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周囲の女子たちが一斉にざわつき始める。
だが、直哉はそんな外野のノイズなんてこれっぽっちも気にしていない様子で、俺の顔を覗き込んできた。
「兄さん、今日の放課後は一緒に帰れる?」
「……まぁ、別に委員会とかねぇし、帰れるけど」
「やった。じゃあ、昇降口で待ってるね」
嬉しそうに、ふにゃりと口元を緩めて笑う直哉。
おい、頼むからそんな無防備な顔で笑うな。
周りの女子たちが、付け入る隙のなさに完全に戦意喪失して、撃沈した顔をしてるだろ。
「田口くんって、本当にお兄ちゃんが大好きなんだね……」
遠巻きに見ていた女子の呟きに、直哉は迷いなく、けれどどこか周囲を牽制するような強い瞳で微笑んだ。
「うん。大好きだよ。家でもずーっとくっついてるから」
「おい、余計なこと言うな!!」
俺は真っ赤になって、直哉の制服の腕を力任せに引っ張った。
さっきまでの冷徹な王子様モードはどこへやら、素直に俺に引きずられていく大型犬。
ほんと、こいつの情緒はどうなってんだ。
◆◇◆◇
放課後
帰りの支度を終えて廊下を歩いていると、階段の踊り場のあたりが妙に騒がしかった。
複数の生徒たちが遠巻きにスマホを構えたり、ヒソヒソと話したりしている。
「え、もしかして告白?」
「マジで?1年の田口くんでしょ?相手、他校のめちゃくちゃ可愛い子らしいよ」
人だかり。
そのワードを聞いた瞬間、俺の足がピタリと止まった。
野次馬たちの隙間から見えたその中心にいたのは
やはり、直哉だった。
「……は」
直哉の前に立っている女の子は、顔を真っ赤にして、一生懸命に自分の想いを言葉にしているようだった。
小柄で、守ってあげたくなるような可愛い雰囲気の女の子。
直哉との身長差も相まって、まるで少女漫画のワンシーンのようだ。
その光景を見た瞬間、俺の胸の奥が、冷たい針で刺されたようにザワッと波立った。
別に、付き合ってるんだからあいつは俺のものだ、なんて当然みたいに思っちゃいない。
……いや、本当は思っているけれど。
でも、直哉はあまりにもモテすぎる。
外見も中身も完璧なアイツに比べたら、俺なんて背もちんちくりんだし、可愛げのない男の先輩だ。
普通に考えて、俺なんかよりも、あんな可愛い女の子と付き合った方が───
「ごめん」
人だかりを割って、直哉の低く、冷徹な声が響いた。
俺は思わず息を止める。
「俺、もう好きな人いるから。気持ちには応えられない」
周囲が「あちゃー」「やっぱりか」と落胆の声を上げる。
女の子は今にも泣き出しそうな顔で「そっか……ごめんなさい」と小さく頭を下げて、走り去っていった。
好きな人。
それは、他の誰でもない、俺のことだ。
その事実が急激に頭に血を昇らせ、顔がカッと熱くなる。
何だか見てはいけないものを見てしまった気がして
慌ててその場から逃げ出そうと足を踏み出した、その瞬間。
「兄さん」
「っ」
背後から腕を掴まれた。
見つかった。
振り返ると、直哉が人だかりをかき分けて、真っ直ぐに俺の目の前まで歩み寄ってきていた。
その瞳は、いつになく真剣で、どこか焦ったような色を帯びている。
「なんで俺のこと見てたのに、逃げるの」
「に、逃げてねぇし」