「AVじゃないんですから!」
悲鳴に似た声を上げると、涼さんはニヤリと笑った。
「へぇ? 恵ちゃん、AV見るタイプなんだ」
「ウッ……、ウゥウ……、…………あ、…………アニマルビデオ…………」
使い古された言い回しを口にすると、彼は横を向いて噴き出し、くっくっと笑って肩を震わせる。
「ホント、恵ちゃんは可愛いよね。……あー、可愛い……。本当にうちの中にしまっておいて、誰にも見せたくなくなるな」
「それは監禁罪です」
「夫婦になった場合、どうなのかな?」
彼は不意に思い立ったように言うので、私はブンブンと首を横に振る。
「夫婦でも、同意がなかったらアウトです。ダメ、ゼッタイ」
「ふぅん? ……なら、同意があったらいいの?」
涼さんはスルリと私の頬を撫で、チュッとキスをした。
「恵ちゃんの事が大好きで、他の男に見せたくない。女性にも嫉妬してしまうな。鎖をつけて監禁なんてしない。フワフワのベッドで日がなゴロゴロしていていいから、この家にいて、俺の帰りを待っていてほしい。……駄目?」
彼の甘い声が耳朶をくすぐり、そのまま脳がとろけてしまいそうだ。
「……駄目人間になる……」
うーっ、と眉間に皺を寄せてうめくと、涼さんはクスクス笑ってもう少しスカートを上げ、膝にキスをしてきた。
「正直、俺の事しか考えないで生きてほしいけどな」
「うわ……、サイコパス……」
ドン引きすると、涼さんは私の頬にキスをして微笑む。
「そういう俺も好きでしょ? 引いてるように見えるけど、『顔がいい』って思ってるくせに」
う……っ!
そう言われ、私は目を見開いて固まる。
涼さんは「顔がいい」なんて言われ慣れているだろうし、女性にそう言われるのを嫌ってると思っていた。
だからあまり口にしないようにしていたけれど、すべてお見通しだと言わんばかりに指摘され、恥ずかしいやら気まずいやら……。
「ね、恵ちゃん。俺の顔好きでしょ?」
涼さんは確信めいた表情でニコニコ笑い、私を見つめて顔を近づけてくる。
「お……っ、思ってる……っ、けどっ」
この顔をまともに見たら駄目だ!
メデューサを見たみたいに釘付けになって、メロメロになってしまう……。
そんな生き恥、晒したくない……!
かたくなに視線を逸らそうとすると、彼は両手で私の頬を包んで正面を向かせる。
「ううう……」
うなって視線を泳がせていると、涼さんは私の頬をスリスリモチモチと弄びながら言った。
「『顔がいい』と思ってるなんて言ったら、俺に嫌われると思ってる?」
ズバリ言い当てられ、私はチラッと涼さんの顔を見た。
「うーん、やっぱり恵ちゃんは何もかも反応が正直だね。……まぁ、想像してる通り、そういう褒め言葉は嫌というほど言われているし、逆に何とも思わなくなってるかな」
「……何とも思わない〝ゼロ〟より、むしろそれ目的で近づいた女性には、マイナスな印象を抱くんじゃないですか?」
「まぁね」
涼さんはニコッと笑い、正解のご褒美と言わんばかりに私の額にキスを落とす。
「でも、恵ちゃんが俺の顔を好きだと言ってくれるなら、プラスに捉えるよ。君はまだ俺に対して物凄く遠慮している。なんなら、少しでも場違いとか釣り合わないと感じたら、すぐにでも逃走してしまいそうな感じがある。俺はそんな恵ちゃんを繋ぎ止めようと必死なんだ」
またしてもすべて見透かされ、私は気まずさ一杯になる。
「『ここにいてもいいかも』と思う理由に、『顔のいい男を毎日見ていたい。それを独り占めしたい』という感情があるなら、どんどん利用したいと思ってるほどだ」
「そんな……。顔だけなんて思ってませんよ……」
モソモソと言うと、涼さんはいい笑顔になる。
「それ、じっくり聞きたいな。俺は、俺に興味を持たない女性たちからは『金と顔だけの男』って思われてる。恵ちゃんもすぐ逃げてしまいそうで、いまいち自分の魅力に自信を持てていないし、君が俺に魅力を感じてくれているなら、ぜひ言語化して教えてほしい。俺は何においても自信満々な男に思われがちだけど、やっぱり褒められたら嬉しいんだよ。それも、ただ他人に褒められるだけじゃない。好意を寄せた君が褒めてくれるなら、この先大体の事は頑張れそうなエネルギーになると思う」
そう言って、涼さんはキラキラした目で私を見つめてきた。
……ま、眩しい……。おやつか散歩を前にした犬みたいだ。
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