〜水戸洋平side 〜
「洋平…?」
ようやく呼吸が安定した花道が、俺がここにいることを不思議そうにうかがう。
「花道が倒れたって聞いたから…。」
こうやって花道の看病をするのは今日が初めてじゃない。
親父さんが亡くなった後から、塞ぎ込んで季節外れの風邪を引いたとき、初めて一人暮らしで体調を崩し、俺が家に行くまでずっと玄関でうずくまってたとき、花道がこういうときに親父さんの代わりに頼れるのは、俺しかいなかった。
「今、あの日の夢を見てた。…親父が死んだ日。」
「うん。」
とうとうこの時が来た。
俺が今まで無意識のうちに避けていた、あの日のことを聞く時が。
「俺、あの日、学校の帰り道、洋平と別れた後さ…高校生4人ぐらいに絡まれたんだ。この前の鉄男とかとは比べものにならないくらい弱い奴ら。だからソッコーで倒して家に帰った。そしたら、玄関で親父か倒れてて…っ…俺バカだから…っっ」
当時のことを思い出したのか、花道が嗚咽混じりに泣き出した。
「俺、バカだから…救急車呼ぶとか思いつかなくて、走って病院に行って、お医者さんに来てもらおうとして…っ、そしたらっ、さっきの奴らが数増やして待ち構えてた。ボコられながら、親父か倒れたんだっつっても、聞いてくれなくてっ…警察がちょうど通りかかって、奴らは逃げてったけど、親父はっ…もう、動いてなくてっっ…。」
「うん。」
「俺がっ、俺がバカだから…親父は死んだんだっ…。」
花道の震える手をそっと握る。
「ごめんな、あの時…そばにいてやれなくて、ごめんなっ…。」
俺は、涙を堪えるのに精一杯だった。
「救急車はな、119を押すんだよ…。自分で病院に行かずに、…救急車が来るのを待つんだよ。」
自分でも、何を言っているのか分からなかった。
でも、花道は、もう二度と同じ間違いをしないように、大粒の涙を流しながら、必死に俺の言葉に頷いていた。
俺と花道が初めてリーゼントにした時、一番最初にその姿を見せたのは、花道の親父さんだった。
自分の親には怖くて見せられなかったのに、親父さんには自慢気に見せれた。
散々笑って、少し小馬鹿にした後、
「花道の仲間になってくれてありがとう。」
と折角セットしか髪をわしゃわしゃと撫でながら言っていた。
肩に、温かい感触が広がる。
花道が、俺の肩に身を預けたまま寝息を立てていた。
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