💚「ねーえ、しょうたー」
阿部が、ひらがな風に俺を呼ぶ時は大抵甘えたい時か、お願いがある時。
さっきまでソファで二人で冠番組のオンエアを一緒に見ていたはずだった。俺は途中で寝てしまっていて、気がついたら阿部の膝の上に…。
いつの間に、どうしてこうなった。
阿部が上から覗き込んでくる。
💚「俺さ俺さ、炬燵欲しいんだよね、こ・た・つ」
💙「えぇ?要る?」
💚「要るよ〜。炬燵に入ってみかん食べて、テレビ見たいじゃん」
💙「うーん」
💚「あ。もちろん、翔太の分のみかんは俺が剥いてあげる♡」
💙「…………」
貴重なオフ被りに家電量販店に、二人で行った。
💙「へぇ。俺が知ってる炬燵と違うな…」
💚「でしょでしょ?今は色んなのあるよー」
…………こいつ。下見済みか。
阿部はまるで売り場担当の社員みたいに、俺にあれやこれやとプレゼンしてくる。
色々見てみたけど、結局、昔ながらの炬燵がいいってことになって、二人用の小さい炬燵を買った。冬の間は、ソファ前のテーブルをしまって、代わりにこれを置くことに決めた。
それからしばらくは、家に帰ると、阿部が、カタツムリのように炬燵を背負っているのをたびたび見かけるようになった。
💚「翔太、おかえりー」
💙「……ただいま。飯は?」
💚「………あ〝」
俺より3時間も早く帰宅していたはずの阿部は炬燵に寝そべって、いつの間にか本気で寝ていたらしい。
まあ、こいつも何かと忙しいし、阿部が作らなきゃ作らないで出前を取ればいいだけの話だけど…。
💙「ちったぁ片付けろ💢」
炬燵周りが汚れてるのだけは、俺には許せなかった。
俺は再三、炬燵の周りに集まった阿部の本や参考書、机の上に散乱したお菓子のゴミを片付けるように言ったし、俺自身も見かけるたび片付けていたのだが、次の日にはなぜか悪い夢のように元通りになっている。
そんな日々が続いたある日のこと。
💙「ただいま」
💚「Zzzz………」
💙「またかよ💢💢💢」
とうとう我慢の限界を超え、ブチギレた俺は、阿部が眠っているのも構わず、炬燵の電源を切ると、炬燵を持ち上げてどかした。
炬燵をどかしてみると、置いてあった場所がわかるくらいに周囲をぐるりと、参考書やゴミが散らばっている。
そしてその中央には、だらしなく涎を垂らしてうつ伏せで寝ているカタツムリの本体が。
💙「…………起きろ」
💚「んぁ?」
腰の辺りを強く踏んづけると、阿部はようやく目を覚ました。
💚「なに……って、さむっ!!!!!」
💙「さむ、じゃねぇよ。炬燵は捨てる。怠惰を直せ」
💚「えぇ???」
寝起きでまだ自慢の頭も働かないのだろう、ぼんやりしたままの阿部を足でどかし、俺は逃げる阿部を吸い込む勢いで掃除機をかけまくってやった。
………ようやく事態を飲み込めたらしい阿部が後ろから抱きついてくる。
💚「ねーえ、しょうたぁ、こたつはぁ?」
💙「捨てる」
💚「そんなご無体な…」
阿部はうるうると情で俺に訴えかけてくるが、そんなのには金輪際誤魔化されない。
阿部が堕落して家事をしなくなったのは別にいい。そんな些細なことで俺はキレたりしない。
でも、炬燵と一体化して、だらしなくなって、部屋を汚すのだけは我慢がならない。
💙「炬燵なんて要らん!」
阿部は最後まで何やらぶーぶー言っていたけど、俺は全部無視した。
そして、哀れ、数日間の命だったうちの炬燵は、炬燵を欲しがっていた後輩の家へと笑顔で引き取られていった。
炬燵大好きな寒がりの阿部はしばらくしょんぼりとしていたけれど、俺の方はと言えばこれで心の底からせいせいしたし、スッキリした。やはり炬燵は、寒さに弱い人間にとって冬の魔物なのだ。さっさと退治するに限る。
💙「ふう。これでやっと元の生活に戻れる…」
💚「翔太」
💙「なんだよ」
💚「炬燵がなくなったんだから」
💙「ん?」
💚「翔太が俺をあっためて♡♡」
そう言って、阿部は、後ろから強引に俺を抱きしめると、冷たい手を服の中に突っ込んで、腹を撫でて来たから、怒った俺に全力ではたかれるのだった。
💚「………った!!!頭はやめてよぉ」
阿部の情けない声が、すっきりしたリビングに響き渡った。
コメント
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目に浮かぶ😂😂😂さすがだなあ💚💙は今日も絶好調ですね笑


強気な💙珍しいと思いました笑 片付けと掃除だけには厳しいし 怠惰なことも嫌なのねぇ🤭