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「あのっ、相川先輩! 先輩って、1年の田口くんのお兄ちゃんなんですよね!?」
「……え?」
お昼休み。
購買で紙パックのいちごオレを買い、いつも通りにのんびりと廊下を歩いていた俺は
突如として現れた数人の女子生徒たちにガッと行く手を阻まれていた。
全員がキラキラ、というよりは、ギラギラとした肉食獣のような肉薄した目をしている。
嫌な予感しかしない。背中に冷たい汗が伝う。
「田口くんって、いま彼女とかいるんですか!?」
「好きなタイプとか、誰かから聞いてたりしません!?」
「付き合えとは言わないんで、せめて連絡先とか教えてもらえませんか!?」
圧。
とにかく、女子たちの放つスピリチュアルな圧が凄まじい。
完全に『義理の兄』を、お目当ての男に近づくための踏み台か案内人だと思っている。
「いや、知らないし……」
俺は引きつった笑みを浮かべながら、曖昧に言葉を濁した。
というか、知っている。
知り尽くしている。
彼女どころか、現在進行形で男の恋人がいる。
しかも、お前らが血眼になって狙っているその超絶イケメン、家では俺の背中に四六時中ベタベタと引っ付いて離れない、超巨大な甘えん坊の大型犬だからな。
───なんて、天地がひっくり返っても言えるわけがない。
「え〜っ、そんなこと言わずに! 絶対にお家で仲良く話してるじゃないですか!」
「お願いです先輩、今度プライベートで紹介してくださいよ〜!」
「悪いけど無理」
考えるより先に、言葉が口をついて出た。
完全なる即答。
言った瞬間、女子生徒たちが「えっ……」と息を呑んで固まった。
「その、あ、あいつ、部活だの何だので色々と忙しい奴だから、そういうの相手にしてる暇ないっていうか……?」
必死に手を振って、しどろもどろになりながら適当な言い訳で誤魔化そうとする。
だが、恋する女子たちはそう簡単には引き下がらない。
「でも田口くん、相川先輩にはめちゃくちゃ懐いてますよね!」
「そうそう! この前も、中庭で先輩の後ろを“兄さん、兄さん!”って大型犬みたいに追いかけていくの、みんなで見てましたもん!」
やめろ。
公衆の面前でその恥ずかしい黒歴史をリアルに再生するな。
俺が羞恥心で顔をしかめ、今すぐその場から逃げ出そうとした、まさにその時だった。
「兄さん♡」
「っ!?」
背後から、鼓膜にすっかり馴染んでしまった、あの低くて甘い声が降ってきた。
終わった。
文字通り、完全にタイミングが終わり散らかしている。
恐る恐る振り返れば、そこには今まさに女子たちが熱烈に噂していた、お目当ての張本人が立っていた。
「あ、田口くん!」
「やばい、近くで見ると本当に顔がいい……!」
直哉の登場によって、どんよりとしていた廊下の空気が一瞬にして華やかに色づく。
しかし、直哉は集まった女子たちをゴミ箱を見るかのような冷ややかな目で一瞥したあと
何事もなかったかのように俺の真隣へと距離を詰めてきた。
肩と肩がぶつかる。
「兄さん、探したよ~」
「お前…なんでわざわざ2年のフロアまで来んだよ……」
「だって、兄さんに会いたかったから」
「ここが学校だってこと、そろそろ脳みそに叩き込め!?」