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るしゅ
鬼霧宗作
鬼霧宗作
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その夜のことについて、彼女自身が語ることはほとんどなかった。
ただ後に、あの冊子の後ろに、数頁だけ新しい文字が加わっているのを私は見つけた。
筆跡は乱れていた。
ところどころ、インクが滲んでいる。
⸻
【記録】
眠れない。
水の音が近い。
———
外へ出た。
寒い。
———
川。
———
兄の声がする。
違う、と。
———
思い出せない。
思い出したくない。
———
石。
濡れている。
———
手。
———
私の手だった。
———
(ここで長く線が引かれている)
———
違う
違う
事故
———
滑っただけ
———
(文字が乱れる)
———
押した?
———
違う
———
水の音がする。
止まらない。
———
兄と同じだった。
手が。
———
(インクの滲み)
———
私は
———
(以下、空白)
⸻
私は頁を閉じた。
紙は湿っていた。
水のせいか。
あるいは、別のものか。
私には分からなかった。
ホームズは、その頁を見なかった。
窓の外を見ていた。
川の音が、遠くで続いている。
それはいつもと同じ音のはずだった。
だが、その夜以来、私は二度と同じようには聞けなかった。