第四の鍵を手に入れた七人は、体育館を抜け出し、息を切らしながら再び廊下を走った。
だが、胸に重く残るのは囁きの言葉――「七人では……出られない」。
「本当に……全員で帰れるんだよね?」
里奈のか細い声に、菜乃花はすぐ答えられなかった。
「……帰れる。絶対に」
そう言ったものの、その声は震えていた。
やがて彼女たちは、美術室の前に辿り着く。
ドアを押し開けた瞬間、冷たい絵具と石膏の匂いが漂った。
窓際には石膏像がずらりと並び、暗闇の中で白い顔が浮かび上がっている。
「うっ……これ、全部こっち見てない?」
穂乃果が身をすくめる。
机の上には、色とりどりの仮面が置かれていた。
能面のようなもの、西洋風のもの、そして無表情の白い仮面。
その中央に、一枚だけ血のように赤い仮面があった。
額には黒い文字で「第五の鍵」と書かれている。
「……また“選べ”ってこと?」
香里が低くつぶやく。
すると突然、教室のドアがバタンと閉まり、鍵がかかった。
ランプがひとりでに点り、仮面の影が壁いっぱいに広がる。
――カタ……カタカタ……。
石膏像の首がゆっくりとこちらを向き始めた。
無数の瞳が七人を見つめる。
「う、動いた!?」
穂乃果が悲鳴をあげる。
やがて放送が鳴った。
――ジジジッ。
『……仮面を選べ。“本物の仲間”を見抜けなければ……お前たちは仮面になる』
七人は互いに顔を見合わせた。
その瞬間――違和感に気づく。
「……え?」
菜乃花が呟く。
隣に立っていたはずの真綾の顔に、白い仮面が貼り付いていた。
表情を失い、ただのっぺりとした顔に変わっている。
「ま、真綾!? なんで!?」
里奈が悲鳴を上げ、駆け寄ろうとする。
だが瑞希が腕を掴んだ。
「待て! 本当に“真綾”かどうか……!」
仮面をつけた真綾は、一歩、二歩と近づいてくる。
口は動かないのに、声だけが響いた。
「わたしを信じて……置いていかないで……」
「やめて……! 本物の真綾ならそんな言い方しない!」
香里が叫ぶ。
混乱する中、理沙が冷静に仮面を睨んだ。
「……本物じゃない。仮面に取り憑かれてる。今すぐ剥がさなきゃ」
瑞希が決断するように前へ出た。
「やるしかない……!」
瑞希が仮面に手を伸ばすと、真綾の体は激しく痙攣した。
「いやあああああっ!」
力任せに仮面を引き剥がすと、真綾は膝から崩れ落ち、涙を流しながら震えていた。
剥がされた仮面は床に落ち、粉々に砕け散る。
そして机の赤い仮面の裏から、また一つ小さな真鍮の鍵が現れた。
――「5」。
「……これで、第五の鍵」
理沙が拾い上げたが、誰も喜ぶ声は出せなかった。
恐怖に加え、心に芽生えてしまった疑念――
次に仮面をかぶるのは、自分かもしれない。