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#四季総受け
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21,524
芹沢が作った資料は、昼過ぎには、すでに三度読み返していた。
何度読んでも、穴が見つからない。見つからないどころか、読むたびに別の頁の別の行が、新しい意味を持って立ち上がってくる。
(……この数字は、半年分か)
回転率の推移は、店ごと、ひと月ごと。ここまでは、営業が出す資料として珍しくない。
珍しいのは、その横の余白だった。
〈入口付近で平積み、三か月継続〉
〈棚が移動。店長判断とのこと〉
〈売れ止まり。隣に新刊。次は、この既刊と並べてほしいとの声〉
少し右上がりの几帳面な字で、数字の裏の動きがびっしりと書き込まれている。各行の末尾には、小さく「メール」「Zoom」と添えられていた。
(……書店員との、やり取りの記録か)
回数が、多い。一店あたり、月に二度は連絡を取っている。それも、地方の中規模店ばかりだ。
営業が書店と連絡を取るのは、日常だ。だが、聞いた一言を、ここまで丁寧に残している営業が、ほかにいるだろうか。
動向を知るだけなら、都内の主要店の平均値で足りる。営業部の担当割りに、佐伯の名前はなかったはずだ。それなのに、なぜ。
そこまで考えかけて、澪は首を振った。今は、それを問う時間じゃない。
社内チャットを開き、宛先に「芹沢」と打ち込む。
指先が迷う。数秒の静止のあと、澪は必要最低限の二行だけを叩き込んだ。
〈資料の件。十八時に第二会議室へ来い〉
返信は、一分もしないうちに画面を跳ねた。
〈承知しました〉
その、機械的なまでに早い返信に、掌の温度がスッと引いた。
夕方。
第二会議室の空気は淀んでいた。
古いスチールの長机と、色褪せたブラインド。西日が差し込み、埃の浮いた床に細い縞を作っている。
澪はドアを完全に閉めず、数センチだけ隙間を開けたまま窓際に立っていた。閉め切る気になれなかったのは、反射的な自衛本能のようなものだ。壁の向こうから、コピー機の唸る音と誰かの話し声が、くぐもって漏れてくる。
ノックの音は、控えめだった。
「失礼します」
履き潰した靴が床を擦る音が、一定のテンポで近づく。
「……ドアは、そのままでいい」
「はい」
振り返ると、芹沢はそこにいた。前髪の影の奥で、無機質な瞳がこちらを捉えている。
「……資料は、読んだ」
「はい」
「……」
澪は言葉を切った。天板の古びた傷を視線でなぞる。何年も、何十回も、誰かがここで数字の辻褄合わせに頭を抱えてきた跡だった。
プライドをすり潰すような沈黙のあと、澪は乾いた声でそれを吐き出した。
「穴は、なかった」
「……光栄です」
「営業の域を超えている。お前、これを何のつもりで……」
言いかけて、澪はそれを飲み込んだ。理由を追及する時間は、今はない。
「……佐伯を抑えるための切り口を教えろ。この数字を、どう組み立てれば奴を納得させられる」
屈辱だった。
よりによって、この男に頭を下げることの気色の悪さに、胃の腑が焼けるようだった。だが、選択肢はもう、これ以外に残されていなかった。
コメント
1件
読了したよ〜!!📖✨ もうね、芹沢の資料の細かさにまず度肝抜かれた…!書店員との連絡記録をここまで残してるの、マジで営業の域超えてるって澪が言うのわかる😭 そして最後の「この数字をどう組み立てれば奴を納得させられる」って、澪が一番頼りたくない相手に頭下げる展開、胸ぐっと来た…!屈辱の中でも選ぶべき道を選ぶ強さ、エモすぎるよ…!!🔥💕