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(どうせ、逮捕されたショックで変なこと言ってるだけ……)


自分にそう言い聞かせると、自然と肩の力も抜けていく。


俺は画面を消すと立ち上がり、支度を始めた。


着替え、鏡を見て髪を整え、ネクタイを結ぶ。


いつものルーティンに戻れば、 余計なことは考えなくなる。


俺はバッグを手に取り、部屋を出る準備をする。


スマホを取り出し時刻を確認すると


最寄り駅に向かうのには、いつもより早い時間になっていた。


(今日は早めに行こうかな)


なんとなく焦る気持ちが湧いてきて、 いつもより早足で玄関に向かった。



◆◇◆◇


昼休み──…


昼どきの定食屋は、味噌汁と揚げ物の香り


厨房の油が弾ける音


それに混ざる会社員たちのざわつきで満ちていた。


俺たちはいつもの窓際の席に向かい、 特に何も言わなくても向かい合って座る。


「尊さん、今日は唐揚げ定食にしたんですね」


「まぁな、お前はまた日替わりか」


「今日はサバ味噌だったので、つい」


普段通りのやり取り。


俺は箸を割りながら、目の前の皿を見つめる。


サバの焼き目の隙間から漂う生姜と味噌の香りが鼻腔をくすぐる。


(今日のも美味しそう)


一口食べれば


皮はパリッと、身はふっくら。


ご飯もすすみ、俺は幸せを噛みしめる。


ただ──


隣のテーブルから聞こえてきた会話が、少しだけ俺の思考を止めた。


『ケーキの事件の犯人……釈放だってな』


『いや~怖くない?あんな狂気染みたフォークが普通に歩いてるなんて……』


(……!!)


思わず視線を上げる。

会話の内容は今朝のニュースだった。


『しかもアイツ、“これは予行演習だ”とか言ってるらしいぜ。マジで頭イカれてる』


『マジでシリアルキラーかなんかなの?怖すぎ……』


彼らの会話に耳を傾けつつも、俺は無言でサバを口に運ぶ。


少し冷めかけていたが味は変わらない。


(様子おかしかったし、警察は西田の言葉を相手にしてないみたいだし…もうさすがに何も無いと思うけどな…)


妙に引っかかるその言葉が、喉に魚の小骨のように刺さっている。


ふと目の前を見ると、尊さんは黙々と唐揚げを食べていた。


いつもと変わらない尊さんの表情を見て、どこかホッとした俺は、再びサバ味噌に集中した。



◆◇◆◇


「……今日はちょっと遅くなっちゃったな」


午後の業務が終わり会社を後にした俺は、駅に向かう道を歩きながら独り言を呟く。



数十分後──…


電車を降りて、バスに乗り込む。


夕暮れの空気は涼しくなり始め、 夏の終わりを感じさせる風が吹いていた。


今日は尊さんには先に帰っててくださいと言ってあったので珍しく、久しぶりの1人帰宅だ。


今日に限ってケアレスミスが多くて、仕事が定時までに終わらなく


かといって土日に回すのも嫌で、残業して終わらせたという形だ。


さすがに尊さんに待ってて貰うのは悪いし


(まあ…一人で帰るって言ったら尊さんまだ心配してたけど…さすがに心配しすぎなんだよね…もうあのケーキ事件は解決したも同然なんだし!)


尊さんが俺をそれほど大切に思ってくれてるってことなんだろうけど


(俺ってそんなにすぐ襲われそうな…弱い男に見えるのかなぁ…)


もしそうなら、これを機に筋トレ始めて尊さんに心配かけないようにしようかな…?


なんて考えを巡らせながらバスに揺られていると、あっという間に家の最寄りのバス停についていた。


バス停から自分のマンションまでは5分ほどの道のり。


少し疲れた足を引きずりながら帰路につく。


夏の終わりの涼しい夜風が火照った頬に心地よい。


エレベーターで自分の住む3階へ。


誰ともすれ違うことなく自分の部屋、302号室の前に着く。


(……あれ?)


自分の部屋の前──正確には扉の前だけが、


異様に濃いタバコの残り香に包まれていた。


他の部屋の前とは明らかに違う。


廊下全体ではなく、俺の部屋の扉の正面だけが煙草の煙で燻されたかのように重苦しい匂いが充満している。


(誰かここで吸ってた……?)


鼻をすんと動かしてみると


確信に変わるほどの煙草特有のツンとした刺激臭と焦げた紙の匂い。


普段はまったく感じない煙草の香りが


まるで“ここに誰かいた”と主張するように漂っていた。


なんか、いつも以上に気持ち悪い。


タバコは元々、好きじゃない


というより…


タバコの匂いを嗅ぐと、つい室井さんを思い出してしまうからだ。


それはきっと、室井さんが俺に長い説教をするのは決まって喫煙室だったからだろう。


家に入ってからも、嫌な汗が額に滲んだ。


(落ち着け……考えすぎだ…まさか、俺の家に室井さんが来るなんて……ないない。タバコの匂いだって、ただの偶然かもしれない……)


頭ではそう思うのに


体中の神経が警鐘を鳴らしていた。


しかしそれでも、何度も深呼吸を繰り返しながら理性でなんとか抑え込んだ。


この先、こんなに尊い恋はない。2

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コメント

2

ユーザー

次回、タバコの原因が何なのか、とても楽しみです!!!

ユーザー

見るの遅れましたm(*_ _)m 今回も最高でした!一体誰が家の前にいたのか気になります。 妄想が止まらないですね〜(殴)

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