コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「んん……っ…ふ……ぅ…っ」
舌先がぬるりと侵入してきて
歯列をなぞるように蠢き始める。
(あ……やばい……これ……)
意識がぼんやりとしてくる中で
尊さんの舌が俺の舌を探り当て絡め取る。
しばらくして開放され乱れた衣服を着直した頃には、俺は全身が尊さんの独占欲で溢れ返っていた。
大体、尊さんがキスマを付けるのは…嫉妬したときだけ。
それも、こんなに体にくまなく痕を付けられたのは…今日が初めてだ。
考えられるとしたら……
(……もしかして、尊さん…)
「尊さん…高田に…嫉妬、してます?」
尊さんは少し恥ずかしそうに顔を背けたあと
俺の瞳を真っ直ぐに見つめる。
その視線には今まで見たことがない程の熱が籠もっていた。
「…悪いか」
いつも冷静沈着な彼からは想像できない
嫉妬心丸出しの独占欲を見せつけるような言葉に胸がキュッと締め付けられる。
「尊さん……っ!」
思わずぎゅっと抱きつく。
「ふふっ……独占欲強い尊さん可愛いです…えへへ」
俺が素直な気持ちを告げると
尊さんは複雑そうな顔をして黙り込んでしまった。
「あれ、尊さん照れてます…?」
「なわけないだろ」
「えー絶対照れてますよ!」
そんなやりとりをしているうちに、車のエンジンが再び唸りを上げ、ゆっくりと前進し始める。
「ほら、帰るぞ」
短く告げる尊さんの声には、先程までの荒々しさは消えていたものの
どこか照れた様子が伺える。
それがまた愛おしくて仕方なかった。
(た…尊さん可愛すぎる……っ、強引な尊さん……癖すぎたし…もうちょっとだけ、されてもよかったかも…っ)
夜風が車窓を叩く音だけが響く静寂の中
お互いの鼓動が聞こえそうなほどの密室で過ごす帰り道は、とても特別なものに感じられた───
◆◇◆◇
「…じゃ、また明日会社でな」
「はい…!また明日」
「あっあと尊さん!」
「…なんだ?忘れ物か?」
「えっと、そうじゃなくて、運転してくれてありがとうございました。尊さんの助手席乗せてもらえてすごく嬉しかったので…!帰ったらゆっくり休んでくださいね」
「…あぁ、ありがとな」
「それじゃ、おやすみなさい……!」
「おやすみ」
尊さんの車を見送った後、自分の部屋の玄関を開けて無事帰宅した。
手を洗い、服を着替えて夜ご飯を済ませると歯磨きとお風呂を済ませると
寝室のベッドに寝転がり、今日一日の出来事を振り返る。
海水浴
ビーチバレー
体のありとあらゆるところに付けられキスマ
全てが新鮮で充実していたけれど
特に印象的なのはやはり尊さんの嫉妬だろう。
あの時の表情を思い出すだけで頬が熱くなるのを感じた。
(あんな尊さん初めて見たかも…)
普段クールな彼が見せた子供っぽい一面はなんとも可愛らしかったし
同時に独占欲の強さにも驚かされた。
「この痕…消したくないな…消えたら尊さんにお願いしてみようかな、またつけて欲しいって…」
そう呟きながら毛布に包まって目を閉じた。
その翌朝───…
朝日がカーテンの隙間から差し込み、薄く明るくなった部屋に鳥のさえずりが響く。
昨夜遅くまで尊さんとの出来事を思い返していたせいで少し眠気が残る。
しかし、今日も仕事があるのだと思い出しベッドから起き上がる。
(……まだ体が熱い)
Tシャツの裾をめくるとそこには昨日尊さんが残したキスマークが色濃く残っていた。
首筋から胸元へと続く無数の赤い痕跡はまるで
所有の証のようで見るたびに
恥ずかしさと同時に満たされた気持ちが込み上げてくる。
(……嬉しい)
ベッドから下りて、キッチンへ向かい朝食をササッと作る。
インスタントスープの封を開けると器に移し、湯を注ぎ、チンした食パンの香ばしい匂いが食欲を誘う。
テレビをつけると、朝の情報番組の軽快な音楽が流れた。
俺はパンをかじりながら、ぼーっと画面を眺める。
ただの朝のルーティン──
目はまだ完全に覚めていない。
ただの“ながら見”のつもりだった。
けれど──次の瞬間
画面に映った “西田與一 釈放” のテロップが、俺の指先を凍りつかせた。
『…先月、文京区で起きた“ケーキ殺傷事件”で逮捕されていた西田與一(38)が、本日未明に釈放されました』
「……あ、あの事件」
パンを持つ手が、ほんの少しだけ止まる。
だが胸の奥に走ったのは“恐怖”というより
あの事件のことを思い出した時の、ちょっとしたざわつきだった。
(……そういえば、捕まったの6月だったっけ)
亡くなったケーキの被害者の名前や
あのときの騒ぎが、一瞬だけ脳裏をかすめる。
でも、もう「終わったこと」だ。
俺は自分にそう言い聞かせながらスープをかき混ぜる。
画面が拘置所前に切り替わり、西田が記者に囲まれている映像が流れた。
『こんな事件、ただの予行演習だ』
『はは、ははは…は、俺は、言われた通りにしただけだ』
俺はその発言に眉をひそめ、
スープを飲もうとしていた手をゆっくり下ろした。
(……なんか、気持ち悪い言い方)
“予行演習”という言葉が胸に引っかかる。
怖いというより、嫌な感じ。
終わった事件を、わざわざ蒸し返されたような不快さ。