラシによる「春の換毛期ブラッシング」から一夜明けた、北海道の限界集落。
俺——アキヤがまるごと買い上げた古民家には、今日もポカポカとした春の陽射しが降り注いでいた。
縁側のガラス戸を開け放ち、朝の心地よい空気と共に温かいほうじ茶を啜っていると、裏山の茂みがガサガサと大きく揺れた。
「……ん?」
「あっ、お兄さん! ヒグマさんが来ましたよ!」
小春ちゃんが指差す先から姿を現したのは、すっかり我が家の「でかい猫(門番)」として定着しつつある、体長3メートルの巨大ヒグマだった。
ブラッシングでごっそりと冬毛が抜け落ちたため、そのシルエットは昨日よりも一回りスッキリとしている。
だが、今日のヒグマは手ぶらではなかった。
『グゥ……』
ヒグマはのしのしと縁側の前まで歩いてくると、口に咥えていた「巨大な緑色の束」を、ドサッ! と俺の目の前に落とした。
「な、なんだこれ……!?」
俺は目を見開いた。
ヒグマが持ってきたのは、泥を綺麗に落とされた『タラの芽』、『ウド』、『ネマガリダケ』、そして昨日も採れた『行者ニンニク』など、北海道の春を代表する高級山菜の数々だった。
しかも、そのどれもが傷一つなく、最高の食べ頃を迎えた極太の極上品ばかり。
量にして、スーパーの買い物カゴみっつ分は優にあるだろう。
ヒグマは「どうだ?」と言わんばかりに鼻息を荒くすると、俺の足元にゴロンと寝転がり、巨大なお腹を見せて『ゴロゴロ……』と喉を鳴らし始めた。
「お、お兄さん……! これって……!」
小春ちゃんが、山のように積まれた高級山菜とヒグマを交互に見比べて声を震わせる。
「……あぁ。どうやら昨日のブラッシングの『恩返し』……あるいは、さらなるブラッシングを要求するための『貢物』らしいな。恐るべき調達能力だ」
ジンバルにセットされたスマホの画面では、早朝からこの『リアル恩返し』を目撃した三百万人のリスナーたちが完全に狂乱していた。
『うおおおお!! ヒグマの恩返しキタ━(゚∀゚)━!』
『完全に主に懐いてるww 貢物持ってくる野生の王ww』
『タラの芽にネマガリダケ!? 最高のラインナップじゃん!』
『市場に出したら数万円は下らないぞこれ……』
『シロ様がヒグマの頭を撫でて褒めてるの尊すぎる』
世界中のVIPたちも、朝から財布の紐を限界突破させている。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”A loyal giant! Master, you have tamed the most powerful gatherer in the forest!“(忠実なる巨人よ! 主、森で最強の採集者を手懐けたな!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”Excellent ROI! One brushing turns into a mountain of premium ingredients!“(素晴らしい投資対効果だ! 一度のブラッシングが最高級食材の山に化けるとは!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト×10連発)=”Akiya! That bear is an angel in disguise!“(アキヤ! あのクマさんは変装した天使ね!)』
「……とはいえ、これだけの量だ。俺と小春ちゃん、それに動物たちだけでは、到底消費しきれないな」
俺は山積みの山菜を見下ろして、需品科仕込みの兵站(ロジスティクス)計算をフル回転させた。
「生鮮食品の長期保存は、塩漬けか乾燥などの加工プロセスが必要になる。だが、せっかくの旬の味覚だ。最高の鮮度のうちに『一斉消費(マス・コンサンプション)』を行うのが最も合理的だ」
俺はスマホを取り出し、村長の家へと電話をかけた。
「あ、村長ですか。アキヤです。実は今朝、裏山で大量の山菜を『調達』しまして。……ええ、俺一人では処理しきれないので、村の皆さんに振る舞おうかと。昼頃に、うちの縁側に集まっていただけませんか?」
数時間後。
限界集落の古民家の庭先には、村長をはじめとする十数人のお年寄りたちが集まっていた。
皆、俺が山ごと買い上げたこの場所がどうなっているのか気になっていたようで、ヒグマが縁側の下で大人しく寝ている姿を見て最初は腰を抜かしかけたが、シロのマイナスイオンオーラのおかげですぐに安心し、和やかな空気に包まれていた。
「さぁ皆さん、揚げたてですよ! どんどん食べてくださいね!」
割烹着姿の小春ちゃんが、大皿に山盛りにされた『タラの芽の天ぷら』を運んでくる。
俺は台所で、ネマガリダケと油揚げの味噌汁を作り、ウドの酢味噌和えを小鉢に取り分けていた。
もちろん、主食は俺のアイデンティティである『玄米』だ。今日は特別に、行者ニンニクを細かく刻んで炊き込んだ『スタミナ玄米ご飯』である。
「おお……! サクサクじゃ! タラの芽の苦味がたまらん!」
「ウドもシャキシャキして美味しいねぇ。こんな立派な山菜、何十年ぶりに食べたじゃろうか……」
「アキヤ君、本当にありがとう。限界集落になってから、こんなに賑やかにみんなでご飯を食べるなんて、お祭りみたいじゃよ……」
村長やおばあちゃんたちが、美味しそうに山菜を頬張りながら、ポロポロと嬉し涙をこぼしている。
その光景を、三百万人のリスナーたちが温かいコメントと共に見守っていた。
『最高のお昼ご飯だ……』
『村のお年寄りたち、本当に嬉しそう』
『ヒグマの恩返しが、村全体の笑顔に繋がったんだな』
『主、料理のスキルも完璧すぎないか?』
『玄米だけは絶対にブレないの草ww』
俺の足元では、シロが『ミャウ』と満足そうに鳴き、コン吉とコン次郎はおばあちゃんたちからネマガリダケのおすそ分けをもらってご満悦だ。
庭で寝そべるヒグマも、自分の持ってきた山菜で人間たちが喜んでいるのを理解しているのか、「グゥ……」と誇らしげに喉を鳴らしていた。
「アキヤ君……あんたがこの村に来てくれて、山を買ってくれて……本当に、村が生き返ったみたいじゃ。ワシら、あんたには足を向けて寝られんよ……っ」
村長が、俺の手を両手でギュッと握りしめ、深々と頭を下げた。
『村長……(号泣)』
『あかん、もらい泣きする』
『限界集落が、世界一温かい場所に変わったんだな』
『主、あんた最高の男だよ……』
チャット欄が感動の涙で埋め尽くされ、極彩色のMeTubeギフトが春の木漏れ日のように降り注ぐ。
「お兄さん……!」
小春ちゃんも、感極まったように目を潤ませて俺を見つめている。
世界中が、この心温まるヒューマンドラマの結末(俺の感動的な返答)を待ち構えている。
だが。
俺は手元の温かいほうじ茶を一口啜り、元・社畜としての『一切の感情を排したフラットボイス』でカメラに向き直った。
「……村長。そして世界中の皆さま。感動的な村おこしの美談に仕立て上げようとしているところ大変申し訳ありませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『村長が泣いてるのに、絶対に感動で終わらせない男!!』
『主の限界言い訳タイム・春の宴会編ww』
『さあ、この心温まる宴をどうやって論破する気だww』
俺は、キリッとした真顔で、淀みない口調で言い放った。
「俺は決して、純粋な善意や村おこしのために宴会を開いたわけではありません。大量の生鮮食品を前にして、腐敗による廃棄(フードロス)を避けるための、極めてマクロな『在庫一掃処分(クリアランス)』を行ったに過ぎません。村の皆さまには、SDGsに基づく『生体廃棄物処理ユニット』として、俺のロジスティクスに協力していただいた。ええ、ただの合理的な在庫管理と、栄養素の外部委託ですね」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、ウドの皮を丸めたもので、俺の背中に渾身のツッコミ・スナップを見舞った。
「村のお年寄りたちを『生体廃棄物処理ユニット』扱いする人間がどこにいるんですか!! どう見たって、ヒグマさんがくれた山の恵みを一人占めしないで、みんなで美味しく食べて笑ってほしかっただけでしょ!! 素直に『皆の笑顔が見れて嬉しい』って言いなさいよ!!」
『小春ちゃんのキレキレウド・スナップ炸裂www』
『生体廃棄物処理ユニット(村の老人たち)』
『在庫一掃処分(最高の春の宴会)』
『適応力バグおじさん、ついに宴会をSDGsと在庫管理にすり替えるww』
『言い訳がひどすぎて涙が爆笑に変わったわww 最高!!』
俺の理不尽極まりない需品科的な言い訳と、小春ちゃんの鋭すぎる物理ツッコミに、村のお年寄りたちは「アッハッハ! アキヤ君は照れ屋じゃのう!」と大笑いし、三百万人の視聴者たちも爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(美味しい宴会だったわね)』
シロが、俺の胡座の上に飛び乗ってゴロゴロと喉を鳴らす。
「……まぁ、理由はどうあれ。みんなの腹が膨れたなら、それが一番だ」
俺は苦笑いしながら、シロの純白の頭を撫で、温かいほうじ茶を啜った。
最強のヒグマが運んできた、大自然の恩返し。
俺が全財産を投じて守り抜いたこの限界集落は、動物たちも、人間たちも、そして画面の向こうのリスナーたちも、すべてを笑顔で包み込む『世界一温かい聖域』として、今日も最高にバグった平和な時間を刻み続けるのだった。
ゆうき あきや
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#心理描写重視
コメント
1件
第91話、めっちゃ良かったです…!!😭💕 ヒグマが高級山菜を貢いできたシーン、「完全にでかい猫やん!!」って声出ました(笑) でもそれ以上に、村の皆さんと一緒に春の恵みを囲む宴の温かさに胸がきゅーっとなりました…。 しかも最後のアキヤさんの「生体♡♡♡処理ユニット」言い訳→小春ちゃんのウドスナップツッコミで涙が吹き飛んだ(爆笑) ほっこりと笑いがぎゅっと詰まった、大好きな回です! ゆうきさん、今日も素敵な物語をありがとうございます🌸✨