〜水戸洋平side 〜
薬局でとりあえず必要なものをひと通り買って、宿舎に走る。
本当は今日バイトのシフトが入っていたけれど、店長に謝って休ませてもらった。
ここ数週間働き詰めだったから、休みの許可はすんなり出た。
花道に自分の電話番号を渡してよかった。
そんなことを考えているとあっという間に宿舎についた。
体育館に向かうゴリに花道の部屋を聞き、歩きだす。
部屋の扉をそっと開け、中を覗くと、布団の上に横たわる花道とその寝顔を見るミッチーがいた。
「ミッチーやっほ〜。」
「水戸っ!?」
靴を脱いで、床に買ったものをひろげる。
「悪いな…。」
ミッチーが気まずそうな顔で言う。
たった一週間前の襲撃事件のことが頭をよぎる。
「ミッチーさ、俺のこと怖い?」
「なっ!俺が一年にビビるわけねぇ!」
そんな調子の良いことを言うから、ついからかって見たくなり、ミッチーの顔の前まで拳を突き上げる。
「んっ!」
目をつぶりビビり散らかすミッチーがつい面白くて笑ってしまう。
「ウソだよ、ウソ。もう殴らないから安心して。」
「お前なぁ…。」
「そんな怖がらないでよ。」
「怖がってねえし!っていうか怖がってても良いだろ、俺は許されないことをしたんだから。」
「良くないよ〜。俺、ミッチーのこと応援してるし。」
そういうとミッチーがため息をついて言った。
「ホントそういうとこだぞ。」
「何が?」
「何がって…まあ良いや。俺は練習に出るから、あとは任せた。」
「はーい。」
ミッチーが部屋を出たあと、花道を起こさないように注意して熱を測る。
39度…、こりゃあきついな。
ぬるくなってきたタオルを、買ってきた熱さまシートに変えて、様子を見ることにした。
気がつくと、午後の3時になっていた。
学校帰りの小学生のはしゃぎ声に耳を澄ませていると、花道の呼吸が荒くなってきた。
「はぁ、はぁ、…おや、じ。はぁ…病院、に…。はぁ、はぁ。」
過呼吸気味になっている。
うなされているのか?
「花道。花道、起きて。」
これ以上、うなされるのはかわいそうだと思い、花道を起こす。
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ひゅっ、はぁ。
涙目で過呼吸になる花道を抱えて上半身を起こし、背中をさする。
花道の親父さん。
男で一つで花道を育ててきた親父さんが亡くなった日のこと、それを俺はまだ詳しく聞けずにいる。
あの日、電話がかかってきた俺は、警察署の霊安室で台に乗せられた花道の親父さんを見て、固まってしまった。
そして傷だらけで泣きじゃくる花道を抱きしめて、何も言わなかったし、聞かなかった。
あの日もこうやって、背中を擦っていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!