テラーノベル
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夜の路地は、いつもより長く感じられた。
祭り帰りの人々が消え、笑い声も灯りも遠ざかり、残ったのは湿った石畳と街灯の影。
ロヴィーノは胸の奥に広がる不安を、舌打ちと早足で誤魔化していた。
「……またかよ」
背後にまとわりつく足音。数日前から感じていた気配。
最初は気のせいだと思った。だが、今日は違う。曲がるたびに、確かについてくる。
角を曲がった瞬間、肩を荒々しく掴まれた。
「やっと、捕まえた」
濁った声。息の臭い。ロヴィーノの心臓が跳ねる。
「離せッ!」
必死に振りほどこうとするが、相手の力は重い。壁に叩きつけられ、腕を捻られ、逃げ道は塞がれた。
「お前みたいなツンケンしたガキ、誰も欲しがらねぇよ。でも俺は違う」
「ふざけんな!やめろッ!」
抵抗の声は路地の奥でかき消される。
服を乱され、押さえつけられ、望まぬ熱が覆いかぶさる。
ロヴィーノの強がりは崩れ、目尻には悔し涙が滲む。
(やだ……嫌だ……!誰か……!)
必死に助けを求める声は、喉の奥で掠れて消えた。
恐怖と屈辱に心が裂けていく。
――その時。
「ロヴィーノ!!」
鋭い叫びが路地を貫いた。
振り返るモブの目に、緑の瞳が映る。剣を握り、怒りに震えるアーサーだった。
「てめぇ……ッ」
次の瞬間、金属の閃光が走った。
モブの悲鳴は短く、血飛沫が壁を赤く染める。
残されたのは、震えるロヴィーノと、血濡れのアーサー。
「……ロヴィ」
荒い息をつきながら駆け寄り、アーサーはロマーノを抱きしめた。
血で汚れた手のひらは温かく、それが余計に涙を誘った。
「もう大丈夫だ。俺がいる」
「……なんで、お前が……泣いてんだよ」
見上げれば、アーサーの目尻にも涙が伝っていた。
強いはずの男が、ロヴィーノの傷に心を裂かれている。
「お前が傷つくのが、一番嫌なんだ……」
胸に顔を押しつけられ、ロヴィーノの肩が小さく震える。
「馬鹿野郎……こんなとこで、助けに来やがって……」
震えた声は、やがてかすれた告白に変わる。
「……オレ、お前のこと……」
最後まで言えなかった。けれど、アーサーには十分だった。
腕の力を強め、耳元で囁く。
「俺もだ。ずっと……お前が好きだ」
二人の距離が近づき、涙に濡れた唇が重なる。
それは壊れやすく、歪で、不完全な関係。
けれど確かに結ばれた初めての口づけだった。
夜はまだ明けない。
けれど暗闇の中で、二人の想いは確かに灯っていた。
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