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リフェアリー
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三つの御殿の、三人の長が、商店街の文房具屋の前に、集まった。
権田の枕元の男。自分で決める男。どっちでもない男。それぞれ、千人前後を抱えていた。それぞれ、倉庫を一つずつ、押さえていた。
集めたのは、要ではなかった。会長だった。会長は、三人の顔を、知っていた。二年前、商店街に、三人とも、米を買いに来たことがあった。権田の部下として。
「権田さんが、預けると言った」要は、三人に、紙を見せた。権田の印。歪んだ字。
自分で決める男が、鼻で笑った。
「権田さんは、倒れてる。倒れた人間の判断は、判断じゃない」
「判断です。右手は動く。右目は見える。印は、権田さんが押した」
「おれは、認めない。おれの千人は、おれが食わせてる。おれの倉庫で」
「倉庫の米は、あと、どのくらい」
男は、答えなかった。
「三ヶ月だと、権田さんは言った。三つの倉庫、合わせて。一つなら、一ヶ月です」
「……それで」
「一ヶ月後、あなたの千人は、何を食べますか」
男は、黙った。
枕元の男が、言った。
「おれは、権田さんの判断に従う。預ける。だが、預けて、何が変わる。米は、増えない」
「増えません。でも、米の代わりに、仕事が回る。商店街で、二年、回ってます。髪を切る。屋根を直す。子どもを預かる。千二百行」
「千人の仕事を、台帳で」
「三千人の仕事を。三冊で。三つの倉庫に、一冊ずつ」
どっちでもない男が、初めて、口を開いた。
「……おれは、どっちでもない。権田さんにも、こいつにも、ついてない。おれの千人は、たまたま、おれの倉庫に、いただけだ。預けるも、預けないも、おれが決めることじゃない」
「じゃあ、誰が」
「千人が」
要は、男を見た。
「千人に、聞くんですか」
「聞く。おれは、権田さんじゃない。千人の顔を、毎日見る目がない。だから、千人に、聞く」
要は、少し、息を吐いた。
三つの御殿。三人の長。一人は、権田の判断に従う。一人は、自分の判断を守る。一人は、千人に聞く。
三つとも、違った。三つとも、間違っていなかった。
「……三つとも、やりましょう」要は言った。
「三つとも?」
「枕元の方の千人は、権田さんの判断で、市に入る。自分で決める方の千人は、あなたの判断で、今は入らない。一ヶ月後、倉庫が空になったとき、もう一度、聞く。どっちでもない方の千人は、千人に聞く。入りたい者だけ、入る」
「ばらばらだ」自分で決める男が言った。
「ばらばらです。三つの御殿は、もう、ばらばらだ。ばらばらを、一つにしようとしたら、権田さんと同じになる。一人の判断で、三千人を。僕は、それはしない」
「じゃあ、お前は、何をする」
「三冊を置く。三つの倉庫に。三冊を、月に一度、照らす。それだけです。入る、入らないは、三冊に書く。入った人の仕事を、三冊に書く。書いた分を、証にする。証で、商店街の物と、長野の米を買う。入らない人は、倉庫の米を食べる。倉庫が空になったら、また、聞く」
*
翌週、三つの倉庫に、三冊の台帳が置かれた。
枕元の御殿では、千人のうち、八百人が、名前を書いた。残りの二百人は、様子を見ると言った。
自分で決める御殿では、長が、三冊を、倉庫の入口に置くことだけ許した。名前を書く者は、いなかった。長が、書くなと言ったからだ。でも、三冊は、そこにあった。
どっちでもない御殿では、千人が、三日かけて、話し合った。長は、何も言わなかった。三日目、六百人が、名前を書いた。四百人は、書かなかった。
千四百人。
商店街の十四軒と、千四百人。要は、三つの倉庫を回り、三冊を照らした。つむぎは、千四百人の顔を見た。三日で、四百人。一週間で、千四百人には、届かなかった。でも、会長と、肉屋と、八百屋が、残りを見た。
「仕事は」要は、千四百人に、聞いて回った。
答えは、千四百通りあった。
大工。電気工事。看護師。教師。料理人。運転手。経理。プログラマ。美容師。農家。清掃。警備。全部、二年前、大剥離の前に、やっていたこと。
「電気工事は、電気がない」要は言った。
「発電機なら、直せる」電気工事の男は言った。「商店街の発電機は、燃料がない。燃料があれば、直せる」
「燃料は」
「御殿の倉庫に、ある。権田さんが、トラック用に、貯めてた」
要は、三冊に書いた。『電気工事、一名。発電機修理。燃料、御殿倉庫より』。
一週間で、三冊が、三百行になった。千四百人が、千四百の仕事を、三冊に書いた。書いただけで、まだ、回っていなかった。回すには、証が要る。証を作るには、紙が要る。紙は、文房具屋のコピー用紙。
「コピー用紙で、証を作る」要は、会長に言った。「印は、四つ。会長と、枕元の方と、どっちでもない方と、一ノ瀬さん」
「自分で決める方は」
「まだ。一ヶ月後」
会長は、コピー用紙の束を、机に置いた。
「五千枚、ある」
「五千枚。上限は、まだ、決められない。東京の物の量が、わからない」
「じゃあ、どうするの」
「最初は、仕事の量で。千四百人が、一週間に、どれだけ仕事をしたか。それを、枚数にする。物の量じゃなく、仕事の量で、上限を決める」
「それ、木曽と、違う」
「違います。東京は、物がない。仕事がある。だから、仕事が、金になる。十三条です」
会長は、少し、笑った。
「私の掟が、東京の金を決めるのね」
「会長の掟が」
コメント
1件
**はる。** 第66話「三つの御殿」、読んだ。 権田が倒れてからの後継問題、三人の長それぞれの対応がめちゃくちゃ良かった。「自分で決める」「枕元に従う」「千人に聞く」──どれも間違ってなくて、要は無理に一つにまとめず「三つともやる」と決めたのが、この人のリーダーシップだなって思った。 特に「どっちでもない」長のスタンス、好きだわ。トップが決めるんじゃなくて、当事者である千人に聞くって誠実すぎる。しかも要はそれすらも否定せず、入りたい者だけ入る形にしたところに「無理強いしない強さ」を感じた。 最後の「会長の掟が」ってセリフ、めっちゃ痺れた。システムと人間の距離感が絶妙な回だった🔥