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「仁さん前に俺のこと特別だって言いましたけど…仁さんの俺に言う「知りたい」ってどういう意味なんですか……?」
少し鋭い質問になったかもしれない。
仁さんは、俺の質問に一瞬黙ってから、まるで言い訳をするように、でもどこか優しい声で言った。
「……そりゃ、特別は特別だよ」
「な、なるほど?」
仁さんの言葉に、俺は曖味に返事をするしかなかった。
特別、その言葉が、俺の胸の中でぐるぐると回る。
仁さんの「知りたい」が、一体どんな意味を持っているのか、それが知りたくてたまらなかった。
◆◇◆◇
そうこうしているうちに夕食の時間がやってきて
ピザやチキンをテーブルに広げ、真ん中にケーキを置く。
映画を見ながら食べていた時とは違う、ちょっと特別な食事。
どれも美味しくて、わいわい話しながら食べてい
く。
すると仁さんが皿に取り分けたケーキー切れを完食したところで
「てか、ホール買う必要あったか?普通にちっさいスイーツだけ買って食うだけでも良かったよな」
と、思い出したように言い出した。
「確かにそうですね…でも、せっかくのクリスマスだし、仁さんと同じもの一緒に食べたかったので」
俺がぽろっと言葉を零すと、仁さんはケーキを見つめてから言った。
「もしかして、そのためにあのとき〝やっぱこっちのケーキにしましょ〟って言ってくれた?」
「はい、そうですけど」
当たり前のように返すと
「…そっか、全然、俺のことなんか気にしなくていいのに」
「それはダメですよ!二人で食べるのに、俺だけ美味しいと思っても楽しくないですもん」
そんな会話の後、仁さんはまたケーキをひと口食べる。
「美味しいですか?」と聞くと、仁さんはもぐもぐしながら「ん」と言ってうなずく。
その短い返事に、嬉しさがこみ上げる。
ほんの数ヶ月前までただのお客だった仁さんとクリスマスを過ごしてるなんて
出会った頃の自分が聞いたら驚くだろうなと思った。
そんなちょっとしたやり取りが楽しくて、俺は頬が緩んだままケーキにフォークを刺し込んで掬うと、口に運んだ。
口の中にクリームの甘さが広がり、幸せな気分になる。
そんな俺につられてか 仁さんも自然に笑みを浮かべていた。
その笑顔にまた俺の心が弾むのを感じた。
◆◇◆◇
夕食を食べ終わり、11時を迎えた頃だった。
仁さんがおもむろに立ち上がり、何も言わずに棚の中から紙袋を取り出してきた。
その小さな紙袋を差し出しながら、仁さんは言った。
「あとさ…今日、楓くんに渡したいものあったんだ」
「え、なんですか?」
仁さんから紙袋を受け取り、中を見る。
中にはラッピングされた手のひらサイズの箱が入っていた。
「俺からのクリスマスプレゼント」
と、ぶっきらぼうに言う仁さんに俺は思わず声を上げた。
「え?!き、聞いてないです……!」
「そりゃ言ってないからな」
「なんだろっ……てもう中身見ていいですか?!」
とテンション高く問いかけると、仁さんは笑いながら言った。
「…….いいけど、大したものじゃないから」
そう言いながらも、どこか照れている様子の仁さんを見て、俺も嬉しくなる。
丁寧に包装を剥がし、箱を開けると
中から出てきたのは、手触りの良いグレーのマフラーだった。
「わ、マフラー…!これちょうど欲しかったんです!!」
受け取った瞬間、思った。
あ、この人、本当にちゃんと俺のこと見てくれてるって。
嬉しくて心から微笑むと、仁さんも優しく目を細める。
嬉しくて心から微笑むと、仁さんも優しく目を細める。
「これからどんどん寒くなるし、仕事行くときとかそれ使って」
その言葉に、俺は笑顔で頷いた。
「はい、さっそく明日から使いますね!」
そう言いながら、俺は胸がいっぱいだった。
仁さんの、少し照れたような優しい笑顔がそこにあった。
ぶっきらぼうに「大したものじゃないから」なんて言っていたけれど
その瞳の奥には、俺が喜んでいるのを確かな目で見ていたことがわかる。
紙袋から取り出したばかりのマフラーを、両手でそっと握りしめた。
しっとりと指に吸い付くような、このなめらかな手触り。
きめの細かいカシミヤだろうか、肌触りが抜群に良い。
落ち着いたグレーの色合いは、どんな服にも馴染みそうで、まさに俺が欲しかった色味だ。
まさか、仁さんからクリスマスプレゼントがもらえるなんて。
そのサプライズに、俺の胸はまだドキドキと高鳴っている。
普段から口数が少なく、感情をあまり表に出さない仁さんが、俺のためにわざわざプレゼントを選んでくれたのだ。
その事実が、何よりも嬉しくて、全身が温かくなるのを感じる。
ラッピングを剥がす時の高揚感
箱を開けた時の期待、そして中からマフラーが出てきたときの感動……
どれもが宝物のように心に刻まれていく。
「気に入ってくれたなら、よかった」
仁さんの声は、いつもよりもずっと柔らかく、耳に心地よかった。
このマフラーが、これから冬の寒い朝
俺の首元を温めてくれるんだ。
そんな風に思うと、大切にしないわけにはいかない。
「本当にありがとうございます!俺、まさかプレゼントがもらえるなんて思ってなくて……」
俺の言葉に、仁さんはふっと控えめに笑った。
その少しはにかんだような笑顔を見るたびに、俺の心は温かいもので満たされる。
彼の言葉の端々、視線
そしてこのマフラーから、彼の不器用ながらも深い優しさが伝わってくる。
いつの間にか、仁さんの存在は俺の中でとても大きなものになっていた。
最初はただの仕事相手だったのに、今では彼の前でこんなにも素直に感情を出せる。
それが、嬉しいような、少し恥ずかしいような不思議な感覚だった。
「楓くん、それ、今巻いてみたら?」
不意に仁さんが提案してきて、俺は「え、今ですか?」と間抜けな声を出してしまった。
ちょっと照れくさいけれど、仁さんが俺のために選んでくれたものだ。
どんな感じか見てほしいと言われれば、断る理由なんてない。
頷いて、マフラーを首に巻いてみる。
少しもたついてしまったけれど
ふんわりと首元に馴染んでいく感触に、思わず目を閉じて深呼吸した。
「どうですか……?」
そう問いかけながら、俺は恐る恐る仁さんの顔を見た。
彼の唇の端が、緩やかに上がっている。
その優しい、そして少し照れたような笑顔に、俺の心臓はきゅっと締め付けられた。
まるで、真冬の凍えるような夜に
遠くで輝く星の光を辿って、辿り着いた暖の温かさに包まれたような、そんな心地よい衝撃だった。
「似合ってる。すごく、いい」
仁さんの言葉は、飾り気のない、たったそれだけだった。
けれど、その短い言葉の中に、俺への優しい気持ちがぎゅっと詰まっているのがわかった。
顔が熱くなるのを感じて、俺は思わず俯いてしまった。
こんなにも真っ直ぐな言葉を、仁さんから向けられるなんて。
照れてしまって、どう反応していいか分からなくなる。
でも内心、全身が幸福感に包まれていた。
「仁さんからのプレゼント、大切にします!お返しに今度なにか渡しますね。」
「わざわざいいのに」
「俺もなにか仁さんに渡したいので」
「そうか。じゃあ、期待しとく」
改めてマフラーを両手で優しく撫でた。
明日からの通勤路が、少しだけ特別なものになる予感がする。
このマフラーを身につけるたびに、今日の出来事を、そして仁さんの優しい笑顔を思い出すだろう。
きっと、雪が降り積もる真冬の朝も、これがあればきっと乗り越えられる。
何よりも、この温かさが、俺の心を強く支えてくれるに違いない。
「仁さん、俺……今日すごく楽しかったです。クリスマスに一緒に過ごすのが、仁さんで良かった」
心からそう思う。
するとさんは、俺の頭に手を置いて、優しく撫でてくれた。
「……俺もだよ、急に誘ったのにすぐOKくれたし」
「はは、本当はほぼ同時に朔久からも誘い来てたんですよね」
「は、よかったの?行かなくて」
「さ、最近仁さんと中々会えてなくて、会いたかったので…誘ってくれてすごく、テンション上がっちゃいまして……っ」
「そ、そうか…」
呟く声が優しくて、思わず胸がきゅっと締め付けられた。
「あの…仁さんはなんで今日、誘ってくれたんですか?」
俺がおずおずとそう聞くと、仁さんは少し間を置いてから言った。
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